- まえがき
- 一 「やまなし」の授業はどうあるべきか
- 1 国語教育の現状から
- 難教材「やまなし」/ 文芸教育受難の時代/ 文芸研のめざす国語教育
- 2 学級の子どもたちの実態から
- 波乱含みの新学期/ 学級の転換点としての「いじめ」/ 「いじめ」を乗り越えて
- 3 「やまなし」の授業の構想
- 【教授=学習過程】《だんどり》《とおしよみ》《まとめよみ》《まとめ》
- 【授業の構想】場面わり/ ねらい/ 主な発問や指示
- 二 「やまなし」の授業の実際(六年)
- 1 はじめの感想
- 2 「わかること」と「わからないこと」
- 視点を検討する/ 「見える世界」と「見えない世界」/ どちらが兄で、どちらが弟か/ クラムボンとは?
- 3 生きるために他の命を奪うことの〈意味〉
- クラムボンはなぜ殺されたか/ 魚のしている〈悪いこと〉とは/ 「しょうがない」けど「しょうがなくない」/ 文芸は問題を提示する
- 4 〈一 五月〉の場面は、どんな世界か
- 異質な矛盾をはらむ二重のイメージ/ 矛盾に満ちた「やまなし」の世界
- 5 あるのでもない、ないのでもない
- [因―縁―果]という考え方/ 現象はあっても実体はない
- 6 「まえがき」と「あとがき」の〈意味〉
- 「まえがき」「あとがき」における矛盾/ 一切は[空(くう)]/ 再び、クラムボンとは?/ 自分自身に実体はないか?
- 7 「あわ比べ」の〈意味〉
- 競争は悪いことか/ [煩悩即菩薩]という考え方
- 8 〈二 十二月〉の場面は、どんな世界か
- 〈二 十二月〉も矛盾に満ちた世界/ やまなしの実は何色か
- 9 谷川の底の世界はどんな世界か
- 〈一 五月〉の世界と〈二 十二月〉の世界を比較する/ [娑婆即浄土]という考え方
- 10 なぜ題名が「やまなし」なのか
- 見えないけれど存在したやまなし/ やまなしが象徴する世界観
- 11 典型をめざす読み
- 学級の歴史に当てはめて/ 自分たちの未来に当てはめて
- 三 「やまなし」の授業を終えて
- 1 おわりの感想
- 2 総合学習としての「やまなし」
- 「教科教育の確立」と「総合学習の展開」の統一/ 「やまなし」は総合学習のミニチュア版
- 3 「やまなし」を学んだことの学級としての〈意味〉
- 学級の歴史をふり返る/ 未来の可能性に目を向ける
- 四 「やまなし」の授業をめぐって(座談会)
- 1 六年生教材としての「やまなし」
- 「やまなし」は難教材か/ 矛盾に満ちた「やまなし」の世界/ 「やまなし」の世界から現実の世界を見る/ 「食う―食われる」関係の積極的な〈意味づけ〉/ 賢治作品と共進化の思想
- 2 「やまなし」と関連・系統指導
- 他教科との関連・系統指導/ 教科学習はモデルの学習/ 「やまなし」の授業と環境教育/ [因―縁―果]という思想
- 3 〈典型をめざす読み〉を
- なぜ題名が「やまなし」なのか/ 「やまなし」の〈典型化〉
まえがき
最近の教育現場は、多くの教師たちが実感しているとおり、昏迷する文教政策によって、戦後、最低最悪の状態にあります。このままでは、子どもたちの花咲く可能性も芽生えのうちに枯渇せざるを得ない危機にあります。
この現状を打開する唯一の道は、子どもたちに「真の学力」を育てる教育を確立する以外にありません。
私ども文芸教育研究協議会(文芸研)は、創設以来、半世紀にわたる歴史のなかで、子どもたちを〈自己と自己をとりまく世界を変革する主体〉に育てあげるために〈のぞましい人間観・世界観の育成〉をめざして、ひたすら研究と実践を地道につみかさねてきました。
〈ものの見方・考え方〉(認識方法)の関連・系統指導の原理に立って、文芸の授業、作文の指導、読書の指導においては、西郷文芸学の理論と方法をふまえ、また、説明文の指導においては、説得の論法をふまえて、〈ゆたかな、ふかい認識・表現の力〉を育ててきました。
本シリーズ『文芸研の授業』は、私ども文芸研の過去半世紀の歴史の到達点を示す企画といえましょう。本シリーズの各巻とも、これまでの文芸研の全国大会に提出されたレポートを中心にまとめたもので、会内外のきびしい批判検討を経たものであります。
全国大会のレポートは、すべて、各サークルの月例研究会において討議をかさねたものを、年二回の全国規模の二日間にわたる合宿研究会に提出し、厳正、綿密な検討を受けたものを大会分科会に提出します。勿論、分科会においては全国各地より参集された教師のみなさんによって、あらゆる角度から批判と助言を受けます。これらの成果をふまえ次の年度のレポートはさらに一層の研鑚をかさね、かくして一つの教材が多くの仲間たちによってすくなくとも十数年の長期の批判・検討を経たものになります。
本シリーズの各巻の執筆を担当した者は、以上の成果を充分に踏まえて、まとめております。したがって、本シリーズのすべての巻は、執筆者一個人の業績というよりも集団的な所産というべきものであります。
たとえ、すぐれたベテラン教師の教材研究・授業実践といえども個人の力量には限界があります。私どもは、仲間・集団の具体的な力の結集の上に一個人の限界をこえる成果を生み出すことをめざしています。
その意味において、本巻を手にとられた読者諸氏にもぜひきびしい、かつあたたかいご批判とご助言をお寄せいただきたいと願っております。
本シリーズは、文芸、説明文、作文、読書の領域はもちろん総合学習やその他の領域にもわたる実践がまとめられ刊行の予定です。
なお、本シリーズのどの巻も、概念・用語はすべて統一されております。一つの基本的な思想・主張・理論に基づいた実践である以上当然のことでありますが、読者にとっては、どの巻から読みすすめられても、概念・用語などの不統一でとまどわれることはあり得ないと信じます。すべての巻が相互にひびき合い、それぞれの成果を相乗的にせりあげるものになるはずです。
巻末には、執筆者とサークル員、監修の西郷との対談あるいは座談会の形式でいくつかの問題点をひきだし、解説を加えることにしました。参考になれば幸いです。
本シリーズでも、これまでと同様、企画から刊行にいたるまで、編集担当の庄司進氏の献身的な協力をいただきました。紙面を借りて厚くお礼を申し上げます。
二〇〇三年七月 文芸教育研究協議会会長 /西郷 竹彦
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- 明治図書
- 西郷文芸学は一度学んで損はなし。2025/3/2250代・小学校教員