- まえがき
- T 数学の授業で何をはぐくむか
- 第1節 「活用」「活用型学習」とは
- 1 「活用」とは
- 2 「活用型学習」とは
- 3 なぜ「活用」「活用型学習」か
- 第2節 未来を豊かに生きるための力をはぐくむ
- 〜国際バカロレア機構(IBO)の教育理念〜
- 1 予測不可能な未来へ向けて
- 2 国際バカロレア機構(IBO)が提唱する教育
- 3 まとめにかえて
- 第3節 数学を活用して社会や文化にアプローチする
- 1 パラダイムの変換を
- 2 数学と社会をつなげる力
- 3 どのようにして力をはぐくむか
- U どのようにして活用型学習を展開するか
- 第1節 問題を作成する
- 1 題材を見つける
- 2 題材を基に問題を作成する
- 第2節 授業をする
- 1 授業計画のどこに位置付けるか
- 2 どのように授業を進めるか
- 第3節 評価をする
- 1 ルーブリックに基づいて評価する
- 2 調査問題を利用する
- V 活用型学習の実践事例
- 第1節 数・量
- バンドウイルカは絶滅するか(1年)
- どこの国のビッグマックが高いか(2年)
- パスタメジャーをつくろう(3年)
- 第2節 関数
- 集まったペットボトルキャップで何人の命が救えるか(1年)
- 富士山の九合目は何度か(2年)
- 喫煙本数が半分になると心疾患は?(2年)
- ジェットコースターの先頭と最後尾,スリルがあるのは?(3年)
- 第3節 図形
- パッチワークの図案をデザインしよう(1年)
- 曲面鏡は平面鏡よりどれくらい広く見えるか(1年)
- 自動車の死角に注意しよう(1年)
- 箱ブランコでの事故を防ごう(2年)
- 東京スカイツリーからどこまで見えるか(3年)
- 電車の中吊り広告はどう見えるか(3年)
- ゴールキックはどこからするとよいか(3年)
- 第4節 確率・統計
- 生まれたころと比べて暑くなっているか(1年)
- クジを引く順番によって,当たりやすさは違うか(2年)
- 碁石の数を推測しよう(3年)
- 第5節 課題学習
- 見える景色を推測して,スケッチしよう(1〜3年)
- 三目並べの戦法を考えよう(1〜3年)
- 復旧する道路を選ぶためのマニュアルをつくろう(1〜3年)
まえがき
私たちはこの本の副題を「豊かに生きる力をはぐくむ数学授業」としました。それは,私たちは何のために数学の授業をするのか,という実に根本的な問題に立ち返り,つくった授業であることを伝えたかったからです。私たちは,子どもたちに未来を豊かに生きてほしい,経済面だけの豊かさや一部の人だけの豊かさではなく,各々が充実感に満ちた暮らしのできる豊かさ,多様な価値観の人々が互いに尊重し合い,平和で安心安全に暮らせる社会としての豊かさを実現してほしい,その実現のために,本書に収めたような授業が必要だと考えたのです。
私たちは,2007年に開校した東京学芸大学附属国際中等教育学校の立ち上げにかかわってきました。その過程で,国際標準の学力を標榜する国際バカロレアの教育に出会いました。そこで私たちが学んだことは,とりもなおさず,子どもたちの未来に必要な力を真正面から考えること,そして,それを全力ではぐくむことでした。すなわち,目先の成果にとらわれることなく,子どもたちに必要な力を考え,その育成に最善だと思われる学習内容,学習方法,評価方法を結集することです。現在の日本の数学教育の姿からみると,この考えはいささか行き過ぎのように映るかもしれません。私たちは,皆さんに,この点も問いかけたいと考えたのです。子どもたちに未来を豊かに生きる力をはぐくむ上で,このような数学の授業がもっと必要だと考えました。皆さんはどう思いますかと。
新学習指導要領では,思考力・判断力・表現力等が注目され,活用型の授業の実現が目指されています。私たちは,教師一人ひとりが,何のために数学の活用を重視するのかをいま一度考えた上で,授業づくりに取り組む必要があると考えています。さもなければ,一時のはやりになってしまう恐れがあるからです。それは,言うまでもなく,子どもたちにとってとても不幸なことです。
この本をきっかけに,「豊かに生きる力をはぐくむ数学授業」をともに考える仲間が増えることを願っています。
最後になりましたが,本書の一つひとつの授業は,様々な研究会等で,実に多くの先生方からいただいた,ご指導ご助言の賜物です。また,明治図書の矢口郁雄氏には,私たちの思いを理解していただき,辛抱強く付き合っていただきました。皆様に心から感謝申し上げます。
平成21年10月 編著者
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- 明治図書