- はじめに
- 1 「ずれ」で創る算数の授業
- /志水 廣
- はじめに
- ○つけ法と復唱法
- 「ずれ」の場面1
- 「ずれ」の場面2
- 「ずれ」の定義
- 三角図
- 復唱法の演習
- 記憶のモデル
- 短区切り法
- 内化と外化
- 松本元氏の文章から
- 先に答えがある
- 2 理論編
- 【研究主題】 「ずれ」を追究する算数科授業の創造 〜共感的理解を通して〜
- 1 研究全体構想図/ 2 研究の基本的な考え方/ 3 研究の仮説/ 4 研究の方向/ 5 成果と課題
- 3 「ずれ」を追究する算数科授業の実践
- 【1学年の実践】
- たしざんから ひきざんへ(のこりはいくつ ちがいはいくつ)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- どちらのせんが ながいでしょうか?(ながさくらべ □□の○こ分)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 【2学年の実践】
- 入れたのだからたし算だろう(たし算かなひき算かな)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- これって三角形? 四角形?(三角形と四角形)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 【3学年の実践】
- あまったおだんご,どうしよう…(あまりのあるわり算)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- どちらがどれだけ重いでショー(重さしらべ)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 【4学年の実践】
- 分ける・取る・動かす(面 積)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 何をいくつに分けたの?(分 数)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 【5学年の実践】
- 内角の和をもとめよう(四角形)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- どこに注目したらいいのだろう(同じものに目をつけて)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 【6学年の実践】
- 分母が違うぞ,困ったな(分数のたし算・ひき算)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 分母と分子がひっくり返るって?(分数のわり算)
- 「ずれ」を追究するための単元構成について/ 本時の目標/ 評価基準/ 学習の展開/ 「ずれ」の構成と追究/ 「ずれ」のさらなる追究をめざして
- 4 「ずれ」の授業のアラカルト
- 言葉に表れる「ずれ」(大きな数)
- 式に表れる「ずれ」(かけ算の筆算)
- 操作に表れる「ずれ」(小数のたし算・ひき算)
- 式に表れる「ずれ」(変わり方のきまり)
- 抵抗感として表れる「ずれ」(100までのかず)
- 操作に表れる「ずれ」(平均とその利用)
- 参考文献・引用文献
- あとがき
はじめに
「ずれ」について学校独自で研究した本がこの本である。
昨年(2004年)度の当初,1本の電話がかかってきた。旧知の大下美津子校長先生からである。私どもは「ずれ」の研究をしているのだという。しかも,私の研究を参考にさせてもらっているという。とても嬉しい思いがした。
私は,2003年に『「ずれ」で創る算数の授業』(明治図書)を出版した。そこでは,「ずれ」が授業を活性化させると断言して,「ずれ」の理論化を図り,それとともに多くの実践例を取り上げた。とても地味な研究ではあるが,子どもと共に創る授業を考えていくと,「ずれ」を対象にした研究に行き着くと考えている。
古くは,学習心理学においては,バーラインやハントらは,「ずれや不適合が知的好奇心を引き起こす」と主張している。日本では,上田薫(1990)は,『ずれによる創造』という本で「ずれ」による教育を提唱している。
私は,独自の視点で算数の授業を分析したところ,教師と子どもの発言の「ずれ」に気がついた。子どもの発言を教師は正確に復唱できないのである。復唱していても,付け足したり,意味を解釈したり,変更したりするのだ。これでは,授業の場で教師と子どもが果たしてコミュニケーションが成り立っているのだろうかというのが,問題の発端である。
「12このあめを3人に同じ数ずつ分けると……」と話したのに,「12このあめを3人に分けると」或いは「12このあめを3こずつ分けると」と誤って復唱するのはどうしてなんだろう?という授業での気づきから生まれたのである。
上田薫は,先の本の中で,「コミュニケーションの完全な成立,計画の完全実施とはいかなることか。その完全さにこだわってしつように追究することによってのみ,ずれはその存在理由を確保できる」と述べている。
このように,人が人に教育するのであるから,当然言語を媒体としてコミュニケーションを図る。コミュニケーションは意味と感情が相互に情報交換できることである。ところが,言語に対する認識はその人が生まれ持ってきた経験によって情報のバックボーンが異なるのである。だから,どうしても「ずれ」が生じるのである。
例えば,平行四辺形の性質を学習していた場面でこんなことがあった。子どもは,向かい合う辺が等しい,向かい合う角の大きさが等しいという性質を学習するのだった。辺の等しさは理解できた。向かい合う角の大きさが等しいということがなかなか分からなかったのだ。そこで,教師は質問した。「(あ)の角に向かい合う角はどれなの?」。
教師は,(う)の角を指摘すると思っていたら,なんと(い)の角を示したのであった。確かに,辺アエと辺イウが平行で向き合っているのだから,角(あ)と角(い)は向き合っていると反応しても不思議ではない。
向かい合う角という事柄について,教師と子どもは「ずれ」ていたのであった。その後,お互いに「ずれ」に気がつき一件落着した。
実は,授業では「ずれ」はいっぱい存在するのである。それがあまり議論されないのは,教師と子どもが暗黙のうちに「ずれ」の修正を繰り返しているからである。教師は教師で,子どもは子どもで「ははあ,先生(子ども)のいいたいことはこういうことだな」と修正しているのである。そして,共通認識のために接近しているのである。
だけど,最後まで「ずれ」っぱなしという授業もないわけではない。それが証拠に,子どもが予想外の反応を示すと,教師は「はい,次!」とその子の意見を全く取り上げないことがあるのである。これは,教師が「ずれ」に対して恐れているからである。恐れることではないのだ。むしろピンチはチャンスなのだ。東野小学校の本は,それに答えてくれる本である。
この「ずれ」を生かすことができれば,子どもの理解は広くまたは深くなるのである。つまり,授業の密度が高くなる。そのためには,教師が復唱して「ずれ」の存在を教室に知らせることであり,そして,「それってどういうこと?」とWHATで切り返しの発問をすれば,子どもが議論して答えてくれるようになるのである。
さて,東野小学校の「ずれ」の本が生まれるきっかけをお話しよう。
大下先生から2004年12月に東野小学校が「ずれ」の研究発表をするから,ぜひ記念講演をしてほしいと依頼された。事前に送付されてきた研究紀要を見てなかなかよくまとまっていると思った。「ずれ」の解釈も私と同じである。また,「○つけ法」と「ずれ」,復唱法と「ずれ」というように明らかに志水理論が寄与していると判断した。できれば,単行本化を意図して学校に向かった。そして,当日の研究発表と公開授業を見た。流行りの言葉で言えば,「間違いない!」である。そこには,東野小学校の教師と子どもの「ずれ」による格闘があった。
だから,大下先生にぜひ単行本にしてほしいと勧めたのであった。その後,東野小学校の教職員がさらに燃えてこの本を作り上げてくれたのであった。すごいエネルギーだと思う。決断してから,わずか2か月あまりで原稿を仕上げたのであった。
なかなかよい出来ばえだと感心している。カウンセリング・マインドにもとづく「ずれ」の理論化,また,追試しやすい実践事例の記述などきめ細かい配慮が見られる。
この本をぜひ使って,算数の授業での「ずれ」を活用してほしいものである。
最後になりましたが,編集部の石塚嘉典様には出版の許諾から編集まで大変お世話になりました。ありがとうございました。
平成17年6月1日 愛知教育大学 /志水 廣
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- 明治図書