- まえがき
- T 魅力あふれる授業で方程式に強い生徒を育てよう!
- U こうすれば方程式に強くなる!
- ―6つの指導ステップと24の授業―
- 1 導入に実験や操作を取り入れ実感の伴った理解に導こう!
- (1) 天秤を使って重さを当てよう! 一次方程式の導入
- (2) 2種類の箱の重さを当てよう! 連立方程式の導入
- (3) 台形水槽の深さを求めよう! 二次方程式の導入
- 2 具体的な操作と方程式の解法をしっかり結び付けよう!
- (4) 操作から移項へ 一次方程式を解くアルゴリズム
- (5) ものの操作から式操作へ 連立方程式の加減法と代入法
- (6) タイルを使って平方完成から解の公式へ 二次方程式の解の公式
- (7) 鶴亀算と連立方程式 現実の操作と式変形の対応
- (8) 刷毛で絵の具を塗った残りの面積は? 二次方程式の解の吟味と解釈
- 3 ゲームや創作問題づくりで楽しく方程式に習熟しよう!
- (9) 方程式オリエンテーリング
- (10) 数当てゲーム 連立方程式の加減法の考え方
- (11) 創作問題をつくろう! 一次方程式・連立方程式
- (12) 誕生日を当てよう! 式が1つしかない二元一次方程式
- 4 グラフで解くことで方程式の理解はグンと深まる!
- (13) 方程式とグラフ 連立方程式・一次方程式・二次方程式
- (14) 自動車の燃費とガソリン量 一次方程式と比例のグラフ
- (15) スノーモービルはスノボーに追いつくか?
- 5 様々な現実世界の問題に方程式を活用しよう!
- (16) 『九章算術』から2000年前の中国の知恵と操作に学ぼう! 一次方程式の比例による解法・連立方程式を解くアルゴリズム
- (17) 増えて減るけどやっぱり増える? ニュートンの問題:数値計算のおもしろさから一次方程式へ
- (18) 多面体をつくりながらその構造を方程式で探究しよう! 一次方程式・連立方程式の活用
- (19) 折り紙から方程式へ(オリガミクスの入り口) 三平方の定理・相似と方程式
- (20) 白銀比と黄金比 二次方程式の図形への活用
- (21) 地球を方程式で感じる野外での実験や観察を! 一次方程式・二次方程式の活用
- 6 よりリアルな課題を探究しよう! ―環境問題を方程式で考える
- (22) ゴミを捨てる場所がなくなる?! 一次方程式の活用
- (23) ペットボトルのリサイクルを考えよう! 変数が2つある一次方程式・文字方程式を解く
- (24) 二酸化炭素濃度が危険ラインに達するのは? 一次方程式・二次方程式で過去のデータから未来を考える
まえがき
「数学に強い子」と言われてどんな子をイメージしますか。数学の知識が豊富で,計算も速く,応用力もある子でしょうか。私自身は,これまで出会った多くの子どもたちの中で,考えることが好きだった子どもたちを思い浮かべます。その子たちは,いろいろなことの中に自分で数学を見つけました。例えば,九九表の秘密を発見することに熱中し,身近な現象を数学で考えることに興味を抱いたのです。そういう子どもたちは,ドリルのためにある解き方を覚え,当てはめることは苦手でした。数学のよさは,自分でじっくり考えさえすれば,忘れてもいつでも再構成できることです。だからこそ,要領は悪くとも意味の理解に徹底的にこだわり,納得いくまで考える子こそ,本当に数学に強くなる子なのです。そして,いったんそのような姿勢を身に付ければ,社会に出ても何かにつけて自分の頭で数学的に考えようとするでしょう。それは,ものごとの中に数理的な構造を見いだし,読み解くことです。
そのような数学の典型が,方程式です。ニュートンの運動方程式F=maを基に,現実の様々な現象を理解することができます。りんごが落ちてくるのに月が落ちてこないのはなぜか,そんなことも考えられるのです。中学生が興味をもつ例では,サッカーボールがあります。五角形と六角形の面はそれぞれいくつか,これも方程式でわかります(本書授業Q参照)。
そういう経験を通して,世界には物理や幾何学に基づく構造があり,それは簡単な方程式で表され,それを解くことで世界をより深く理解できることを実感するのです。
方程式は,また,空間の中の位置や形を考えるための重要な道具になりました。デカルトが創造した解析幾何は,数式の世界と図形の世界を結び付けました。平面上の半径rの円が方程式x2+y2=r2で表されるように,様々な方程式と図形が対応するのです。
方程式を解くことの探究も,人類の歴史のはじめから営々と積み上げられてきました。その頂点に五次方程式の一般的解法が存在しないという,アーベルとガロワによる発見があり,そこから現代数学が始まったのです。
中学生にとっては,一次・二次方程式を解き応用することができればよいので,こんなことまで考える必要はないと思う方もいるでしょう。しかし,現在の中学校の内容にも,方程式の意味を問い直す場面はあるのです。例えば,5x=8の解は普通x=1.6という1つの数です。しかし,2年になると,5x=8を(1.6,0)を通りy軸に平行な直線の方程式とみることも学びます。言い換えれば,5x=8をxの一変数方程式としてとらえれば解は1つだが,xとyの二変数方程式ととらえれば,解は無数にあると言うこともできます。
また,方程式の解の範囲を考えることも重要です。xの一変数方程式5x=8は,整数の範囲で考えれば解はありません。では次の問題はどうでしょうか。
「正午から仕事を始め,x時間働き,夕方になる前に一休みした(xは整数とする)。さらにその4倍の時間仕事に没頭し,終わって時計を見たら,ちょうど8時を指していた。最初休んだときは何時だったか?」
この問題では,5x=8だけではなく,時計は12時間ごとに同じ時刻を指すので,5x=20の場合もあると気付くことがポイントです。この人は仕事に没頭し,気付いたら朝の8時だったのです。したがって答えはx=4,4時だったとわかります。数学的には,mod12で考えると,5x≡8の解はx≡4であると言います。
このように,1つの方程式も様々に考えられます。そのような方程式の深さを垣間見たり,人類の歴史の中で登場する様々な方程式とそれを生み出した文化に触れることも,方程式に強くなる上で大事な意味をもつのです。
本書では,中学校で学ぶ一次・二次方程式の範囲でも,なるべく人類の歴史や文化とかかわる題材を選びました。子どもたちが方程式を抽象的な式とだけみるのではなく,その背後に豊かな具体性を感じてほしいと思います。また,私自身が中学で行ってきた実験・操作・ゲームなども紹介しました。それらも,数学的活動として,授業に取り入れていただければ幸いです。
平成21年10月 小寺 隆幸
-
- 明治図書