- はじめに
- 第1章 数学科における「問題解決」
- 1 「問題解決の授業」への転換―なぜ「問題解決の授業」なのか―
- 2 「問題解決」の歴史的変遷
- 3 学習指導法としての問題解決
- 第2章 「問題解決の授業」の実際
- T 授業の構成
- 1 「説明中心の授業」と「問題解決の授業」
- 2 「問題解決の授業」の流れ
- 3 「予想」の重視
- U 「問題」の工夫
- 1 「問題解決の授業」での「問題」
- 2 問題づくりの視点
- 3 「問題」で変わる授業―2つの授業の比較から―
- V 学習指導法の工夫
- 1 問題提示の工夫
- 2 多様な見方や考え方の取り上げ方,まとめ方
- 3 板書の工夫―問題の解決過程を重視する板書―
- 4 数学での学習指導,7つの見直し
- W 教科書の活用
- 1 「問題解決の授業」と教科書
- 2 8つの活用例
- 第3章 「問題解決の授業」と評価
- 1 「問題解決の授業」に生きる評価
- 2 テスト問題の改善と工夫
- 第4章 「問題解決の授業」のために
- 1 「数学教育の目的」の見直し
- 2 授業観の転換―「問題解決の授業」を目指して―
- 3 教師自身の関心・意欲
はじめに
数学の授業を改善していくことが求められている.そして,「問題解決の授業」への転換が強調されている.しかし,例えば,次のようなことが話題になったり,質問として出されることがある.
・数学での問題解決の授業とは,どのような授業か
・問題解決の授業でのよい問題をつくるにはどうしたらよいか
・学習指導法として改善,工夫すべきことはないか
・問題解決の授業は,教科書を使わない特別な授業なのか
・自分の授業を改善していくにはどうしたらよいか
本書は,これらの事柄についての方向性や具体例も示しながら,数学科で「問題解決の授業」を実現し,定着させていくための,授業の全体像をまとめようとするものである.
私は中学校現場での15年間,普段の数学の授業で「問題解決の授業」を実践してきた.そして現在,大学での算数科教育法や数学科教育法の授業では,教師を目指す学生たちに「問題解決の授業」の意義や実際を伝えるとともに,90分の教育法の授業そのものにおいても,一方的な講義式の授業ではない,「問題解決の授業」を試みている.
小学校算数科では「問題解決の授業」が広く実践されており,問題解決に関する多くの本が出版されている.しかし,中学校や高等学校の数学科での「問題解決の授業」に焦点を当てた本は少ない.
そこで本書では,私のこれまでの実践と研究をもとにしながら,数学科での「問題解決の授業」についてまとめることにした.20年間の教師生活の中で,私なりに考え,蓄積してきた授業観や指導法などをできる限り紹介し,普段の授業に生きる「問題解決の授業」を目指して,具体的な提案を心がけたつもりである.したがって,本書は数学科での「問題解決の授業」についての総論や解説書ではない.私自身の実践をもとにした,「問題解決の授業」のひとつの提案である.
なお,本書に先立って,私は2年ほど前に,明治図書から『「予想」を取り入れた数学授業の改善』を出版させていただいた.「予想」は「問題解決の授業」で大きな位置を占めるものである.しかし,「予想」を取り入れるだけで「問題解決の授業」が実現するわけではない.本書では,「予想」を含めた,より広い視点から「問題解決の授業」の全体像を探っていきたい.
本書の各項目に関連する内容として,私はこれまで,次のページに示すような論文を発表してきた.さらに,本や雑誌等に発表してきたものも含めて,それらに加筆,修正を加えながら,『数学科「問題解決の授業」』としてこの1冊の本に集約する.
本書は,4つの章から構成されている.第2章は,他の3章に比べて「実践編」としての性格が強い.しかし,どの章においても,理論と実践を分けるのではなく,理論と同時にできる限り実践例を示し,「授業実践に生きる理論」を目指した内容にしたいと考えた.
本書が,数学科の授業を改善していくことにつながり,また,「問題解決の授業」が普段の数学の授業として定着していくための,ひとつのきっかけになれば幸いである.
最後になりましたが,『「予想」を取り入れた数学授業の改善』に引き続き,企画や出版にあたってお世話になりました,明治図書の立花正夫氏に厚くお礼申し上げます.
平成9年2月 /相馬 一彦
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- 明治図書
- 学習者が考えることを楽しめるような「問題解決の授業」の実現を目指し、本書での学びを今後に生かしていきます。2020/1/620代・学生