- まえがき
- 第1章 セルフ・エスティームをはぐくむ技術・家庭科教育
- 1 ここはすばらしい学びの場
- 2 技術・家庭科の学びのセルフ・エスティーム
- 3 自尊感情と自己モニタ力
- 4 成果を求める技術・家庭科
- 5 自分ってこんなにすばらしいんだ
- 第2章 セルフ・エスティームを大切にした実践
- A 生活の自立と衣食住
- [1] 『コンビニから○○が見えた』
- 〜これからの家庭科学習で「自分が追求したい課題」をもつ授業〜
- [2] 実験とポスターセッションで学ぶ「基本的な調理操作」の授業
- [3] 『15分で被服製作に挑戦だ!』
- 〜「着る目的にあった服」をみんなでつくる授業〜
- [4] セルフ・エスティームをはぐくむ住生活の授業展開
- [5] セルフ・エスティームをはぐくむ食生活
- 〜地域の食材を知り,創作郷土料理をつくろう〜
- [6] 自分らしさを生かした表現活動
- 「オリジナルブランドでファッションショーをしよう」
- B 家族と家庭生活
- [1] 「生い立ちの記」を通して考える「家族・家庭生活とのかかわり」の授業
- 〜私って,ちっちゃいころかわいかったんだ!〜
- [2] 子どもの心や体の発達に大切な環境や家族の在り方
- 〜自分もこうして,大きくなったんだ!〜
- [3] ロールプレイングで家族関係について交流学習
- 〜見つめて発見 家族の気持ち,考えて実行 仲よく暮らす方法!〜
- [4] 賢い消費者を目指して「消費者としての自己責任能力を高める工夫」
- 〜あなたも消費者の一員。エ〜! こんなにお金を使ったの? ペンケースの中身から見える消費活動〜
- [5] 幼児と遊び(おはなしサイコロづくり)
- [6] 自分の成長と家族や家庭生活とのかかわりの中で,自分を見つめよりよく生きようとする力を育てる「幼児が好き! 私たちの町が好き!」
◆まえがき◆
この数年,1月に開催されている全日本中学校技術・家庭科研究会主催の「全国中学生創造ものづくり教育フェア」に参加して,日本の中学生が備えている能力のすばらしさを,毎年のように再認識するとともに強い感動を覚えています。ものづくり競技大会の『とっておきのアイディアハーフパンツ』や『目指せ!!「木工の技」チャンピオン』,地区から選ばれた代表で競う『生徒作品コンクール』や『ロボットコンテスト』,及び『体験セミナー』など,技術・家庭科教育の実績が結実し,そのコンテストや作品から生徒の工夫・創造力,実践力,問題解決力など無限の可能性を備えた資質・能力を見とることができます。競技やコンテストに参加している生徒の熱心な姿や,製作品を通して優れた巧緻性や卓越した技能の発揮が明確になり,その資質・能力をうかがい知ることができます。
一方,日常の学校における技術・家庭科教育で,実践的・体験的学習の重要性と問題解決的学習の必要性を含んだ,ものづくりやコンピュータ操作,調理やディベート学習など,生徒が生き生きと学ぶ姿が見られます。生活環境から生じる手先の不器用さやものづくりの未熟さなどが指摘されますが,ものづくりや調理実習などの活動では少ない授業時間の中でも着実に技能や認識が定着しています。決して,工夫・創造力や実践力が低下しているとは言えないと考えます。生活上の必要性が不足しているから現れないだけであって,生徒自身の資質には変化はなく,原因は十分に時間をかけて能力として育成されていない状況が見られるためと考えられます。「つくりたい,触ってみたい,飛ばしてみたい,食べてみたい,着てみたい,走らせてみたい,加工してみたい,演じてみたい,編んでみたい……」など,本質的に生徒の備えている興味や関心は高いと感じられます。無感動や無関心ではなく,その行為すなわちものづくりや調理実習などの価値を認めない社会に問題があるように思われます。
ものをつくったり調理したりしているときは,どの生徒も純真で楽しそうで幸せそうな表情や姿が見られます。数学や英語のような座学中心の教科と違い,そしてペーパーテストがよくできる・できないに関係なく,生き生きとした充実感をもっています。自分の価値や有用感を備え,自分が大切で意味ある存在に感じる自尊感情をもっていることがよく分かります。私たちが考えている学力観は,ペーパーテストで計れる数量化されるデーターだけでなく,豊かな感性とともに工夫・創造力,技能,関心や意欲,行動する態度などを含んだ総合した資質・能力を指します。確かに,10年前や20年前の生徒と比較して,生活環境の変化や教科の授業時間数の削減などから生じるその能力の低下は認められますが,備えている資質は全然低下していないと思われます。要は,生徒の資質・能力の状態は,学力観をどのように考え,何をもって学力と定義づけるかによって差異が見られるものですが,現状は,一部分だけを比較して学力低下が叫ばれている傾向が認められます。
本来の人間性を大切にする,人間の本能的で充実した生き方を大切にする,そして自分の存在を大切にする技術・家庭科の教育を充実発展させたいと考えます。本書は,学校の教育現場で見られる生徒の生き生きした姿や一生懸命取り組む表情から,技術・家庭科の教科の意義を感じ,その具現化のためにまとめあげたものです。技術・家庭科を担当される先生は元より,将来,教師を志望されている学生の方,ものづくりや調理を大切と思われる皆様に読んでいただけることを願っています。そして,日本の教育の大切なコア的存在として技術・家庭科教育の普及並びに発展に少しでも役立てばうれしいです。
読んでいただき,忌憚のないご意見やご感想,そしてご質問をお気軽にお聞かせください。
2005年12月 京都教育大学教授 /安東 茂樹
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- 明治図書