国語教材研究の革新2
「スイミー」の<解釈>と<分析>

国語教材研究の革新2「スイミー」の<解釈>と<分析>

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スイミーの主題観を検討し,<解釈>と<分析>の違いを明確化させ,「スイミー」の教材解釈と分析の具体例を詳細に論じた言語技術解明の労作。


復刊時予価: 2,486円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-646908-3
ジャンル:
国語
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 150頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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まえがき
T レオ・レオニ作品の特質
1 絵本作家としてのレオニ
(1) 経歴
(2) 絵本を書く理由
2 レオニの絵本―小さなものが主人公―
3 作品のテーマ
(1) 寓意性と教訓性
(2) 自分とは何か―自己認識の問題―
4 構成と文体
(1) 構成
(2) 文体
U 「スイミー」の本文と主題をめぐる問題
1 絵本と教科書の本文のちがい
(1) 語り口(文末)の改変―「〜してる」と「〜している」―
(2) 助詞の補充
(3) 接続詞の省略
(4) 文の順序変更・追加
(5) 句読点・区切り符号
2 絵本の教科書教材化にともなう問題
3 「スイミー」の主題をめぐる問題
V 〈解釈〉と〈分析〉とは何か
1 〈解釈〉と〈分析〉の概要
2 〈解釈〉と〈分析〉の実際
W 「スイミー」の〈解釈〉
1 題材についての〈前理解〉
2 「教材の核」をめぐる〈解釈〉
(1) 「教材の核」とは何か
(2) 〈おもしろいものを見るたびに〉の〈解釈〉
(3) 〈ぼくが、目になろう〉の〈解釈〉
3 鳥山敏子氏の授業における〈解釈〉
(1) 鳥山敏子氏の考え方
(2) 〈スイミーはおよいだ、くらい海のそこを〉の〈解釈〉
(3) 〈けれど、海には、すばらしいものがいっぱいあった〉の〈解釈〉
(4) 〈うなぎ。顔を見るころには、しっぽをわすれているほどながい〉の〈解釈〉
(5) 〈みんなが、一ぴきの大きな魚みたいにおよげるようになったとき〉の〈解釈〉
(6) まとめ―「スイミー」をより豊かに深く読むために―
X 「スイミー」の〈分析〉
1 「対比」の〈分析〉
(1) 「分析批評」による「対比」の〈分析〉
(2) 「西郷文芸学」による「対比」の〈分析〉
(3) まとめ―「対比」という〈分析コード〉の有効性―
2 「比喩」の〈分析〉
(1) 「比喩」と「視点」
(2) 「直喩」
(3) 「暗喩」
(4) 「誇張法」
3 「語り口」の〈分析〉
(1) 「常体」
(2) 「倒置法」
(3) 「体言止め」
(4) まとめ―さまざまな表現技法の複合的効果―
4 「反復表現(主要語句)」の〈分析〉
5 「列叙法」の〈分析〉
(1) 「列挙法」
(2) 「漸層法」
あとがき

まえがき

 私はこれまで、『文学教育における〈解釈〉と〈分析〉』(明治図書)、『文学教材で何を教えるか〜文学教育の新しい流れ〜』(学事出版)、『国語教材研究の革新』(明治図書)という一連の著作の中で、〈解釈〉と〈分析〉という二つの方法を提案してきた。それは広い意味では認識の方法(ものの見方・考え方・分かり方)である。そこには、文学をどのように読むか、文学の読みをどのように考えるか、文学の授業をどのように見るかといった根源的な問題から、一つの作品をどのように理解するかという実際的な問題に至るまで多様な問題が含まれている。

 しかし、私はその範囲を限定して、主に教材研究の方法というレベルで〈解釈〉と〈分析〉について論じてきた。国語の授業を組み立てようとするとき、何よりも教師がその教材をどう読むかということが重要になってくるからである。こうして〈教材解釈〉と〈教材分析〉という二つの概念が設定されたのである。

 さて、先の拙著の中では、〈教材解釈〉と〈教材分析〉のちがい、特徴、長短得失などについてはある程度明らかにしてきたつもりであるが、具体的な教材研究への適用という点はまだ不十分なものにとどまっていた。今後の国語教育学研究や教材研究において〈教材解釈〉と〈教材分析〉という考え方や用語が根づいていくためには、いくつかの代表的な文学教材でその具体的な例を示していくことがどうしても必要となる。そうすることによって、はじめて私の年来の主張である「〈理論〉と〈実践〉の疎隔を埋める」ということも実現していくのではないかと思う。教材(さらには子どもや授業)を今までとは違った角度からより豊かに深くとらえることのできるような〈理論〉こそ最も望まれているのである。

 こうして、〈教材解釈〉と〈教材分析〉という二つの方法を実際の文学教材に適用するという趣旨で、「国語教材研究の革新」シリーズを刊行することになった。その第一弾として、一昨年(一九九三年)、『「ごんぎつね」の〈解釈〉と〈分析〉』を出版した。幸いなことに好意的に受け入れられているようである。

 今回、第二弾として「スイミー」(レオ・レオニ作、谷川俊太郎訳)を取り上げることにした。「ごんぎつね」のときにも述べたように、「スイミー」がすぐれた作品であり、すぐれた教材であるということがその最大の理由である。さらに、「スイミー」がまだ研究し尽くされていないという事情や先行研究の諸成果が教材研究や授業に十分に生かされていないという事情も、「ごんぎつね」の場合と変わるところがない。

 「スイミー」は、一九六三年に発表された絵本の古典的名作である。絵と文の調和、奇抜なストーリー、豊かなテーマ性などの点で高く評価されている。日本語版は一九六九年に好学社から発行された。今でも子どもたちに大変に好まれている絵本の一つである。教科書教材としての歴史も古く、光村図書の一九七七年(昭和五二年)版から現行版までずっと継続して掲載されている。

 「すぐれた芸術作品はその意味が無尽蔵である」と言われるように、「スイミー」も現在を生きている読者によってさまざまな意味づけが可能である。どの子どもにもその世界は開かれている。いろいろな状況のもとでいろいろな形で理解されることだろう。もちろん、授業の中で新しい読みが創造される可能性も高い。そのことが「スイミー」を取り上げる最大の理由である。

 しかしながら一方では、これまでの児童文学研究、国語教育研究・実践における多くの成果が必ずしも教師の共有財産になっていないということも指摘しなくてはならない。そこには「スイミー」関係の文献・雑誌類が多く、全てをカバーできないという事情もあるだろう。先行研究・実践の成果や問題点を概観、整理、考察しつつ、新しい知見やより豊かで深い読みの可能性を示すような本が望まれるゆえんである。

 なお、レオ・レオニの絵本は、「スイミー」以外の作品も教科書教材として掲載されている。(すべて平成四年度版)

 ・「スイミー」(光村図書2上)

 ・「ぼくのだ! わたしのよ!」(学校図書2上)

 ・「アレクサンダとぜんまいねずみ」(教育出版2下)(大阪書籍2下)

 ・「ニコラス、どこに行ってたの?」(東京書籍3上)

 ・「フレデリック」(日本書籍4下)

 こう見ると、現在、小学校のすべての検定教科書にレオニ作品が一つずつ採択されていることになる。本書は「スイミー」に限定して論じているが、これらの作品の教材研究にも役立つことを意図している。特に、レオニ作品に共通するテーマ(主題)や表現方法(文体)などの問題については、できるだけ他の教科書教材にも言及しながら記述するように努めた。

 本書の構成について簡単に触れておきたい。

 まずTでは、「スイミー」をより豊かに深く読むために最低限必要になると思われる作家論的・作品論的な知見をまとめた。「レオ・レオニの人と作品」については、「スイミー」の教材研究にあたって考慮しておくべきである。本書では、主にレオニ作品の登場人物とテーマに見られる特徴について述べた。

 Uでは、同様の観点から、「スイミー」の本文と主題をめぐる問題について整理して示した。絵本と教科書の本文のちがい、絵本の教科書教材化にともなう問題、従来の「スイミー」の主題観などについて諸説を検討しつつ私見を述べた。

 Vでは、旧著でも展開してきた〈解釈〉と〈分析〉のちがいを手短にまとめた。

 WとXでは、実際に〈解釈〉と〈分析〉によって「スイミー」をより豊かに深く読んでいくことを試みた。もちろん、単なる作品の読みというレベルにとどまることなく、授業のねらい、発問・指示・説明なども想定した教材研究になるように心がけた。〈解釈〉においては、現在の子どもの生活体験と「スイミー」の世界の接点という問題を意識しながら、作品のイメージを豊かに形成しつつ、登場人物に切実に同化・共感できるような読みのあり方を追求した。〈分析〉においては、それまでの考察で明らかになった作品の主題との関連も意識して、五つの分析項目を設定した。また、WとXでは(個人の力の及ぶ限りではあるが)先行研究・実践の諸成果を参照し、それに学んだことも付け加えておきたい。本来取り上げるべき著書・論文・実践記録を漏らしている場合もあるだろう。ご教示いただければ幸いである。

 本書について忌憚のないご意見・ご感想・ご批判を賜りたいと思う。


  一九九五年一月   /鶴田 清司

著者紹介

鶴田 清司(つるだ せいじ)著書を検索»

◇略歴

 1955年,山梨県生まれ。

 1979年,東京大学教育学部卒業。

 1985年,同大学院教育学研究科(博士課程)満期終了。

 現在,都留文科大学文学部助教授

◇所属学会・団体

 ・日本教育学会・全国大学国語教育学会

 ・日本国語教育学会・日本教育技術学会

 ・教科研授業づくり部会・日本言語技術教育学会 他

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
    • この商品は皆様からのご感想・ご意見を募集中です

      明治図書
    • スイミーの教材研究をするにあたり手にとって読んでみたいと思い、復刊希望に初めて参加しました。多くの学校で採択されている教科書に載っている物語ですので、是非みなさんも復刊にご協力ください。よろしくお願いします。
      2019/4/16

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