- はじめに
- T 生徒が「数学する」数学の授業
- 1 「問題解決的」授業の見直し
- 2 授業構想の基本にある考え
- (1)生徒のあり方
- (2)教師のあり方
- (3)授業のあり方
- 3 授業の構成
- (1)基本となる内容を概観する段階
- (2)生徒による課題の自己設定の段階
- (3)課題の追究と価値ある数学の創造の段階
- (4)新たな課題を設定していく段階─生徒の「論文例」─
- U 生徒が「数学する」数学の授業実践
- [第1学年の実践例]
- 1 正の数・負の数 :負の数って何だろう
- 2 文字と式 :文字式って何だろう 「ゼロの逆数はロゼ?」
- 3 関数 :比例・反比例から関数の世界をのぞいてみよう
- 4 空間図形 :空間図形って何だろう
- [第2学年の実践例]
- 1 不等式 :不等式って何だろう 「χの0乗について考える」
- 2 1次関数 :1次関数って何だろう
- 3 図形の基本的な性質 :角って何だろう
- 4 三角形・四角形 :三角形・四角形の性質探し
- [第3学年の実践例]
- 1 式の計算 :文字式の乗除はどこまでできるんだろう
- 2 平方根 :無理数って何だろう
- 3 2乗に比例する関数 :関数って何だろう
- 4 円 :円の性質を探ろう
- あとがき
はじめに
第1章を読み始めると,「いったい,これは何を言おうとしているのだ」と,イメージが湧かず首を傾げられる方もおられることでしよう.さらに,2章へと読み進むと,「いったいこれは何だ,こんなものは数学の授業ではない」と,眉をしかめられるかもしれません.それほどに,この授業構想と授業実践は混沌としております。秩序を前提として効率的な収束を求めていこうとする授業観に対しては挑戦的ですらあります.
なにしろ,導入時には教師が関与するものの,その後は,ほとんど,個々の生徒が自らの「問い」をもち,自由に追究し,自分なりの作品として「論文」を書き,それをもとに議論し合い,自分達の数学を構成し,新たな「問い」をも生み出していくという授業なのですから.
なぜ,そうした授業のあり方を構想し,実践したのか.それは,私達が,「学ぶ」ということは本来そうしたものであり,創造的な「学び」というものは,「混沌」の中で「問い」をもつことから始まり,追究を通して「秩序」の形成に向かい,再度,「混沌」とした「問い」へと連なっていくラセン状の過程であると考えているからです.それはまた,文化の創造過程と考えてもよいと思います.私達は,そうした認識を「数学の授業観」の基底に置いています.
もちろん,不安がないわけではありません.こうした「学び」が,生徒の内で開花してくれるだろうか,どのように開花するのだろうか,当面の現実的な要請に対して耐え得るものだろうか,と考えたりします.しかし,一方では,近い将来,こうした「学び」のあり方が求められ,当然のこととして受け入れられていくのではないかという期待と信念もあります.本書の内容は,それに向けての私達自身の「問い」への追究であり,そこから新たな「問い」を生み出していこうとする過程でもあります.
授業構想をはじめ,授業実践の実際も,いまだ未熟であり,多くの問題点を残しています.忌憚のないご批判,と意見をいただければ幸いです.
平成9年10月1日 /岡本 光司
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- 明治図書