- はじめに
- 第1部 数学教育におけるコンピュータ利用に対する基本的な考え方
- 第1章 作図ツールの開発・研究における基本的な考え方
- 1.1 教育研究と教育実践のための「道具」としてのコンピュータ
- 1.2 安易な利用は教育目標を阻害する
- 1.3 日頃の授業で「やりたいのにできない」ことを見いだすことが出発点
- 1.4 ソフトを使って「楽しむこと」
- 1.5 新しい数学的経験を生むコンピュータ
- 1.6 議論の面白さを生むコンピュータ
- 1.7 ソフトウェアの実体
- 1.8 数学観を考え直す手掛かりを与えるコンピュータ
- 1.9 可能性を広げる人的ネットワーク
- 第2部 作図ツールを使った「活動」とその授業化
- 第2章 何が問題か
- 2.1 ソフトだけでは教育は変わらない
- 2.2 ソフトと教科書のミスマッチ
- 2.3 教科書で想定している学習活動と異なる例
- 2.4 キーワードとしての「活動」
- 2.5 授業研究の重要性
- 第3章 何を実践し,検討するか
- 3.1 活動の抽出とその授業化の可能性の検討
- 3.2 開発者と授業者の違いの明確化
- 3.3 基本的な手続きとケーススタディにおける構成
- 第4章 「活動」の授業化−ケーススタディを中心に−
- 4.1 図形を動かして調べる
- 4.2 問題の条件変え
- 4.3 紙と鉛筆を使って予想したことをコンピュータで確かめる
- 4.4 測定値の変化や不変性を調べる
- 4.5 作図によって条件を満たす点の集合を調べる
- 4.6 移動や変換を(で)考える
- 4.7 不可能の証明
- 4.8 共通する性質の発見
- 4.9 補助線や測定項目を追加しながら調べる
- 第3部 作図ツールを利用した問題設定の指導と評価
- 第5章 問題設定への作図ツールの活用とその意義
- 5.1 探究の文脈下での問題設定
- (1) 問題文を作る活動と仮説・検証型の探究活動
- (2) 探究の文脈下での問題設定の意味
- 5.2 問題設定に作図ツールを利用することの意義
- 第6章 問題設定活動に現れる情意と評価
- 6.1 問題設定活動に現れる情意
- (1) 情意面の内容とそのみとり
- (2) 情意の変容
- (3) 情意の改善
- 6.2 問題設定の授業の評価計画とその実際
- (1) 問題設定の授業計画・評価計画
- (2) 評価の実際
- (3) 数学観の現れとしての評価行為
- 第7章 問題設定の授業の実際と評価
- 7.1 画面からの問題設定のねらい
- 7.2 問題設定の授業の実際
- 7.3 課題について
- 7.4 評価のねらいと方法
- 7.5 事例についての評価例
- 7.6 実践の分析と類型化
- 7.7 「評価」と「学習者の思考モデル」
- 7.8 チーム・ティーチングによる授業実践
- 7.9 実践の考察と今後の課題
- 付記:ソフトについて
- おわりに
はじめに
作図ツールは図形の探究を大きく変える.教師である私たちも新鮮な発見の喜びを感じ,図形の意外な面白さを感じる.そして,それを原動力にすると,今までできなかった新しい図形の授業を生み出していくことができる.これが私たちの結論であり提案である.
「作図ツール」というのは,作図,変形,測定,軌跡等を行えるソフトの総称である.これまでの定規とコンパスによる作図,フリーハンドによる作図は静的なものであったが,作図ツールで書いた図は「動かして」みることができる.基本的にはただそれだけのことなのだが,想像以上に図形の探究が変わるのだ.口で説明しても伝えにくかったことが,一目瞭然になる.「一目瞭然」と言うものの,同じ現象を見ていても,その中のどこを見ているのか,どう解釈しているのかは生徒によってまったく違う.そこを議論させるとなかなか面白い.生徒自身に動かさせるとさらに広がる.動かし方は多様だ.20台のコンピュータがあれば,20通りの実験をしているようなものである.教師が思ってもいなかった事実を生徒が発見し,考えたこともなかった問題を提案することなど日常茶飯事になってくる.そういう探究のための道具が作図ツールである.そういうソフトを使うとどんな授業ができるのか,そこに本書の出発点がある.
本書では,主として Geometric Constructor というソフトを使っているが,作図ツールと呼びうるソフトは Geometric Constructor だけではない.この種のソフトが世に出てからまだあまり時間が経っていないのだが,世界の各地でほぼ同時に同様のことをねらったソフトが開発され,使われ始めている.現在,国内で市販されているものだけでも,カブリ, GeoBlock,Geometer's Sketch Pad,Geometric Writer などがある.市販されていないもの,海外でのみ稼働していて国内では入手困難なものを挙げていけばかなりの数になるだろう.もっとも,ねらいは同じと言っても,それぞれの設計や使い勝手は異なる.それらを比較しながら,自分に合ったソフトを見つけるといいだろう.
多くの作図ツールがすでに開発されているとはいえ,それらを使った「授業」の姿についてはまだまだ未知のことが多い.私たちは私たちなりの教材研究と授業研究を行ってみたが,まだまだ多くの可能性が手つかずのまま残っている.私たちの実践記録としてだけでなく,そのような手つかずの可能性を探すための一つの資料として使っていただくことを願っている.
また,この共同研究は,愛知,新潟,神奈川,北海道の4県という広域にわたるものだった.ソフトが生成する学習環境は場所を選ばない.コンピュータさえあれば,フロッピィをコピーするだけで再現できる.しかし逆に,関心が共通していないと授業の意図さえ伝わらない.ソフトを使った研究を有効に進めようと同好の士を募れば,おそらく各地に点在することになるだろう.それを単なる「点在」でなく,ネットワークとして結びつけることができれば,いろいろな可能性が広がっていく.そのようなネットワークづくりのための一つの礎として利用していただければ幸いである.
北海道地区に関しては,大久保,礒田がまとめ,他の3県に関しては飯島がまとめた.それを反映して,研究の柱も北海道グループとその他とで分けている.北海道グループは,以前から場面からの問題設定について研究を行ってきていたので,問題設定の授業に焦点を当て,特に評価のあり方について検討した.他の3県では,「活動」の授業化をテーマにした.そのため第1,2部と第3部はそれぞれかなり独立しているが,具体的な事例を比較していただければ,多くの共通点があることを感じていただけるだろう.
なお,本書は「数学教育」に連載された「コンピュータで授業を変えよう」(93.1〜94.4)を基にしている.本連載は共同研究の進行と並行して行ったので,共同研究の実況中継でもあった.今回,書籍としてまとめなおすのに当たって,読みやすくするために全体の構成を修正したが,できるだけ実況中継の雰囲気は残すように心がけた積もりである.また,4章では,本書を手掛かりに教材研究や授業研究を進めるための方針を追加した.本書が,改めて図形の面白さを体験され,図形指導の魅力を発見されるきっかけの一つとなれば,筆者にとって望外の喜びである.
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- 明治図書
- 場面からの問題作成3部作の第2作。作図ツールを利用した状況からの問題作りの方法が、状況からの問題作成として記されている。事例として局所的体系作りが話題にされている。2011/8/26