- はじめに
- 第1章 これからの数学教育が目指すもの
- ――関数眼・直観と「数学語」による表現――
- [1] 数学の底流にある関数と数学的活動
- [2] 関数眼による課題の把握と「数学語」による表現
- [3] 「数学語」に関する基礎的な読み書き能力の育成
- ――文字の式による整数の性質の説明――
- [4] 直観と言語表現を生かした数学的活動
- ―― 一般化と根拠の探求――
- 第2章 数学的活動を促す教材研究
- ――導入課題の開発を中心に――
- [5] 臨場感あるリアルな場面設定
- ――古典的遊戯「左々立」を連立方程式の導入に――
- [6] 教科書教材をモデルチェンジさせた導入課題
- ――四角形を変身させながら証明の根拠を探る――
- [7] 実態調査を基に小学校との接続を考慮した教材研究
- ――「立方体の三題話」を空間図形の導入課題に――
- [8] 実態調査に重点をおいた教材研究に基づく証明のモデルの導入
- ――8行証明と10行証明の可能性の検討――
- [9] 関数眼を育てる指導計画の例
- ――面積の見方のコペルニクス的転換――
- [10] 「what if not」の考えで教材観の深化を
- ――サプリメントとしての課題学習の導入――
- ◆ティーブレイク@
- 第3章 数学的活動を促す指導の実際
- [11] 簡単にできる教具が数学的活動を促す
- ――ものを動かすことから式表現へ――
- [12] 数学的なコミュニケーションを活かして自然数のワンダーランドを探る
- ――学び合いでつくる理解の文脈――
- [13] 折り紙を使った図形と方程式のコラボレーション
- ――「芳賀の第二定理折り」の逆に潜む数理の解明――
- [14] 図にリアリティーをもたせて直観を育む指導
- ――大きさを測る,その大きさにあった図をかく――
- [15] 数学的活動を三平方の定理へと誘う
- ――紙並べを基にした空の図形への着目――
- [16] 関数眼で「竿秤」の原理を探る
- ――多様な表現が数学的活動を活性化させる――
- [17] つまずきを成長の糧に
- ――学び直しから生まれる深い理解――
- ◆ティーブレイクA
- 第4章 評価の勘所
- [18] 評価・評定は基準の取り方で決まる
- ――2つの角が等しいことの証明を例に――
- [19] テスト問題作成2つの柱
- ――「妥当性」と「信頼性」――
- [20] 「数学的な見方や考え方」に関する問題作成の勘所
- [21] 「数学的な表現・処理」に関する問題作成の勘所
- [22] 自己評価は生徒と教師のコラボレーションで
- ――情意面の評価の1つのあり方――
- おわりに
はじめに
1 本書の基本的立場
これまでに実践したことを振り返り,中学校における数学的な活動が推進できるような授業づくりを志向して,本書を刊行することとした。本書は4章構成で,22の節が設けられている。各節では,筆者が日頃実践し,主として明治図書の月刊誌『数学教育』に発表した事例に加筆修正したものが収録されている。本書ではそれら22の節を,「目標」「教材研究」「指導法」「評価」の4つの柱で編成した。筆者が,これらの実践をしたとき,数学的活動はその背景としてはあったが,本書はそれ自身に光をあて「数学的活動を促す授業」という視点から編成し直したものである。
22の物語は元来が独立した内容であり,それを1冊にまとめることは困難であった。「目標」から「評価」の4つは,一体となっていて本来切り離せないものである。しかし,本書では,授業や指導事例を数学的活動という視点から見るとき,4つのうちのどれに重点をおいて見ていくかということに鑑み,どれか1つの章に特化して収録することとした。
本書で扱われている事例は中学校数学の多くの単元に関わっているが,すべてを網羅しているわけではない。これは,単元を網羅することを目的にしたのではないからである。
2 数学教育の柱と数学的活動
本書を展開するにあたって,数学的活動に関する筆者の基本的立場を述べておきたい。中学校の数学科では,数学的活動を通して「知識・技能を習得する」等の目標を達成するというのが趣旨である。数学的活動は,客観的に観察が可能な外的活動と観察ができない内的活動の双方を含み,問題解決の全過程に関わるものである。筆者はその過程のうち,特に「事象や課題を,『関数の眼』と『直観』でとらえ,とらえたものを数学の言葉(筆者はこれを生徒には『数学語』といっている)で表現すること」の3つに焦点をあてた。これらは学習指導要領に掲げられている目標にexplicitに表現されていることではない。むしろ「目標」の背景とか底流になっている教育の価値を表現したものであり,数学教育の目指す方向を端的に示したものである。いわば,筆者の教育実践の支えになっているものが「関数眼」「直観」「数学語」である。
数学的活動自体は旧学習指導要領の目標にも掲げられていて,目新しいものではない。その数学的活動に,「関数眼」「直観」「数学語」という3つの視点から光をあてたのが本書である。だから,本書では,「数学的活動とはこういうものである」というような定義は行わなかった。本書の主題の「新・数学的活動を促す授業を求めて」の「新」には上述のような意味を込めている。これらのことを簡単に図示しておきたい。
(図省略)
第1章は「なぜ数学を学ぶのか」にふれているが,そこでは,上記の3つの関係や役割について述べてあるので,詳しくは第1章を見ていただきたい。課題意識についてもそこでふれている。
著 者
-
- 明治図書