- Ⅰ 経済学習の改革
- 1 経済に対する子どもの疑問とその働き /池野 範男
- 2 社会科における経済学習の問題点 /池野 範男
- 3 子どもの疑問から出発する経済学習 /池野 範男
- (1) 経済学習の改革の視点
- (2) 資本主義経済に関する論点・争点
- (3) 資本主義経済学習の新たな教材
- (4) 子どもの素朴な疑問から出発する経済学習の基本構造
- Ⅱ 暮らしの中の経済:教材化と授業づくり
- 1 こんなにスーパーができて大丈夫?
- ―暮らしの中の経済の変化 /矢田 和宏
- (1) 身近な疑問:スーパーマーケットH社の出店
- (2) 現代の販売戦略:ドミナント出店戦略
- (3) 販売に関わる学習の現状と問題点
- (4) 現代の販売戦略が見える社会科学習指導案
- 2 なぜお金はどんどん印刷してはだめなの?
- ―貨幣経済のしくみを学ぶ /大江 和彦
- (1) 子どもの素朴な疑問から出発する経済学習
- (2) 貨幣経済や金融政策に結びついた子どもの疑問
- (3) 単元の構成と計画
- (4) 単元の指導案(略案)
- 3 あなたの持ち株はどうなった?
- ―株のシミュレーション授業をしよう /高橋 真理
- (1) 子どもの疑問「どうして株の値段は毎日ニュースにでてくるの?」
- (2) 教科書に見られる株に関する学習
- (3) 子どもの疑問に答える授業づくりの視点 ~家計と株の結びつき
- (4) 「株式学習ゲーム」を取り入れた授業と問題点
- (5) 子どもの疑問から出発した株の授業づくり
- 4 どうしてみんな大きな家に住めないの?
- ―自由競争が生み出す不平等 /伊藤 直哉
- (1) 子どもの疑問「どうしてみんな大きな家に住めないの?」
- (2) 論点・争点につながる疑問
- (3) 目標としての社会問題の解明と教材としての市場の論理
- (4) 指導計画と指導案
- Ⅲ 企業の論理と経済のしくみ:教材化と授業づくり
- 1 ものの値段はどうやって決まるの?(1)
- ―需給の法則 /佐藤 健
- (1) 水から見える世界
- (2) 「飲料水」の学習の現状と問題点
- (3) 生きた経済の学習
- (4) 単元「値段のひみつ~水から見える世界~」(複式中学年)
- 2 インフレはなぜ起こる?
- ―経済政策とは何か /栗原 久
- (1) インフレに対する基本的な見方・考え方
- (2) インフレに対する子どもの疑問
- (3) インフレに対する子どもの理解の現状
- (4) インフレに関する学習の問題点
- (5) 子どもの疑問から出発したインフレの授業づくり
- 3 ベンチャービジネスについて学ぼう
- ―金融の働きを学ぶ /鈴木 文人
- (1) 生徒の疑問
- (2) シミュレーション教材「ベンチャービジネスゲーム」
- (3) 授業実践の経過から
- (4) シミュレーション教材の意義
- Ⅳ 経済の論理と政府の働き:教材化と授業づくり
- 1 なぜお金は日銀だけしか印刷できないの?
- ―資本主義経済と政治のしくみ /中原 朋生
- (1) 「資本主義経済と政治のしくみ」に迫る「子どものこんな疑問」
- (2) 「タテマエ」ばかりの制度・理論学習?「資本主義経済と政治のしくみ」の「現実」に迫れない社会科
- (3) 子どもの疑問からはじめる公民授業づくり
- (4) おわりに
- 2 ものの値段はどうやって決まるの?(2)
- ―独占禁止法と公共料金制度 /松碕 信
- (1) 子どもの疑問「ものの値段って,だれがどうやって決めているの」
- (2) 小学校中学年における経済学習の問題点
- (3) 子どもの疑問に答える教材の開発
- (4) 子どもの疑問から出発した独占禁止法と公共料金制度に関する授業づくり
- 3 資本主義経済の光と影
- ―ハローワークとホームレス /鵜木 毅
- (1) 「どうしてフリーターやホームレスの人が増えているの?」
- (2) 日本経済の現実を追求できる疑問―従来の経済学習の問題点―
- (3) 日本経済の光と影―階層拡大社会と社会の危機―
- (4) 小単元の計画
- (5) 小単元の展開
- Ⅴ グローバル時代の経済:教材化と授業づくり
- 1 豊かなのにどうして飢えが起こるの?
- ―南北問題と飢餓の構造 /植田 健
- (1) 南北問題に対する子どもの疑問
- (2) 問題の本質につながる子どもの疑問
- (3) これまでの南北問題の授業の問題点
- (4) 南北問題の授業の構想と教材―「戦略」への着目
- (5) 単元「豊かなのにどうして飢餓が起こるの?」の計画
- 2 世界的企業のグローバル化とNGOの役割―環境問題のビジネス化 /橋本 康弘
- (1) 世界的企業に対する子どもの疑問
- (2) 世界的(多国籍)企業に関する経済学習の問題点
- (3) 子どもの疑問に答える教材の開発
- (4) 小単元「世界的企業の経営行動とそのグローバル化―森林ビジネスと環境問題―」
- 3 EUのゆくえと世界経済システムの方向
- ―21世紀・経済システムはどこに向かうか /吉村 功太郎
- (1) 価格への疑問とこれまでの経済の授業
- (2) 子どもの疑問から出発した世界経済システムの教材開発
- (3) 子どもの疑問から出発する「EUの統合政策」の授業づくり
- 参考文献
- 執筆者一覧
まえがき
社会科においてどうして資本主義経済を教えるのでしょうか。現代社会の一つの側面として,経済があるからでしょうか。確かにどの社会にも,政治,経済,社会,文化という側面があります。それが理由なら,現代経済という名でもよいのではないでしょうか。
どうしてわざわざ「資本主義経済」と言うのでしょうか。現代経済を「資本主義」と呼び,学ぶには,それなりの理由があるのではないでしょうか。
同じ問題を持つ政治を事例にすると新たな考えが見えてくるように思われます。現代政治は,民主主義政治と呼ばれ,民主主義というメカニズムによって組織されることに社会的意義をもっていると考えられています。これと同様に考えてみますと,経済は,資本主義というメカニズムによって組織されることに社会的意義を見出すことができるのではないでしょうか。
経済の現実に目を向けてみると,21世紀に入り,日本経済は低成長,停滞の時代に突入したことを実感させられるようになりました。いまや,現実の経済も混沌としているのが現状でしょう。そして,その評価も混乱しています。
日本の資本主義経済,世界の資本主義経済はこれまでの概念や枠組みでは捉えることができない事態に陥っていると言えるでしょう。
社会の動きが見えないこのときにこそ,経済学習の意義を十分に発揮するべきではないでしょうか。現実が見えないから,一歩後退し,基本概念を教えることやこれまでの学問成果を伝達することで満足していては,子どもたちに,これまでの経済学習と同様に,つまらない,わからないものにします。
子どもたち自身,つねに,経済の中で生きており,資本主義経済を感じています。そして,いろいろな疑問や問題をもって生活していることは,実際に小学生や中学生を教えられている先生方が最もよく知っておられることです。
子どもたちがもっている素朴で本質的な疑問を追求していくと,現在,社会で論議されている経済の核心的な問題につながっていることを見つけることができるものです。
本書は,『社会科教材の論点・争点と授業づくり』の第8巻『“資本主義経済”をめぐる論点・争点と授業づくり』として,資本主義経済の論点・争点を子どもの日常もっている素朴な疑問からアプローチしようとするものです。社会科における経済学習が,子どもたちにとって身近で,そして関連したものであると理解できるものにしようというのが,意図するところです。
そのために,第1章では,子どもの疑問から出発する経済学習という考えをのべ,第2~5章では,暮らしの中の経済,企業の論理,政府の働き,グローバル経済という視点を定めて,子どもたちがどんな疑問をもっているのか,それを教材解釈,授業づくりにどのように活かしていくのかを述べています。
子どもの疑問から出発することで,子どもたちが,今問題になっている経済の問題点,経済認識や経済政策をめぐる論点・争点,少なくともなぜ問題なのかを理解しやすくすることは確かでしょう。そしてそれは,次世代の子どもたちが,経済を含んだ社会を作る基盤を獲得するため,また,その社会を作る能力を獲得するためにも必要なことではないでしょうか。
読者のみなさまが,経済学習を子どもの疑問から出発し,経済の本質へ導く手だてを本書からみつけていただければ,と願っています。
本書の編集に際しては,山根栄次(三重大学),猪瀬武則(弘前大学)の両先生にアドバイスをいただきました。ここに記して感謝申し上げます。また,樋口雅子編集部長には,企画,編集,出版にそれこそ「親身になって」ご助力を頂戴いたしました。及川誠さんには,校正など,細々としたことまでご配慮いただきました。お二人に,心より感謝申し上げます。
/池野 範男
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- 明治図書