- はしがき ―「算数用具の指導」の意義―
- T章 算数用具指導のポイント
- §1 基礎と発展を見通した指導
- 1 基本の徹底
- 2 指導の継続
- §2 作る活動を重視した単元構成
- 1 活動の条件
- 2 手づくりの算数用具
- §3 技能の習熟を目指した指導のステップ
- 1 量と測定指導の基本ステップ
- 2 技能指導のステップ
- 3 算数用具指導のステップ
- §4 楽しく練習する場の設定
- 1 練習教材の開発
- 2 練習教材の作り方
- §5 算数用具の適切な導入
- 1 算数用具の導入時期
- 2 算数用具の観察
- U章 ものさしの指導
- §1 ものさしの正しい使い方
- 1 ものさしのしくみ
- 2 ものさしの使い方の基本
- 3 ものさしの使い方の発展
- §2 子どもの操作の実態と対策
- §3 ものさし指導のポイント
- 1 手づくり教材のポイント
- 2 導入のポイント
- 3 活用のポイント
- (1) ものさし操作の習熟のポイント
- (2) ものさし操作の習熟を図る練習教材
- 〔どれだけ歩いたかな〕
- 〔すごろくゲーム――何cmすすんでゴールしたかな〕
- 〔もうじゅうが大あばれ〕
- 〔きれいなもようをつくろう〕
- 〔じんとりゲーム〕
- 〔くぎうちゲーム〕
- 〔つららをつくろう〕
- §4 ものさし指導のステップ
- 1 指導の全体計画
- 2 指導事例
- (1) 手づくり教材「鉛筆ものさし」の指導
- (2) ものさし導入の指導
- ◇ ものさし ショート・ショート
- V章 分度器の指導
- §1 分度器の正しい使い方
- 1 分度器の種類としくみ
- 2 分度器の使い方の基本
- 3 分度器の使い方の発展
- §2 子どもの操作の実態と対策
- §3 分度器指導のポイント
- 1 手づくり教材のポイント
- 2 導入のポイント
- 3 活用のポイント
- (1) 分度器操作の習熟のポイント
- (2) 分度器操作の習熟を図る練習教材
- 〔ゆらゆらヨット〕
- 〔円の中の角のふしぎ〕
- 〔サイのしんたいけんさ〕
- 〔くじゃくの羽根をかこう〕
- 〔スペースシャトルはどの星に行く〕
- §4 分度器指導のステップ
- 1 指導の全体計画
- 2 指導事例
- (1) 手づくり教材(チビ角ものさし)の導入
- (2) 分度器導入の指導
- ◇ 分度器 ショート・ショート
- W章 三角定規の指導
- §1 三角定規の正しい使い方
- 1 三角定規のしくみ
- 2 三角定規の使い方の基本
- 3 三角定規の使い方の発展
- §2 子どもの操作の実態と対策
- §3 三角定規指導のポイント
- 1 手づくり教材のポイント
- 2 導入のポイント
- 3 活用のポイント
- (1)三角定規操作の習熟のポイント
- (2)三角定規操作の習熟を図る練習教材
- 〔ビルを完成しよう〕
- 〔新幹線“あさひ号”を動けるようにしよう〕
- 〔動物園をつくろう〕
- 〔君は大工さん! 家を建てよう〕
- 〔敵の宇宙船をやっつけろ!〕
- 〔どのつり糸を先にあげようか?〕
- §4 三角定規指導のステップ
- 1 指導の全体計画
- 2 指導事例
- (1) 手づくり教材「T字型定規」の指導
- (2) 三角定規導入の指導
- ◇ 三角定規 ショート・ショート
- X章 コンパスの指導
- §1 コンパスの正しい使い方
- 1 コンパスのしくみ
- 2 コンパスの使い方の基本
- 3 コンパスの使い方の発展
- §2 子どもの操作の実態と対策
- §3 コンパス指導のポイント
- 1 手づくり教材のポイント
- 2 導入のポイント
- 3 活用のポイント
- (1) コンパス操作の習熟のポイント
- (2) コンパス操作の習熟を図る練習教材
- 〔自転車の車輪〕
- 〔同心円〕
- 〔美しいもよう〕
- 〔くじゃくの羽根〕
- 〔星の世界〕
- 〔折れ線の長さ〕
- 〔ピラミッド〕
- §4 コンパス指導のステップ
- 1 指導の全体計画
- 2 指導事例
- (1) 手づくり教材「雲形コンパス」の指導
- (2) コンパス導入の指導
- ◇ コンパス ショート・ショート
- 引用文献
- あとがき
はしがき
―「算数用具の指導」の意義―
幾何学においては,古来“作図題”は独得の意味と役割が与えられていた。単に求める要件に適合した図形を書くことだけを問うていたのではなかった。「解析」(=どんな道筋で作図方法を着想し得るか,着想の根拠を示す。)「作図」(=「解析」で着想し得た作図方法を順に実行し,それが有効であることを示す。)「証明」(=「作図」で実行された手順が,求める図形を正しく実現するものであることを示す。)「吟味」(=得られた図形のどの部分までが求められているものか,どんな場合に成立するかを示す。)の四段階を経なければ,その完全な解とはいわれなかったのである。
着想と実行の両方に「正しさ」をきちんと述べる他に,さらに作図手段としての器具の種類と使用方法に,特別な制限が加えられていた。「直線を引く」ための用具としての定規,「円を書く」ための用具としてのコンパスを有限回組合せて使用するというのである。
これ程までに,「作図題」を重くみたのは,なぜであろうか。抽象的で,形式的に流れがちな数学的な諸概念が,具体的で,実体として存在するものであることを,「作図」によって示されると考えたからである。しかも,対称な,無限性を持つ基本図形として「直線」と「円」という二つの対照的な単純形を選んでいるところに,この理念が一層はっきりしてくる。
算数指導について語るのに,いきなり理論的数学の思想に触れたのは,この思想が,算数科授業の中で,子どもたちが算数をつくっていく時の筋道を示していると考えたからである。抽象的なものを,具体的で目に見えるもので,複雑なものは,二,三の単純なものからの組合せに,コトバで述べられているものは具体的な作業手順の実行と作業結果との結びつきに切り換えることが大切である。
算数指導では,空間概念の確立のために,どの位のことがなされてきていたか,なぜそれがなされるべきことなのか,どんな段階を経過すべきか,について十分な実践計画が提示されていないように思われる。きちんとでき上った立体図形模型,平面図形模型や具体物についての観察,分類はなされているが,「定規・コンパス・分度器」による作図活動の時間と内容が適切に与えられていない。もっとそれ以前に,その用具自身の指導が不足していることが指摘できる。「これを,……という」という命名と少しばかりの孤立した使用体験で通過していることが一般的である。
本書は,児童の誰もが与えられている用具三種類の本来的な役割を,通常の授業の中でどう指導し,それを算数指導の充実に活用するかについて,実践にもとづいて書きつづったものである。
村松貞次郎(『大工道具の歴史』 岩波新書)によれば,「ブンマワシ」(規)「マガリカネ」(矩),「ミズハカリ」(準縄)は,竪穴住居・古墳の造営時代から使用がみられるとある。我々の「コンパス」三角定規,分度器」も,古代人の「規・矩・準縄」の機能に対応したものを持った用具である。
本書では,本質的な機能と,それを道具として表現する工夫を味わわせるため,どの用具についても,「手づくり用具とその活用」「手づくり用具から標準用具への移行」「標準用具の楽しい練習」の場面を設定して,単に習熟のための反復練習にならないように工夫してある。
コンパスには,形態的な面では(1)腕木型(長さ式)と(2)両脚型(角度式)があるが,前者は半径が明瞭にみえ,後者は,半径は見えにくいが,半径の変化に適応し易いという特徴がある。また“円”を書くという製図機能の他に“長さ”を等長にとるという測長機能を持っている。
定規には,(1)棒状の直角定規……曲りかね,(2)平板の直角定規……一揃いの三角定規があるが,現在の学校数学では,後者だけになっている。しかも,単に直角を作るだけでなく,長さを測る“物指し”や,一対の定規を用いて,平行線を引く役目も果すことができる。
分度器には,(1)全円型,(2)半円型の二つがある。仰角型(左巻方向の測定)と俯角型(右巻き方向の測定)の測定機能の他に,方位確定にも利用できる。このように重層した形態と機能をもつ三種の用具のすばらしさを初発教材として扱うときに,手づくりとして大切にしたいものである。
1986年春 /金子 忠雄
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