- まえがき
- T章 社会科(公民)授業はどう変わるのか
- ――「知識・技能」活用型授業への転換――
- §1 学習指導要領はなぜ変わるのか
- §2 社会科授業の何が変わるのか
- §3 公民的分野はどう変わるのか
- §4 公民的分野の「知識・技能」活用のコンセプトを解説する
- U章 社会科(公民)新授業メソッド
- ――「知識・技能」活用型授業の創造――
- §1 「知識・技能」活用型指導法の提案
- §2 教材(授業)開発の視点
- §3 公民的分野の特質を踏まえた展開モデル
- §4 評価の改善
- V章 公民新授業メソッド
- ――「知識・技能」活用型ファックス教材集――
- §1 私たちが生きる現代社会と文化
- 1 現代日本はどのような社会か?―日本の少子高齢化を調べ,説明してみよう!―
- 2 異文化と共に生きるためには何が必要なのか,考えてみよう!
- 3 私たちは物事をどのように決めているか調べ,どんな決め方が望ましいか自分の考えをまとめてみよう!
- 4 決まりは何のためにあるのだろうか? ―自分の考えをまとめてみよう!―
- §2 私たちと経済
- 1 品物の値段の変化を調べ,市場経済の仕組みを説明してみよう!
- 2 社会の中でお金がどのように動いているかを調べ,金融の働きを説明してみよう!
- 3 食品(お菓子)で死亡事故が起きた! ―企業の役割と責任について説明してみよう!―
- 4 職業調べから,働くことの意味について説明してみよう!
- 5 国や地方公共団体は私たちに何をしてくれるの? ―その役割を説明してみよう!―
- 6 なぜ税金を払わなければならないのか? ―自分の考えを説明してみよう!―
- 7 政府に集まった税金の使い道を調べ,何に使うべきか自分の考えをまとめてみよう!
- §3 私たちと政治
- 1 私たちの生活に,どうして法が必要か考えてみよう!
- 2 憲法を守るのは誰か? ―憲法とは何かを説明してみよう―
- 3 地方自治体の政治に参加する意義を訴える広告をつくろう!
- 4 消費税を納めることも憲法も私たち国民が決定している!
- 5 裁判員制度について調べ,私たちが司法に参加する意義を説明してみよう!
- §4 私たちと国際社会の諸課題
- 1 世界平和のために日本に何ができるのか? ―自分の考えをまとめてみよう!―
- 2 地球温暖化防止のために自分たちが実行できることをきめてみよう!
- 3 低炭素社会を実現するためのよりよいエネルギーの利用について考えよう!
- 4 貧困課題を解決するために,自分は何ができるのだろう? ―自分の考え方をまとめてみよう!―
- 5 持続可能な社会の形成という観点から解決すべき課題を取り上げ,自分の考えをまとめた報告書を作ってみよう!
まえがき
現行学習指導要領社会科は,激しく変化する社会に対応できる児童生徒の育成を目指し,学び方や調べ方を身に付けることを重視してつくられた。そして「覚える社会科から,調べて考える社会科へ」といったキャッチフレーズで社会科の授業づくりが目指されてきた。しかし,様々な実践が展開される中で「調査,発表,話し合いは多くなっているものの,話し合いの基盤となるべき共通の知識量が少なくなっていて,深い話し合いになっていない。因果関係や背景,理由等を話し合うには,それなりの知識が必要ではないか」という先生方の声が聞こえるとともに,各種調査からも知識,概念が身に付いておらず,思考も深まらないという結果が明らかにされてきた。
こうした課題を克服する新しい学習指導要領が平成20年3月28日に告示された。この中で特に注目すべきは,知識,概念や技能の「活用」という考え方が示されたことである。これは,学校教育法第30条2項に示された「基礎的な知識及び技能を習得させるとともに,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,主体的に学習に取り組む態度を養う」という考え方に基づいている。調べ方や学び方といった方法だけでなく,知識を使って課題を考え,判断し,その過程や結果を表現することを求めたのである。
これを受け,社会科では,まず学ぶべき知識,概念を明確にし,技能とともに習得させること。そして,それらを「活用」して「資料の読み取り」「解釈」「説明」「論述」という学習活動(いわゆる言語活動)を充実させることを重視して改善が行われている。それは新学習指導要領の各分野の「内容の取扱い」にそれぞれ具体的に記述されている。
例えば,地理的分野では,内容(1)の「エ 世界の様々な地域の調査」について,「様々な資料を的確に読み取ったり,地図を有効に活用して事象を説明したりするなどの作業的な学習活動を取り入れること。また,自分の解釈を加えて論述したり,意見交換したりするなどの学習活動を充実させること」と述べられている。
また,歴史的分野では,「歴史的事象の意味・意義や特色,事象間の関連を説明したり,課題を設けて追究したり,意見交換したりするなどの学習を重視して,思考力,判断力,表現力等を養う」と述べられている。
さらに公民的分野では,「習得した知識を活用して,社会的事象について考えたことを説明させたり,自分の意見をまとめさせたりすることにより,思考力,判断力,表現力等を養うこと」と述べられている。
本書では,以上のような,知識・技能を活用して行う「資料の読み取り」「解釈」「説明」「論述」といった言語活動の効果的な方法を各執筆者が工夫を凝らしながら具体的な授業の姿を通して提案している。その際,一つの仮説に基づいた提案の仕方を行っていることに留意していただきたい。それは,「解釈,説明,論述といった活動は,『どのような意義があるか』『なぜこのようなことが起こるのか』『あなたはこの問題をどう思うか』などの『問い』(疑問形の学習テーマ)に対して回答を行う活動である」という仮説である。そのため,本書の目次を見てもらえばすぐに分かるように,具体的な教材を示したV章ではほとんどが疑問形の学習テーマの形となっている。そして,それらの「問い」に答えるために必要な知識,概念や資料を準備しているのである。
新学習指導要領の趣旨を実現する授業づくりに向けて様々な研究や準備がなされているこの時期に,本書が多くの先生方に役立つことができれば幸いである。
平成21年12月 編者 /大杉 昭英
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- 明治図書