- はじめに
- 出版にあたって
- 第1章 学習評価の機能と役割
- ――誰のための,何のための評価か――
- 第1節 学習評価のパラダイムの転換
- 1 評価の問題点
- 2 学習指導と学習評価の一体化
- (1) 学習指導と学習評価の基本的関係
- (2) 指導と評価の一体化
- 3 今,私たち教師に求められているもの
- 第2節 学習評価の目的
- 1 誰のための,何のための学習評価か
- (1) なぜ学習評価は必要なのか
- (2) 誰のために,何のために評価を行うのか
- 2 過程(プロセス)としての評価――評価の視点を築き,評価の尺度を高める過程――
- (1) 評価項目の一覧
- (2) 評価は子どもと教師の内に授業を振り返る視点と尺度を築き上げる過程
- 第2章 「学習感想」から「授業改善」へ
- ――子どもによる自己評価の試み――
- 第1節 子どもによる自己評価の教育的意義
- 1 子どもによる自己評価の教育的意義
- (1) 子どもによる自己評価に関するいくつかの主張
- (2) 学習評価の解釈をめぐって
- (3) 実証的な研究に基づいて―学習を共にする他者との関わりの重視―
- 2 授業改善に向けた視点
- (1) 算数学習の特性を踏まえて
- (2) 学習者(子どもたち)の心を開く
- 第2節 本校における基本的な考え方と研究体制 ――学習感想の5つの層――
- 1 研究主題
- (1) 主題設定の理由
- 2 授業評価から授業改善をめざす
- (1) 研究主題と授業評価の関わり
- (2) 研究の内容
- (3) 授業評価の方法
- (4) 学習感想による授業評価
- (5) 学習感想に対する子どもの意識の変容
- (6) 授業討議のもち方
- 第3章 低学年の実践(1年・2年)
- 第1節 ジャンケン・レース! ――第1学年「どちらが 長い」――
- 1 指導のねらい/ 2 児童の実態と算数的活動/ 3 指導の実際/ 4 授業を振り返って/ 5 学習指導案
- 第2節 ペープ・サートを使って! ――第1学年「たしざん」――
- 第3節 三角形と四角形を見つけよう! ――第2学年「三角形と四角形」――
- 第4節 ○の数は全部でいくつ? ――第2学年「かけ算(1)」――
- 第4章 中学年の実践(3年・4年)
- 第1節 買い物ゲームに挑戦! ――第3学年「たし算の暗算」――
- 第2節 変化のようすを表そう! ――第4学年「かわり方を見やすく表そう」――
- 第5章 高学年の実践(5年・6年)
- 第1節 100p2の三角形を作ろう! ――第5学年「平行四辺形と三角形の面積」――
- 第2節 おいしいカルピスを作ろう! ――第6学年「割合の表し方(比)」――
はじめに
現在,学校を取り巻く社会においては子どもたちの学力低下を懸念し,ひとたび学校内に目を向ければ,子どもたちの学習意欲の欠如が指摘される。子どもたちの学力(学ぶ力)は本当に低下し,学ぶ意欲は指摘の通りに欠如しているのだろうか。
これからの時代に求められる学ぶ力は,将来直面するであろう未知なる問題に対して既得(既存)の知識・技能を駆使して,その問題の解決に必要な新たな知識・技能を生み出すための力であり,また,新たな知識・技能を活用して解決を遂行する力である。さらに,解決された結果に対してはそれを吟味し事象へ発展・応用できる力でもあろう。
これからの時代に求められる学ぶ意欲は,従来のような外発的な動機付けによってもたらされるものではなく,学ぶ内容の中で,学ぶ過程において生み出される内発的動機づけによってもたらされるものである。つまり,子どもたちの学習意欲は,日々の学習活動の中で生まれ,育てられるのである。そして,これらの学ぶ意欲は使えば使う程に成長し,また,「生物」のごとく発展していくものであるとも言われる。
本書は,第一に学習の主体者である子どもの視点から算数の学習をとらえ,以下の2つの問いに答えていくものである。
【第一の問い】子どもたちは「何を」算数の学ぶ楽しさととらえるのか。
算数を学ぶ楽しさは子どもの発達段階とともに成長し,おそらく,外的な楽しさから内的な楽しさへと質的に変容していくこと。
【第二の問い】子どもたちは算数を「どのように学ぶ」ことを求めるのか。
単なる機械的な暗記や覚える学習から,なぜそうするのかの理由が分かり,意味を作り出していく学習を求めていること。また,時に自分一人では思いつかない考えを,学習を共にする他者(友)から学び,時に自分とは異なる他者と共に試行錯誤し共に思考する学習を求めていること。
その第二に,学校教育において「学習評価」は常に教師に委ねられ,決して学習の主体者である子どもたちに評価の場が開かれたことはなかった。本書は,評価の場を積極的に子どもたちに開き,学習は子どもと教師が共に作り上げる創造的活動であることを,数多くの実践事例を取り上げて展開するものである。なぜならば,学習評価は教師にとっては指導の改善をもたらし,子どもにとっては学びの改善をもたらすからである。つまり,これからの学習評価はよりよい学習に反映されるためにある。
本書のタイトルである『学習感想を取り入れた新しい算数の学習――「学習感想」から「授業評価」へ――』は,算数の授業改善の切り札として,今多くの学校において全国的に広まりつつある。この動向の発端となった学校が高知市立泉野小学校である。低学年から高学年までの子どもたちの学習感想は,それを読むだけでも算数の授業の楽しさを知ることができるとともに,先生方にとってはいかに自らの指導を改善するかも知ることができると思われる。
終わりに,教育は子どもの内面に対して視線を投げかけ,子どもの世界観を拡げていくことである。子どもの学習成果や人間的成長は,子どもたちの内面世界に適切に位置づけられることによって新たな自己を形成し,「自分づくり」へとつながると考える。つまり,算数の学習を通して,子ども一人ひとりの世界観を拡げ,友と学べる人間関係を拡げ,自分とは異なる多くの友との学びによって自己理解につながるものと考える。言い換えれば,算数の学習を通して「どのような人間に育てるのか」と言えよう。そのためには,算数の学習を通して子どもたちは「何を学んだか」ではなく,「何を,どのように学んだのか」を問い続けることである。本書の出版に向けて企画から構成まで,常に温かい励ましをいただいた明治図書の石塚嘉典さんに深く感謝申し上げる。
2004.3 春 /矢部 敏昭
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