- はじめに
- Chapter 1 英語学習の問題点
- [1] 初期学習資料分析から見るつまずきの始まりとその行方
- [2] つまずきの始まり
- [3] 教科書と学習者のつまずき
- [4] コミュニカティブな教授法の落とし穴
- [5] 教室文化の二面性
- [6] まとめ
- Chapter 2 授業構築の基盤を探る
- [1] Brunerに学ぶ
- [2] Riversを再考する
- [3] 指導過程の再検討
- Chapter 3 聞くことの指導
- [1] リスニングの問題点
- [2] リスニングの基本的指導
- [3] リスニングの統合的指導
- [4] 授業場面以外でのリスニング
- Chapter 4 話すことの指導
- [1] 話すことの問題点
- [2] 話すことの基本的指導
- [3] 話すことの統合的指導
- Chapter 5 読むことの指導
- [1] 読むことの問題点
- [2] 読むことの基本的指導
- [3] 読むことの統合的指導
- Chapter 6 書くことの指導
- [1] 書くことの問題点
- [2] 書くことの基本的指導
- [3] 書くことの統合的指導
- Chapter 7 フィードバックの研究
- [1] 第2言語習得からフィードバックの研究推移
- [2] 日米EFLクラスにおけるフィードバック
- [3] 今後の課題
- Chapter 8 授業指導のあり方
- [1] 中学1年:指導案作成上のポイントと指導案実物資料
- [2] 中学3年:指導案作成上のポイントと指導案実物資料
- [3] 高校1年:指導案作成上のポイントと指導案実物資料
- [4] 最後に
- Chapter 9 自律学習の実践
- [1] 自律学習の必要性と実践例
- [2] 暗唱
- [3] ライティング活動
- [4] 教室から世界へ
- Chapter 10 学習方略の分析
- [1] 学習方略とは
- [2] 学習方略の特性
- [3] 大学生の学習方略
- [4] 中学生の学習方略
- [5] 高校生の学習方略
- [6] 分析結果と今後の課題
- 主要参考文献
はじめに
諸外国とは異なる日本のEFL環境の特殊性を考慮する時,教室へ第2言語を持ち込む唯一人の日本人英語教師の存在は非常に大きいことを考えさせられます。今,英語教育改革の動きは早期英語教育の導入,英語授業時間数増,新任教師の実習期間大幅延長案など多方面に論議を呼んではいるものの,私にとって真の改革は,「何万何千という教室の中」にあり,そこにいる教師自身によるものと考えます。
この考え方の根拠となったのは,ジョージタウン大学でのLado博士との会見で,「英語教育に必要なのは,巷にあふれる『仮説』でなく,教師の『実験』だ」と言われた博士の言葉でした。それから10年,学習者の習得過程を見つめてきて2つの大きな発見をしました。学習者が記憶できるのは「構造化して提示される知識」であり,学習者を真剣に動かすものは「言語の創造的使用」がなされる時であることでした。この発見はBrunerとRiversの教授理論に支えられております。BrunerとRiversから教えられたのは,数々の教授法や,移り変わる教育情勢を越えて存在する外国語教育の基盤でした。この基盤が教師の教育理念を形成し,語学授業の組み立て方を決めるものであるということでした。
私は教師生活を五島列島の中学校から始め,中高一貫校を経て,現在大学で教えております。5つの中学校,高等学校で教えられたことは,(1)中学英語が高校英語の成否の鍵を握ることでした。中学の授業が成功していれば高校3年間は同じリズムに乗ってさらに向上していけるということでした。4領域の充分な基礎力を持つ学習者を高校へ送り込んだ場合は,その効果は一段と高くなることがわかりました。スピーチ,ディスカッション,ディベート,英文レポート,トップダウンの読みなどに対する素地がすでに中学段階でできている学習者を高校でさらに引き上げることは可能でした。大学でさらに見えてきたことは,(2)中学生から大学生まで英語学習上のつまずきは共通していることでした。このことから,改めて「基礎の重み」と,学年が下がれば下がるほど「英語学習全体を見通せる教師」が必要であることを痛感しております。これは,(3)中学段階で身につけた英語学習態度は,「そぎ落とし」が非常に難しいということとも深い関連があります。中学段階でどのような指導を受けたかということがその後の英語学習の姿勢に大きな影響を及ぼすということです。学習者によっては中学時すでに英語の達人と称される人々が持つ方略を行使するようになる者もいます。一方で,中高6年間あるいは大学においてもほとんど方略の意識がなく,古い習慣を引きずっている学習者も多く見受けます。学習方略も初期段階の教師の指導と密接な関係があると思います。
本書はこのような状況下にあって,日本の英語教育改善の原点は,中学の基礎段階にあり,そこに大きな可能性と発展性があることを中・高若手教師の皆さんに知っていただきたいという願いで執筆しております。したがって本書は第2言語教室へ向けた改革を前面に据えており,次のような流れを特徴とします。
教室授業のみではどのように賢明な方法を取ってみても充分な指導効果が期待できないことから,改善は,教室学習と教室外学習の一貫した流れを構築することによって,自律学習を育成し,4領域の統合的発展学習を推進するという視点に立っております。各章は,@表出活動につまずく学習者の実態と原因,A本書のフレームワークとなるBrunerとRiversの教授理論,B各4領域の最重要課題と指導のあり方,及び,フィードバックのあり方,C中高の学習指導案実践例,D教室と,教室外学習をつなぐ自律学習3年間の実践例,E学習方略等を中心に論を展開しています。
本書の出版に際しましては,長い年月にわたって多くの方々からご協力と,ご助言をいただきました。Brunerをご紹介いただきました天満美智子先生,常にご指導をいただきました板倉武子先生と鈴木千鶴子先生,育て導いていただきました活水学院,Andrea Tyler先生(ジョージタウン大学院教授),この貴重な執筆の機会をお与えくださった長崎外国語大学の池田紘一学長をはじめ同僚の皆様に深く感謝いたします。また,多忙を極める中,数回の査読に協力を惜しまなかった本学卒業生白井志歩さん,陰に日向に励まし,協力してくれた本学の教職コースの学生の皆さんに心より感謝いたします。
そして,長きにわたりアメリカ文学をご教授いただきました寛大な師,Robinson博士にこの場を借りて衷心より感謝致します。
最後になりましたが,本書の出版を快くお引き受けいただき,原稿提出に貴重なご助言と,創造的アイディアをくださいました編集部の木山麻衣子様,及び困難極まる校正をしていただきました吉田茜様に深く感謝申し上げます。
2011年3月 /関 きみ子
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- 明治図書