- はじめに
- 1 算数・数学と社会・文化をつなげることの意義
- 1.1 算数・数学と社会・文化をつなげるとは
- 1.2 社会・文化に目を向けるようになったのは
- 1.3 算数・数学と社会・文化をつなげることの意味合いは
- 1.4 数学的な文化を創る
- 1.5 算数・数学と社会をつなげる力は
- 1.6 算数・数学の学習活動
- 2 ペットボトルを使ってブイを作ろう!
- ―小・中・高校における算数・数学と社会をつなげる力―
- 2.1 ペットボトルを使ってブイを作る
- 2.2 小学校における算数と社会をつなげる力
- 2.3 中学校における数学と社会をつなげる力
- 2.4 高等学校における数学と社会をつなげる力
- 2.5 算数・数学と社会をつなげる力の発達的な様相
- 3 理想化された世界と現実とのずれ
- 3.1 理想化された世界と現実
- 3.2 水中の気泡の上がり方
- 3.3 斜面での転がり落ち方
- 3.4 野球のクッションボールの行方
- 3.5 マラソン選手の走る様子
- 3.6 教材化するにあたっての課題
- 3.7 今後の課題
- 4 学習指導計画の作成
- 4.1 算数・数学の題材を探す
- 4.2 題材を教材に変える
- 4.3 学習指導計画を立てる
- (1) 授業の位置付けを明確にする
- (2) 探究の必要性を感じるようにする
- (3) 発問によって子どもの思考を促進する
- (4) 場面の提示の仕方を工夫する
- (5) 実験・観察・調査を積極的に取り入れる
- (6) 教具や道具を積極的に取り入れる
- (7) 話し合いをより重視する
- 4.4 総合的な学習の時間との関連
- 5 小学校の実践例
- 5.1 どちらの学校のさつまいもが重いのかな―3年―
- 5.2 飛ぶ種の模型を飛ばそう―4年―
- 5.3 ゴミ問題について考えよう(環境問題)―5年―
- 5.4 サッカーワールドカップについて考える―6年―
- 〈既習を生かしたサッカー分析(国際理解)〉
- 5.5 交通信号機について考えよう(福祉教育)―6年―
- 5.6 鏡で遊ぼう―4年―
- 5.7 ドーナツ池までどのぐらいあるのか?―5年―
- 5.8 サッカーボールと世界のコイン―5年―
- 5.9 オリンピックに挑戦しよう―6年―
- 6 中学校の実践例
- 6.1 メガホンを作ろう―1年―
- 6.2 ジャンケン大会―1年―
- 6.3 日本スキージャンプ陣は不利になったのか?―2年―
- 6.4 数学新聞を作ろう!―3年―
- 6.5 潮の干満と八・六算法―3年―
- 6.6 ジェットコースター気分のモノレールについて考えよう―1・2・3年―
- 6.7 半減期ってなんだろう―1年―
- 6.8 新通貨「ユーロ」をトピックとして通貨の換算を考える―1年―
- 6.9 電車の動きについて考えよう―3年―
- 7 高等学校の実践例
- 7.1 W杯のチケットの価格を設定してみよう―1年―
- 7.2 ボールを東京ドームの天井に当てるには―1年―
- 7.3 ロックンローラー(二重観覧車)の動き―2年―
- 7.4 清涼飲料水の消費量―1年―
- 7.5 月曜日の朝は寒い!?―1年―
- 7.6 光を大切にしよう!―2年―
- 7.7 ジェットコースターのグラフ―2年―
- 7.8 船の現在位置はどこ?―3年―
- 7.9 懐中電灯の反射鏡を設計しよう―3年―
- おわりに
- 付録 小・中・高校の実践例一覧
はじめに
私たちは,平成6年度から算数・数学と社会・文化の関係について研究してきました。それは,最近の国際調査の結果からすると,わが国の子どもや子どもを取り巻く社会が,算数・数学と離れているのではないかと考えたからです。そこで,社会・文化と算数・数学のつながりに関した実態を明らかにするために,科学研究費補助金の交付を受け*,わが国の算数・数学の教育課程や教科書を他国との比較で調べ,他教科,とりわけ理科における算数・数学の扱いを調べ,また,児童生徒の達成度や先生方や保護者の意識も調べました。一方で,小・中・高校での授業をもとにした実践研究も重ねてきました。
いつしか,子どもや社会が算数・数学から離れているのではなく,算数・数学が子どもや社会から離れていることに気が付きました。社会が算数・数学を軽視しているのではなく,算数・数学が子どもや社会を軽視してきたのではないでしょうか。そこで,算数・数学と子どもや子どもを取り巻く社会・文化とがつながりをもった算数・数学教育を実際に創ることに重点が移っていきました。
多くの算数・数学教育に従事する人々は,数学を愛し,数学の社会における重要な役割を信じています。しかし,多様な価値観が交錯する現在においては,なぜ算数・数学が教育で重要な位置を占めているのかを説明する必要があると思います。算数・数学は,一方で人間本来の探究心に基づいて数学内で発展し,他方で社会との関連で数学外に発展していきます。いずれもが,算数・数学の社会的な価値に関わりますが,本書は,後者の立場から,算数・数学教育の価値を授業を通して具体的に示そうとしたものです。
本書では,第1章から第4章にかけて,算数・数学と社会・文化とのつながりをもった算数・数学教育の考え方,実際の問題をもとにした子どもの考え方の発達の様相,実験のもつ意味,指導計画の立て方を述べ,第5章から第7章にかけて,小・中・高校の実践例や実践計画を示しています。はじめの章から読んでも,または,読者の方にとって関心のある実践から読んでもよいようになっています。
私たちは,平成6年度からおおむね毎月1回土曜日の午後に会合をもち,そこで,実践計画や実践記録また調査結果などを話し合ってきました。本書のいずれの内容も,研究メンバーの間のそのような話し合いを経て作成されたものです。なお,本書に示されている考え方は,研究メンバーが個人の考え方を述べたものであり,所属機関を代表して述べたものではありません。
現在の研究メンバーは,次の通りです。(50音順)
飯田由美子 共立女子学園共立女子中学校
五十嵐一博 千葉県千葉市教育委員会
牛場 正則 東京都足立区立第十中学校
(前・東京都新島村立式根島中学校)
久保 良宏 共立女子学園共立女子中学校
島ア 晃 埼玉県狭山市立柏原小学校
島田 功 成城学園初等学校
高橋 広明 千葉県立松戸六実高等学校
長崎 栄三 国立教育政策研究所
西村 圭一 東京学芸大学教育学部附属大泉中学校
(前・東京都立武蔵丘高等学校)
久永 靖史 共立女子学園共立女子中学校
牧野 宏 埼玉県狭山市立入間小学校
元新一郎 東京学芸大学教育学部附属大泉中学校
宮井 俊充 埼玉県所沢市立山口中学校
私たちの研究会では,1年に1,2回は研究メンバー外の方からお話を聞いたり私たちの研究にご批判をいただいたりしました。とりわけ,飯島康男先生(元茨城大学),富竹徹先生(島根大学),小山正孝先生(広島大学),永野重史先生(放送大学)にはお世話になりました。
そして,昨年8月に亡くなられた島田茂先生には,この研究全体を通して理論と実践の両面からご指導を受けました。先生の編著である『算数・数学科のオープンエンドアプローチ』,『教師のための問題集』などやわが国の算数・数学教育の教育課程の変遷に関わるお話をいただいただけではなく,先生ご自身に実際の問題例をお示しいただくこともしばしばありました。
また,この研究に関心をもたれた多くの方々から,ご意見等をいただきました。さらに,本研究メンバーの勤務校の先生方や子どもたちのご支援も忘れることができません。熊岡昌子さん,鶴見悦子さんには研究を通してご協力をいただきました。そして,本書の出版にあたっては,明治図書の石塚嘉典氏,橘亜希氏に大変お世話になりました。
これらの方々に対して,心よりの感謝の意を表します。
2001年6月 研究代表者 /長崎 栄三
*科学研究費補助金
平成6年度〜平成8年度 「数学と社会的文脈の関係に関する研究」
平成9年度〜平成11年度 「算数・数学科における総合的な学習」
本研究に関わる主な科学研究費補助金報告書(いずれも国立教育研究所刊)
『数学と社会的文脈に関する研究―数学と子どもや社会とのつながり―』1997
『算数・数学科における総合的な学習』2000
『児童・生徒の算数・数学と社会をつなげる力に関する発達的研究』2000
-
- 明治図書