- はじめに
- 第1章 このドリルを使う前に
- 1 紹介したドリルは2通り
- 2 このドリルを支えるもの
- 3 まずこんな視点で,授業しよう
- 視点1 ノートに考えた足跡を残すことの価値を伝える
- 視点2 自分の考えの変化を残す方法を教える
- 視点3 発展させていくことの面白さを教える
- 視点4 子どもを鍛える交流の場をつくる―現代版「算額」
- 視点5 すぐできるノートを育てる2つの方策
- 4 追究型ドリル使用上の注意
- 第2章 追究型ドリルのすすめ
- 1 たし算カードゲーム(1位数の加法)……1年
- 2 虫食いひき算(繰り下がりのある減法)……1年
- 3 虫食いたし算(2位数の加法)……2年
- 4 カプレカー数に挑戦(2位数の滅法)……2年以上
- 5 近い九九探し(九九・あまりのある割り算)……2年・3年
- 6 虫食いたし算(3位数の加法)……2年・3年・4年
- 7 カプレカー数の秘密(3位数の滅法)……3年以上
- 8 虫食いかけ算(2位数×1位数)……3年
- 9 虫食いかけ算(3位数×2位数)……3年・4年
- 10 9で割る計算の秘密(3位数÷1位数)……3年以上
- 11 虫食いわり算(3位数÷2拉数)……4年・5年
- 12 円の中の角度の秘密(角)……4年以上
- 13 4つの3を使って(計算の順序)……4年以上
- 14 一枚の工作用紙で箱を作る(直方体)……4年以上
- 15 直方体の展開図探し(直方体)……4年以上
- 16 テトラボロで正方形作り(図形)……4年以上
- 17 2つの三角定規でできる角(角)……5年以上
- 18 いろいろな作図(合同な図形)……5年(4年)
- 19 7で割る計算の秘密(割り進みの計算)……5年以上
- 20 エジプトの分数(分数の加法)……5年以上
- 21 虫食い分数足し算(分数の加法)……5年以上
- 22 容積最大の箱作り(体積)……5年以上
- 23 虫食い分数かけ算(分数の乗法)……6年
はじめに ――今,なぜ追究型ドリルか
無味乾燥なドリルの世界に,何かを追い求めて探していく面白さを吹き込みたい。先生から○問やりなさいと言われたからやるドリルではなく知らず知らずのうちにたくさんの練習を繰り返していた。そんなドリルを作りたい。
追究型ドリルはこんな思いから出発した。
「関心・意欲・態度」を重視した授業づくりが求められている。
だが,その反面,「関心・意欲・態度」を重視した教育を推進していくことによって学力は落ちるのではないかという不安の声も出ている。
ある学者は真の「関心・意欲・態度」を育てれば知識・理解や技能は自ずとついてくるものであると主張する。私もその考えに同調したいのだが,その域に達するまての道のりはやや長そうだ。やはり現場では当面ドリルも必要なのだという考え方の方が根強い。
理想を語っても切実なものが目の前にある先生方にとって,「関心・意欲・態度」を育てるという言葉は絵にかいた餅になってしまいかねない雰囲気もあるという。しかし授業の時には関心や意欲を高く評価し,子どもたちに望ましい態度を育てようと努力していたとしても,ドリルの時間になると人が変わったように詰め込み主義の教育をしていたのでは,子どもにも親にも説得力がないのではないだろうか。
ここは,ひとつドリルをやりながらも,育てたい子どもの姿を追っていくことを考えてみよう。
ここで育てたい子どもの姿とは「一を聞いて十を知る」というようなたくましき「関心・意欲・態度」を身につけた子どもである。
自分で新しい世界を切り開いていく力と言い換えてもよい。
ひとつの問題にこだわりその解決に努力していく過程で,そこから広がる新しい世界にも働きかけていくことを楽しいと感じる子どもを育てたいと思うのである。この想いを「追究」というキーワードに凝縮した。
第2章で紹介したドリルはいずれも子どもたちが面白がって取り組んでくれるものばかりだと自負しているが,第1章で述べたいくつかの視点で子どもたちの意識を育てておかないと単なるパズルに終わってしまう。
それどころか,正解に辿り着けない子は,難解なパズルで苦しめられただけに終わってしまうということになりかねない。
途中まででもいいからノートに自分の考えの足跡を残すこと,ひとつの問題を解決した後で更にその問題の発展を作っていくことを楽しむ力。
追究型ドリルはこの2つの力に支えられてこそ効果を生み出していく。
また,ここでは計算の力だけではなく,量や図形の感覚を磨くこともドリルの役目に入れてみた。さらに,この繰り返しを推進していく原動力がゲームなどの副産物に支えられるのではなく,数量や図形の世界の面白さにあるようにしたいとも考えた。なかには,私の教え子たちの作った楽しい問題もいくつか混じっている。いつも教師が問題を与えるのではなく,原題をどんどん子どもに発展させて楽しませていくと,大人ではなかなか思いつかないような問題を子どもたちが作ってくれるようになる。子どもの発想の豊かさに教師が驚かされること請け合いである。
社会科や理科のように算数の世界でも追究していくことの楽しさを感じてくれる子どもが増えることに,この追究型ドリルが少しでも役立ってくれればいいと願っている。
本書は平成6年4月号から平成7年3月号までの「教材開発」誌(明治図書)での連載を元にして加筆修正し,まとめたものです。
最後になりましたが本書の出版を実現して頂いた明治図書編集部の江部満氏,樋口雅子氏には心より厚く感謝申し上げる次第です。
平成7年5月 /田中 博史
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