- はじめに
- 第1章 空間図形の学習における空間思考の特徴と発達的指標
- §1 空間思考の意義
- (1)頭の中でどんな操作をしているのだろう
- (2)なぜ空間思考が大切か
- §2 空間思考を捉える観点
- (1)先行研究から
- (2)空間思考を捉える観点
- §3 調査事例における空間思考の特徴と発達的指標
- (1)第一次調査結果の概要
- (2) 「サイコロころがし」の空間像と操作の特徴
- (3) 「立方体の面の同定」における操作の柔軟性
- (4)視点の変更・投影的な見方と回転
- (5) 「展開図からの立体構成」の発達的指標
- (6)応用課題における空間的推論
- §4 空間思考の発達的指標
- コラム1 「因子分析」
- 第2章 算数・数学的活動を生かした空間思考育成の展望
- §1 算数・数学的活動を生かした空間思考育成の展望
- (1)空間思考を育成する算数・数学的活動の4つの柱
- (2)空間思考を育成する教材開発と指導の全体構想
- §2 空間思考における直観と論理
- (1)直観(イメージ)をつくるもの
- (2)直観(図形の性質を把握する力と図を読む力)を育むもの
- (3)空間思考における直観と論理
- §3 小学校における空間思考育成のポイント
- (1)小学校における 「空間」学習の特徴と現状
- (2)どんな空間思考の育成をねらうのか
- (3)教材と活動との関連でみる空間思考育成のポイント
- §4 中学校における空間思考育成のポイント
- (1)立体・空間図形,その深刻な現状を直視すること
- (2)イメージの機能を熟知すること
- (3)2つの方向からイメージの力動性を捉えること
- (4)空間思考を支える授業構想上の礎石を知ること
- (5)授業に具体的活動を位置づけること
- §5 高校における空間思考育成のポイント
- (1)高校数学における「空間」学習の特徴と現状
- (2)どんな空間思考の育成をねらうのか
- (3)教材と活動との関連でみる空間思考育成のポイントの具体例
- コラム2 「オランダの空間学習」
- 第3章 実践編T 空間思考の育成と変容
- ―小学・中学・高校共通テーマによる実践例―
- §1 小学・中学・高校共通テーマの設定と実践の意義とねらい
- (1)共通テーマ1 「視点の変更・投影的見方」
- (2)共通テーマ2 「空間における位置・位置関係」
- (3)共通テーマ3 「立体の切断」
- (4)共通テーマ4 「空間における回転」
- §2 共通テーマ1 視点の変更・投影的見方
- 小学校 「遠近感を表現する」(4年)
- 中学校 「立体地図を作ろう」(3年)
- 高 校 「三角比―正弦定理・余弦定理の活用―」(1年)
- コラム3 「子どもが表現する空間」
- §3 共通テーマ2 空間における位置・位置関係
- 小学校 「あれ,どこか変だぞ!」(2年)
- 中学校 「直線・平面の位置関係をイメージする」(1年)
- 高 校 「二面鏡のミステリー」(2年)
- §4 共通テーマ3 立体の切断
- 小学校 「積み木の切断」(4年)
- 中学校 「立体の切断面をイメージしよう」(1年)
- 高 校 「立体の切断面を表現する」(2年)
- コラム4 「立方体の切断」
- §5 共通テーマ4 空間における回転
- 小学校 「サインポールの秘密」(6年)
- 中学校 「回転体を捉えよ!」(1年)
- 高 校 「さいころ回転体」(3年)
- 第4章 実践編U 空間思考の育成
- §1 小学校における実践例
- (1) 「かたち」(1年)
- (2) 「はこの中に入ってみよう」(2年)
- (3) 「見取図―コンピュータを使って―」(4年)
- (4) 「立体の構成」(6年)
- (5) 「東大寺を調べよう」(6年)
- §2 中学校における実践例
- (1) 「高次元からの眺め」(1年)
- (2) 「立方体を切断しよう」(3年)
- (3) 「見えない迷路」(3年)
- コラム5 「立方体の分割」
- §3 高校における実践例
- (1) 「階段アート」(1年)
- (2) 「人工のかたちと自然のかたち」(自由研究)(3年)
- 第5章 空間思考を豊かにする素材の発掘
- 1 「オリエンテーリング地図の活用」
- 2 「鏡のミステリー」
- 3 「折りたたみの箱づくり」
- 4 「『迷わぬ』先の杖」
- 5 「遊園地」
- 6 「博物館を鳥瞰せよ!」
- 7 「正方形から閉じた立体を!」
- 8 「立体パズルの創造」
- 9 「シャボン玉(その1)〜最小曲面のモデルとして〜」
- 10 「シャボン玉(その2)〜不思議を楽しむ〜」
- コラム6 「心臓超音波検査」
はじめに
3次元空間に生きるわたしたちにとって,3次元の物体のかたち全体をすべて見ることはできない。物体のかたちや性質を調べるには,具体的なモデルを使う場合には,視点を変える,モデルを回す,投影的に見る,実際に切断するなどして3次元のものを平面図形に下ろして観察し,分析し,頭の中でそれらの結果を3次元に統合するといった操作をしている。
図を使う場合は,図に表されている立体の構成要素や空間関係を捉え,空間的心像をつくり,頭の中で回転や変形を必要とする。その過程で図に表したり,言葉や記号で説明したりする。このように,具体的なモデル,図および言語・記号の間を関連づけ,意味づけるのは,学習者の心的操作であって,知識だけでは対処できない。
空間図形の学習で,児童・生徒は,図から立体をイメージしたり必要な構成や変形ができず,結果の予想や考えの見通しが立たない,図が描けないなど,多くの困難に出会う。現在の指導ではこの空間思考の側面は見落とされ,生活や学習のなかで自然に身につくに任されている。
さらに,平成14年度から実施された学習指導要領では,空間図形の教材は大幅に削除・先送りされた。空間図形を観察する方法として欠かせない,3次元と2次元を関連づける投影的な見方や切断が削除され,平行移動,対称移動,回転移動,拡大・縮小などの図形の変換に関わる内容は先送りされたり削除された。また空間座標の扱いも手薄である。
わたしたちは,平成9−11年の文部省科学研究費補助金による「数学教育における空間思考の育成に関する研究」において,小学・中学・高校生を対象とする調査研究で,児童・生徒の空間思考の特徴および発達的指標を明かにした。それらの成果をもとに,空間思考を育成する教材開発と学習指導開発に関して研究を深めてきた。
本書の特色として次の3点をあげることができる。第一に,教材開発と指導実践の基盤に,調査研究から得られた児童・生徒の空間思考の特徴と発達的指標を共有している。第二に,教材開発ではこれまでの机上の空間だけでなく,生活,遊び,自然,アートと結びつく空間に視野を広げ,指導では育成する空間思考に焦点化した活動になるように工夫している。第三に,小学・中学・高校・大学の教師による共同研究の結集である。
本書は,次の構成をなしている。
第1章 空間図形の学習における空間思考の特徴と発達的指標
第2章 算数・数学的活動を生かした空間思考育成の展望
第3章 実践編T 空間思考の育成と変容 −小学・中学・高校共通テーマによる実践例−
第4章 実践編U 空間思考の育成
第5章 空間思考を豊かにする素材の発掘
第1章では児童・生徒の空間思考の特徴と発達的指標について述べ,第2章では,小学・中学・高校を通して空間思考を育成する展望を示した。第3章と第4章では,本書の最も独創的かつ建設的な成果を提起する。とくに第4章では小学・中学・高校で共通テーマを設定し,どのような空間思考の育成が可能で成果があるか,子どもたちにどのように変容を期待しているかを実践で示している。実践編T,Uでは,素材開発と学習指導開発の両面から,各指導者の独創性と実践研究の深さを読みとっていただけるものと自負している。最後の第5章は今後の実践に取り入れたい素材発掘である。
本書が,日々の授業に空間思考の育成を根づかせ,児童・生徒が空間思考力を高め,空間学習を楽しむことに役立ち,次期学習指導要領に貢献できることを期待する。忌憚のないご批判をいただければ幸いである。
最後に,本書の出版に当たり,編集の労とご助言をいただいた明治図書出版社の石塚嘉典氏に,この場をお借りして深甚の謝意を表します。
平成14年7月 編著者 /狭間 節子
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- 明治図書