- 監修のことば /横山 浩之
- まえがき〜算数ワークは何をもたらすのか〜 /大森 修
- 1 計算@ 公倍数・公約数
- 1 倍数
- 2 公倍数
- 3 最小公倍数
- 4 約数
- 5 公約数
- 6 最大公約数
- 2 計算A 分数のたし算
- 7 分数のたし算(1)
- 8 分数のたし算(2)
- 9 分数のたし算(3) 約分@
- 10 分数のたし算(4) 約分A
- 11 分数のたし算(5)
- 12 分数のたし算(6)
- 13 分数のたし算(7)
- 3 計算B 分数のひき算
- 14 分数のひき算(1)
- 15 分数のひき算(2)
- 16 分数のひき算(3)
- 17 分数のたし算・ひき算
- 4 計算C 分数×整数の計算
- 18 分数×整数の計算
- 5 計算D 分数×分数の計算
- 19 分数×分数の計算(1)
- 20 分数×分数の計算(2)
- 21 分数×分数の計算(3)
- 22 分数×分数の計算(4)
- 6 計算E 分数÷整数の計算
- 23 分数÷整数の計算(1)
- 24 分数÷整数の計算(2)
- 7 計算F 分数÷分数の計算
- 25 分数÷分数の計算(1)
- 26 分数÷分数の計算(2)
- 27 分数÷分数の計算(3)
- 28 分数÷分数の計算(4)
- 8 図形@ 直方体と立方体
- 29 直方体と立方体(1)
- 30 直方体と立方体(2)
- 31 直方体と立方体(3)
- 32 垂直と平行(1)
- 33 垂直と平行(2)
- 34 垂直と平行(3)
- 35 垂直と平行(4)
- 9 図形A 体積
- 36 体積(1)
- 37 体積(2)
- 38 体積(3)
- 39 体積(4)
- 40 体積(5)
- 41 体積(6)
- 10 図形B 立体
- 42 立体
- 11 文章題@ 平均
- 43 平均
- 12 文章題A 単位量あたりの大きさ
- 44 人口密度
- 45 1mあたり
- 46 1m2あたり
- 47 速さ(時速)
- 48 速さ(分速)
- 49 速さ(秒速)
- 50 道のり(1)
- 51 道のり(2)
- 52 道のり(3)
- 53 時間1
- 54 時間(分)
- 55 時間(秒)
- 13 文章題B 分数のかけ算を使って
- 56 分数のかけ算(1)
- 57 分数のかけ算(2)
- 58 分数のかけ算を使って(1)
- 59 分数のかけ算を使って(2)
- 60 分数のかけ算を使って(3)
- 61 分数のかけ算(3)
- 14 文章題C 分数のわり算を使って
- 62 分数のわり算(1)
- 63 分数のかけ算(2)
- 15 文章題D 分数のかけ算とわり算
- 64 分数のかけ算とわり算
- 16 文章題E 比を使った問題
- 65 比を使った問題(1)
- 66 比を使った問題(2)
- 67 比を使った問題(3)
- 解答
監修のことば
大森修先生のグループとの共作である『グレーゾーンの子どもに対応した作文ワーク』に引き続く第2弾が,この算数ワークである。
アメリカ精神医学会によれば,学習障害は,次のように分類される。
・読み障害
・書き障害
・算数障害
つまり,算数は,別格の扱いなのだ。逆に言えば,なぜか算数だけができない子どもが,たくさんいることを示している。
ところが,算数に関しては,現時点では,神経心理学的な切り口から,攻めることはむずかしい。
『グレーゾーンの子どもに対応した作文ワーク』の監修のことばに,およそ「作文」とは関係がなさそうにみえる,こむずかしい解説があったのを覚えていらっしゃる先生もいらっしゃるだろう。あのような「理屈」がないのだ。
では,医師である私には,算数障害に立ちむかえる手段はないのか。決してそんなことはない。医療は,理論が先に立って,方略を考えることもあれば,逆に,たくさんの経験を元に,方略を考えることもある。
今回は,私の経験で,このワークブックを作らせていただいた。この経験とは,
算数ができないという子どもは,90%以上,数の固まりの操作ができない
という観察である。
えぇっ! と驚く教師の方々も多いだろう。気持ちはよくわかる。なぜなら,算数ができないことに気がつくポイントは実に様々だからだ。
大きな数がわからない。
時計が読めない。
かけ算ができない。
わり算ができない。
分数がわからない。
小数がわからない。
足し算と引き算の立式が区別できない。
かけ算と足し算の立式が区別できない。
かけ算とわり算の立式が区別できない。
dlとlの量関係がわからない。
pとmとの量関係がわからない。
kgとgとの量関係がわからない。
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これらは,実は,根本は同じである。
「数の固まりの操作」という一項で,まとめられるのだ。
そして,この項目を,主たる目標として大々的に扱う単元が,教科書の中で,たった1項目しかないことに,私は逆に驚嘆した。
その単元とは,「繰り上がりの足し算」である。
我々の生活の中で,もっとも基本的な数の固まりは,「10」である。我々は,十進法を使用しているからだ。
向山洋一氏は,1〜9と10とを分けて扱うことを,常々,主張なされている。
我が意を得たりと思った。なぜなら,私も,同じ経験を何度もしているからだ。できない子は,10,11,12,13…と数が増えるごとに,新しい文字が増えると勘違いをすることがある。例えば,16なら,偏が1,旁が6という字があるのだと考えるのだ。これでは,たまらない。扱う数が増えるたびに,新しい漢字を覚えるようなものだ。
ここに,悪魔のような指導法が存在していることを告白せねばならない。悪魔のような指導法とは,例えば,「暗記カード」である。英単語のように,繰り上がりの足し算を「暗記」で覚えさせるカードである。
確かに,暗記させれば,とりあえず,答えは出るようになる。しかし,肝心かなめの,10の1の意味は,理解させられない。暗記させたのでは,中身の理解(解釈)はない。解釈がないので,先に進めることはできない。ましてや,問題解決のレベルで学習させることができないのだ。
10の固まりを,問題解決のレベルで学習させることができれば,先に掲げた「大きな数がわからない」「時計が読めない」…といった問題は,一切生じない。そのためには,繰り上がりの足し算を,解釈のレベルで,たくさん練習させればよい。このことは,教科書にある「さくらんぼの足し算」を,練習させることだ。その上で,数の固まりを理解したことを基盤として,指導する手法を選択すればよい。
既存のワークブックでは,数の固まりを理解したことを基盤とせずに教える「優しい」教え方が蔓延している。この「優しい」教え方が,軽度発達障害をもちながらも,「数の固まりを理解した」子どもたちに,逆に混乱を招くのだ。
軽度発達障害をもつ子どもたちは,作業記憶に乏しい。よって,易しいことであっても,たくさん説明されると,理解できなくなる。上述の「優しい」教え方は,まさに,「小さな親切・大きなお世話」なのだ。
このことが,次の指導方針を生んだ。
単元指導の系統性
である。
「ある単元の指導で用いられた手法は,その発展となる単元で,必ず,用いる」という手法である。子どもたちは,やり方がわかっているから,教えられずとも自然にわかるという仕組みである。
「ある単元の指導で,確実に理解させたことは,復習した上で,できるものとして扱う」という仕組みでもある。
意外なことに,私が知る範囲で,この点に着目されて作成されたワークブックは,存在しない。
軽度発達障害の子どもたちは,能力的な限界がある。最低限の部分だけを,最短距離で走り抜けなければ,息切れしてしまう。学力不振に陥るということだ。
この手法を開発してから,私は,“努力し続けている”軽度発達障害の子どもたちを,学習不振に陥らせずに,無事に育むことができるようになった。おおよそ平成8〜10年ごろだ。
当時,私が診ていた子どもたちは,すでに中・高校生になっている。学習障害の病名とは裏腹に,進学校で優秀な成績を修め,生徒会や部活動でリーダーシップをとっている子どももいる。少なくとも,“努力し続けている”軽度発達障害の子どもたちが,社会に適応できないレベルの成績に陥ることはない。おおざっぱに言えば,“落ちこぼれない”ですむ。
この算数ワークは,私が育てきれなかった子どもたちの所産だとも言える。私が未熟で,育むことができなかった子どもへの懺悔と言い換えてもよい。この文章を読んでいる方々は,この意味で幸せだとも言える。私が育てきれなかった子どもの失敗をしなくてすむのだから。
最後に,ひとつだけ。
「生活習慣」を重要視していない保護者や教師は,この算数ワークによって,己の愚かさと間違いを,いやというほど,知らし示されることだろう。その理由は,拙著『軽度発達障害の臨床』(診断と治療社)にすでに著した。「子育ての智慧」は,何より大切なのだ。老婆心ながら,最後にこのことを記しておきたい。
/横山 浩之
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- 明治図書
- すぐ使えた2018/7/1540代・小学校教員
- 横山先生の視点は教育にとても有用だと思います。2016/3/630代・小学校教員