- 刊行にあたって
- はじめに
- T 体育授業における今日的問題とその改善策
- ―選択制授業を中心に― /西 順一
- 1 体育授業における今日的問題
- (1) 「運動の楽しさ」重視と「体力の向上」軽視の風潮
- (2) 選択制授業の現状における主な問題点
- 2 体育授業の今日的問題の改善に向けて
- (1) 選択制授業の基本的条件がそろっていない場合の選択肢
- (2) 自主的学習を促すための方策
- (3) 自ら「体力の向上」を図るための方策
- (4) 運動技能の向上を図るための方策
- (5) 「豊かな人間性」を育てる
- U 選択制授業の理想と現実
- ―栃木県内の実態調査から― /新籾 勇一
- 1 選択制授業の現状と問題点
- (1) 選択制授業への疑問
- (2) 選択制授業の実施状況
- (3) 選択制授業への期待と実状
- (4) 選択制授業の問題点
- 2 これからの選択制授業への取り組み
- (1) 問題解決に向けて
- (2) 教科経営としての取り組み
- (3) 選択制授業の取り扱い
- (4) 学習指導法の工夫と充実
- (5) 評価問題への取り組み
- (6) バランスのとれた授業
- V 選択制授業の見直しから新たな試みへ
- /高久 昌一
- 1 選択制授業の始まり
- 2 これまでの選択制授業の流れ
- (1) 平成4・5年度の試みと反省
- (2) 平成6・7・8年度の試み
- (3) 平成9年度の試み
- 3 新たな試みへ
- 4 新たな試みの実践例
- 5 おわりに
- W 選択制授業を充実させるティームティーチングの工夫と実践
- /渡邉 敏夫
- 1 選択制授業とティームティーチング
- (1) 選択制授業の工夫
- (2) 選択制授業と指導者の決定
- (3) 学習形態と学習活動
- (4) ティームティーチングによる指導体制(形態)の工夫
- 2 サッカーの授業例
- (1) 単元計画
- (2) 授業の流れ(学習内容)と方法
- (3) 授業のまとめ
- 3 選択制授業とティームティーチングを通しての考察
- (1) 選択制授業とティームティーチングについての生徒の感想
- (2) 授業の成果
- (3) 今後の課題
- X 自ら取り組む体力づくり
- /山口 弘倫
- 1 はじめに
- 2 教科で行う体力づくりの工夫
- (1) 授業への体力づくりの導入方法
- (2) トレーニング論の位置づけ
- 3 実践の結果
- (1) 体力づくりに対する生徒の意識
- (2) データーの収集・比較(全体と抽出生徒)と実践結果の分析
- 4 健康との関わり
- 5 反省と課題〔資料〕
- Y 生涯体育につながる体操の授業
- ―私の体操を創ろう― /佐伯 緑
- 1 はじめに
- 2 ねらいと単元計画〈徒手体操からの脱皮〉
- 3 エアロビック体操の創作〈楽しく動きづくりができる授業〉
- 4 主体的なグループ学習活動〈一人一人のアイディアが生かされるグループ体操〉
- 5 観点別評価〈情意面が生きる評価の工夫〉
- 6 成果と反省
- Z 自ら学ぶ器械運動
- ―誰もが「できた」喜びを味わえる状況づくり― /飛田 朋子
- 1 器械運動の指導の難しさ
- 2 誰もが「できた」喜びを味わえる状況づくり
- (1) 自己に合っためあての設定
- (2) やる気にさせる言葉かけ
- (3) 課題解決のための練習の場の工夫
- (4) ティームティーチングでの授業展開
- 3 生徒の感想
- 4 おわりに
- [ 一人一人が意欲的に取り組む障害走
- /邑楽 美智子
- 1 テーマ設定の理由
- 2 学習指導案展開例
- (1) 運動の特性
- (2) 生徒の実態
- (3) 本教材の意図・特徴
- (4) 単元計画
- 3 指導の実際
- (1) グループ編成
- (2) 方法
- 4 授業のまとめ〔学習資料〕
- \ 生徒の課題解決能力を育てるバスケットボール
- /小林 清
- 1 生徒が課題を見つける手だてを持つことが自主的な学習の鍵
- 2 課題解決型学習のプロセスと支援の手だて
- (1) 子供理解の段階
- (2) 課題把握の段階
- (3) 課題追求の段階
- (4) 吟味まとめの段階
- 3 授業実践から
- (1) 単元計画
- (2) 生徒による授業評価
- (3) 生徒の感想から
- 4 実践を振り返って
- ] 地域に根ざす体験活動を生かした新しいダンス授業
- /手塚 悦子
- 1 選択制授業を成功させる1年次の基礎・基本の定着
- (1) 履修の仕方
- (2) 押さえたい技能の高め方と学習集団づくり
- (3) 単元の学習内容と流れ
- (4) 単元のまとめの1年生の感想例
- 2 2・3年選択制授業の展開
- (1) 全選択者がダンスが好きな訳ではない
- (2) すべての楽しさを味わわせるのは難しい
- 3 生活化が図れる場づくり
- (1) 生徒が主体的に生き生きと取り組む場
- (2) 従来のダンスの視点を変える提案
- 4 地域に根ざす体験活動を生かしたダンス授業の実践
- (1) 重要なオリエンテーションの活動
- (2) 多様な「本時の課題」に対応する「学習カード」
- (3) 地域に根ざした体験活動との関連を図り生徒が取り組んだテーマ
- 5 成果と今後の課題
- (1) 成果
- (2) 今後の課題
はじめに
◯混迷する学校体育
学習指導要領が改訂される度に,教育の新しい考え方や基本方向が公表される。それに前後して文部省や教育委員会の主旨説明,関係雑誌等による解説,新しい考え方をテーマとした研究指定校の発表等,いずれも新しく改訂された内容に重点が置かれる。このような啓蒙活動は,当然のことでありまた必要でもある。しかし,それが教育の現場へ浸透していくにつれて,いつの間にか新しいものだけを「良」とし,古いものを「否」とする二者択一的な見方に変わっていく傾向が見られる。その理由を問うことはここでは省くが,このような風潮は学習指導要領が改訂される度に,教育の現場を混乱させたり悩ませる要因となっている。
一例を挙げると,「運動の楽しさ」と「体力の向上」,「個性重視の教育」と「基礎・基本の徹底」,「自主的学習」と「一斉指導」,「支援」と「指導」など,体育本来の目的や効果的な学習指導という面からみれば,両者はいずれも大切な事柄である。にもかかわらず,前者は生徒主体の教育観に立った新しい考え方,後者は教師主導の古い考え方といったステレオタイプ的な見方が教育の現場を支配するようになるなどがその典型である。
◯学校独自の選択制授業を
また,選択制授業にしても,学校の実態にふさわしい選択制授業が工夫されているかを問うことよりも,ただ単に形式的に選択制を採用しているか否かに関心が向けられがちである。不備な条件下での形だけの選択制授業では,技能や体力の向上はおろか本当の「運動の楽しさ」さえ味わえずに,放任的な「お遊び」に終わってしまうことも懸念される。
教育の改善を試みる場合には,それぞれの学校が置かれている現状からスタートすべきであると考える。大規模校と小規模校では人的・物的条件が異なるであろうし,保健室登校・いじめ・怠学など生徒の深刻な問題を抱えている学校にあっては,生徒の自主的学習を早急に期待することが困難なことも予想される。また,教師自身の教育観やこれまで培ってきた授業スタイルを急に変えることは教師経験が長いほど難しいという問題もある。このようにさまざまな問題を抱える多様な学校を,学習指導要領が改訂される度に全国一率に変えようとすることには無理がある。
本当に生徒のためになる授業づくりを目指すならば,全国横並びの形式的な選択制授業によらずに,自校独自の方式を研究することによって,生徒も満足し教師も納得できるような授業の改善を図ってほしい。
その点,新学習指導要領では,「各学校の特性を生かした特色ある教育」を重点課題に掲げていることは大いに歓迎されるべきことである。
◯本書でのねらい
今日,児童生徒の登校拒否,いじめ,健康・体力の低下など心身の歪みが社会的な関心事となっている。また,新学習指導要領では保健体育の授業時数が減少し必修クラブも廃止された。
このような状況の中にあって,生涯スポーツに対する社会的需要は,今後一層高まることが予想される。したがって,「運動に親しむこと」と「自学能力の育成」は今後とも重視されるであろう。と同時に,誰もが「運動の楽しさや喜び」を味わうためには,それに必要な最低限の基礎・基本技能の習得が不可欠であると考えられる。また,第二次成長期にある中学生にとっては,体力の向上も重要な発達課題である。
本書は,以上のような考えに立って,時代迎合的なテーマや考え方にとらわれることなく,今の体育が抱えている問題や課題,特に選択制授業を中心に,各教師が関心を持って取り組んできた実践によって構成した。
私どものささやかな実践が,読者に少しでも参考になれば幸いである。
最後に,このような機会を与えてくださった明治図書に謝意を表したい。
1999年8月 /西 順一
-
- 明治図書