- はじめに
- 本書の編集方針と活用法
- 1 確かな学力・2002アピール
- 2 数学科における確かな学力
- 3 拡大するちらばり
- 4 本書の構成と活用法
- 数学2年ファックス版
- ―学力診断テストと補充教材・発展教材
- 1 式の計算
- 単元/式の計算
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 2 連立方程式
- 単元/連立方程式
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 3 連立方程式の利用
- 単元/連立方程式の利用
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 4 一次関数
- 単元/一次関数
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 5 一次方程式と一次関数
- 単元/一次方程式と一次関数
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 6 角と平行線
- 単元/角と平行線
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 7 三角形の合同条件・証明のしくみ
- 単元/三角形の合同条件・証明のしくみ
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 8 三角形の性質・三角形と円
- 単元/三角形の性質・三角形と円
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 9 四角形の性質・平行線と面積
- 単元/四角形の性質・平行線と面積
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 10 場合の数と確率
- 単元/場合の数と確率
- (1) 単元の目標/ (2) 評価規準例/ (3) 学力診断テストのねらい/ (4) 学力診断テストの解答例と配点例/ (5) 補充学習の進め方/ (6) 発展学習の進め方
- 学力診断テスト/ 補充的な学習問題
- 発展的な学習問題(1)/ 発展的な学習問題(2)
- 学習問題の全問解答例
はじめに
本書の編集方針と活用法
1 確かな学力・2002アピール
今回(平成10年)改訂された学習指導要領においては,5日制への移行,生徒の負担軽減,総合的学習の時間の導入などのため,大幅な時間数減,それを上回る内容減が行われ,教育関係者は大きなショックを受けたところでありました。
ところで,完全実施に移される平成14年の4月を目前にして,当然予想されることであった学力低下への懸念に対応するためであろうと考えられますが,確かな学力の向上のための2002アピール「学びのすすめ」が1月17日に公表され,さらに混迷を深めることとなりました。
とはいえ,現場の実践者にとっては,厳しい条件下において,確かな学力の向上に努めなければならないことは論をまたないことであり,単純に指導法の改善だけで十分な成果が得られないにしても,指導法を改善することが重要なポイントであることはまちがいないでしょう。
さて,確かな学力について,明確に定義づけにくいことは事実ですが,基礎・基本を確実に定着し,それを基に,自ら学び自ら考える力など,21世紀に通用する「生きる力」などを指していると考えることにしましょう。
基礎・基本というと,これまでの数学科では,計算力に直結させて,基礎からのやり直しに重点をおきがちで,「表現・処理」を中心にして判断される傾向がありました。
しかし,このような,知識や技能だけで,21世紀に通用すると考えている人は少ないようです。
ここで,大きな問題は,基礎・基本の定着を図った上で,それを基に,自ら学び自ら考える力などに発展させることです。これまでは,このようなことは生徒本人の資質と努力にゆだねていたといってもよいでしょう。これからは,「学んだ力」だけでなく,「学ぼうとする力」「学ぶ力」もふくめて充実を図ることが求められているのです。
なおアピールでは,実施する方策として,次の5つが提案されています。
(1) きめ細かな指導で,基礎・基本や自ら学び自ら考える力を身に付ける。
(2) 発展的な学習で,一人一人の個性等に応じて生徒の力をより伸ばす。
(3) 学ぶことの楽しさを体験させ,学習意欲を高める。
(4) 学びの機会を充実し,学ぶ習慣を身に付ける。
(5) 確かな学力の向上のための特色ある学校づくりを推進する。
2 数学科における確かな学力
確かな学力が,21世紀において生きて働く力であるとすれば,演算の方式がきまっているときの計算力の伸長だけをねらっているのは,どうやらまちがいのようです。
というのは,思考力,判断力,コミュニケーション能力などが中心になると考えられるからであります。
ところで,「文章題は苦手である」といわれていて,中学校教育課程実施状況調査などでも達成状況は芳しくありません。
学力低下が懸念されている要因の1つとして,生徒が苦手としているところは,さけてでも抵抗の少ない平坦なコースを選ばせようとする傾向がないといえるでしょうか。
上にかかげたように,確かな学力を構成するものとして,思考力,判断力,コミュニケーション能力などを中心にすえるとすれば,文章題をどう克服させるかに焦点をあてて考えることこそ重要といえましょう。
さて,「文章題は苦手である」を意識させるのは,小学校の段階ということができましょう。
例えば,算数の仕上げの段階には,次のような問題がおかれることが多いようです。
太郎君の学校の5年生と6年生をあわせた人数は学校全体の35%にあたります。また,5年生の人数は6年生の人数の9割で,5年生の人数は63人です。
(1) 6年生の人数は何人ですか。
(2) 太郎君の学校の子どもの人数を求めなさい。
ここで,学校全体の人数が分かっていて,その35%,6年生の人数が分かっていて,その9割を,というのであれば,なんとか求めることのできる児童にとって,その逆を求めさせられるのですから,苦手意識をもつのは当然といえましょう。
また,2重の構造になっているので,問題の構造がつかみにくく,多くの場合,下の図のような線分図を用いて関係をつかむことになります。分かっているのは,5年生の63人だけであり,心細いかぎりとなるのです。
上のことから,苦手意識をもたせる要因として,
@ 逆むきに考えること
A 関係を文章だけで把握すること
の2つをあげることができましょう。
算数でこれを克服することは容易ではありません。だが,中学校の数学では,これを克服する手立てが用意できるのです。
中学校の数学を小学校の算数の上に築くことは,たしかに有効な考え方であります。このような考え方をもとに前頁で示したような線分図を手がかりにして関係を把握させることを中心として展開されるのでしょう。
これを小・中連続型ととらえることにしましょう。
ところで,連続型を採用するとすれば,苦手意識も知らず知らず引きずることにもなると考えられます。これを防ぐため,連続型に対して,中学校・独自型を考えることにしましょう。算数を前提にするけれども,依存はしない,算数と数学はちがうという立場をとるのです。
というのは,中学校では,逆むきに考えるのではなく,順思考ができるようになっていることと,関係をとらえる際に,図で表し,視覚的,直観的にとらえるだけではなく,文章そのものをとらえる方法が準備されているのです。
具体的には,文字を使って考えることができるようになること,そのよさを感得できるようになることを中学校数学のメインターゲットとするのです。
第1の方法としては,文字を使って,文章を書き直させ,順思考のスタイルに直すことです。
ここで,学校全体の人数が分かっていれば,その35%にあたる5,6年生の人数は分かり,6年生の人数が分かっていれば,その9割の5年生の人数が分かることを前提としましょう。
最初の説明文と,問いの順序が逆転していますが,問いの順序で書き直してみましょう。
(1) 5年生の人数は,6年生y人の9割で,63人です。
(2) 太郎君の学校の5年生と6年生の人数は,学校全体x人の35%にあたり,133人です。
((1)で6年生が70人であることが分かったとする)
@ 逆向きに考えること,A 関係を把握するため線分図をかくこと
などのわずらわしさから完全に解放されたことを実感させることができれば,きっと,よさの感得につながることでしょう。
第2の方法としては,文字の使用にやや抵抗があると考えられる生徒への対応として,「ことばの式」としてとらえさせるステップをおくことです。
例えば,
(1) (6年生の人数)×0.9=(5年生の人数)
(2) (学校全体の人数)×0.35=(5年生と6年生の人数)
(5年生の人数),(6年生の人数),(5年生と6年生の人数),(学校全体の人数)と表すことによってイメージをもたせやすいので安心感があり,式として表すことにより関係をつかみやすくすることができます。また,さらに簡潔な表現へステップアップすれば,自然に文字を使うことができるようになると考えられます。
3 拡大するちらばり
右の図は,平成15年5月に公表された,教育課程実施状況調査によるものです。
(図省略)
最頻値が575以上625未満にあることから,正規分布に近いとはいいにくく,高い達成度を示す生徒がかなり多いということができます。
ここで,575以上のおよそ30%をAグループ,425以上575未満のおよそ45%をBグループ,425未満のおよそ25%をCグループと区分けしてみましょう。
Aグループには,625の壁があるように思われ,余裕のある生徒を十分に伸ばしきっていないのではないかとの批判を受けそうです。
Bグループには,半数近くがふくまれるにしては,まとまりがよいといえそうで,もし,効果的に,適切な刺激を与えることができ,意欲的に取り組むことができれば,大きな進展が望まれるとみることもできましょう。
A,Bグループは,基本的には,発展学習の対象とすることができると考えられます。
ところで,最も大きな課題は,Cグループです。このグループでは,特に,そのちらばりが大きいことに着目しなければなりません。例えば,325以上のC1と325未満のC2に分けて考えることも必要でしょう。そして,C1グループは補充学習によって回復を図ることをねらいとすることができるが,C2グループは補充学習だけでは期待どおりの成果があがらないことも覚悟しなければならないこともあるでしょう。
小学校以来の積み上げと,中学校における個に応じた指導の徹底によって,全体としては底上げは期待されましょうが,一方においては,上でみてきたちらばりが拡大することも考えておかねばなりません。
その際に,C2グループのように,人数としては少ないので,これまで見逃しがちであったところも的確にとらえなおし,これまでの発想を基本的にかえて取り組むことが,指導と評価の一体化をめざした学習指導の改善として強く求められているのです。
4 本書の構成と活用法
本書は,生徒の実態を的確にとらえて,これからの数学科に望まれる確かな学力を身に付けさせようと努力を続けていただいている多くの若い先生方の支えになればと企画したものです。
このため,次のような構成にしてあります。
各学年ごとに,10単元に分け,1単元を10ページとしました。各単元については,単元名に続いて,(1)単元の目標を簡潔にかかげてあります。学習の成果をあげるためには,なんといっても目標を教師が的確につかみ,それを生徒にストレートに伝えることです。ストレートに伝えるといっても,おしつけであったり,ぶっきらぼうであったりしては,およそ役に立ちません。それぞれの単元にこめられているねらいを,その背景もふくめて的確につかみ,それとなく伝えられるように検討する手がかりにしてください。
次に,(2)評価規準例を取り上げています。4つの観点について,それぞれの単元にかかわることをかかげました。ここで,「関心・意欲・態度」については,例えば「……に興味をもち,……を活用しようとする」などと表現しています。これは,多くの場合,「……しようとする態度として形成されている」と考えてよいでしょう。態度として形成されれば,行動として表れたり,意見として表示されたり,作品などとして姿を表すと考えることができます。したがって,自然な学習環境のなかでとらえることができるようになるのです。また,その一部をペーパーテストの形で多角的に検討する1つの資料として参考にしていただけるとよいと考えています。また,「数学的な見方や考え方」については,例えば,「……について考察することができる」などと表現しています。これは,単に,「考える」「考察する」といった行動をいうのではなく,数学的にみて有効な見方や考え方について判断するのであり,それは数学の教師であれば,考察できているか,いないかは区別できることと考えたのです。
「表現・処理」については,例えば,「……を計算することができる」とか「……を求めることができる」と表現しています。これについては多くの解説は必要ないでしょう。というのは,これまでの多くは,この観点にかかわることでした。
ところで,「知識・理解」については,多くの場合,「……について理解している」と表現しています。これは,「こんな簡単な計算もできないのだから,分かっていないのだろう」と,「表現・処理」を通して判断してきたこれまでの方法とは異なるものですから,新たな方法を工夫しなければなりません。このようなわけで十分に検討できていないところも残っていますが,これからの課題とさせてください。
このように,ここにかかげたのは,評価規準の例でありますので,それぞれの学校の実態にあわせて,修正されることをお願いいたします。
続いて,(3)学力診断テストのねらいをかかげています。これは,評価規準例に直接かかわることですから,学力診断テストの問いのねらいを簡潔に述べています。このねらいに照らして達成状況をご判断いただけるようにと考えました。
さらに,(4)学力診断テストの解答例と配点例をあげています。
解答例は,模範解答を示して細かに配点基準を示すことはしてありません。解答としての参考例として出題の意図についての検討にご活用ください。
配点例は,4つの観点別に問題を区分し,大ざっぱに,観点ごとの配点を示すにとどめました。細かな配点基準は,必要であれば,指導の実態にあわせて決定してください。なお,「関心・意欲・態度」については,他の観点と比べると少なめの配点としました。これは,この観点の評価をペーパーテストに大きくかかわらせることを懸念したためです。
「関心・意欲・態度」については,例えば,「……の具体例をできるだけあげてみましょう」のように問いかける形式にしました。したがって,他の3観点と同じように減点法はとりにくいと考え,加点法によるものとしています。例えば,配点は10点であっても,すぐれて独創的な解答には10点をこえた採点がなされることを期待しています。
このように,解答例と配点例は1つの参考例として,実態にあわせて修正できるようにしました。
続いて,(5)補充学習の進め方について取り上げています。原則として,A,B,Cに学力診断テストによって区分したうちのCの生徒を対象にしています。教科書にかえって補充する際に手助けとなるようにしてあります。その際に,小学校での四則計算にまでさかのぼることは考えていません。1つ前のステップにとどめています。そして,補充学習のあとで,もう一度,学力診断テストで再確認させることは有効でしょう。
さらに,(6)発展学習の進め方に触れています。発展的な学習問題は(1)と(2)に分け,学習指導要領の枠をこえた内容についても扱っています。余力のある生徒には楽しみながら十分に力を伸ばせるように工夫しました。
また,補充的な学習問題,発展的な学習問題(1),(2)については,解答例を巻末に用意しました。これは,生徒が自己採点をする際にも使えることでしょう。
このように,補充学習が適切に,発展学習が闊達に行われるように願いをこめて本書を編集いたしました。ご活用いただき,不十分な点はご指摘いただいて,学習指導の改善に多少の寄与ができれば,なによりの幸せです。
最後になりましたが,ご多用のなかを,貴重な実践をおまとめいただいた多くの先生方,企画にあたっては安藤征宏氏,校正にあたっては多賀井壽雄氏に,大変ご心労をおかけしました。
あわせて,心からお礼申し上げます。
平成16年12月 編者 /正田 實
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- 明治図書