- まえがき
- 第1章 セルフ・エスティームをはぐくむ技術・家庭科教育
- 1 ここはすばらしい学びの場
- 2 技術・家庭科の学びのセルフ・エスティーム
- 3 自尊感情と自己モニタ力
- 4 成果を求める技術・家庭科
- 5 自分ってこんなにすばらしいんだ
- 第2章 セルフ・エスティームを大切にした実践
- A 技術とものづくり
- [1] 身近で使うものを,自分のアイディアで独自につくり出そう
- 〜世界に一つのマイグッズ〜
- [2] ものづくりの楽しさは,道具との出会い
- [3] 素材を生かす,自分を生かす
- 〜アイディア・ライトの製作を通して光と影を楽しむ〜
- [4] 発想や工夫しだいでオリジナル作品に変身するものづくり
- 〜わが家の必需品ティッシュケースの製作〜
- [5] 自分にとってオンリーワンのものづくり
- 〜ミニ蛍光灯を使って「生活を彩るあかり」をつくる〜
- [6] 成就感に達成感そしてやりがいのあるものづくり
- 〜ものづくりの上手下手って関係ない!〜
- B 情報とコンピュータ
- [1] コンピュータのいろいろな使い方
- 〜自分のプロフィールづくりに挑戦しよう!〜
- [2] 多様なコンピュータの機能に触れて試す
- 〜オリジナルクイズ・ゲームをつくってみよう〜
- [3] 様々なソフトを活用して豊かな表現を工夫しよう
- 〜環境問題やネチケットについて自分らしさを生かして伝えよう〜
- [4] 個人情報に配慮した郷土紹介ポスターの制作
- 〜私の町について教えてあげるね〜
- [5] 学びの継続性をふまえたマルチメディア活用の題材
- 〜ものづくりのすばらしさを伝えるディジタルコンテンツづくりの授業〜
- [6] 自分のイメージをプログラムで表現する
- 〜コンピュータでイルミネーションを光らそう〜
まえがき
この数年,1月に開催されている全日本中学校技術・家庭科研究会主催の「全国中学生創造ものづくり教育フェア」に参加して,日本の中学生が備えている能力のすばらしさを,毎年のように再認識するとともに強い感動を覚えています。ものづくり競技大会の『目指せ!!「木工の技」チャンピオン』や『とっておきのアイディアハーフパンツ』,地区から選ばれた代表で競う『ロボットコンテスト』や『生徒作品コンクール』『体験セミナー』など,技術・家庭科教育の実績が結実し,そのコンテストや作品から生徒の工夫・創造力,実践力,問題解決力など無限の可能性を備えた資質・能力を見とることができます。競技やコンテストに参加している生徒の熱心な姿や,製作品を通して優れた巧緻性や卓越した技能の発揮が明確になり,その資質・能力をうかがい知ることができます。
一方,日常の学校における技術・家庭科教育で,実践的・体験的学習の重要性と問題解決的学習の必要性を含んだ,ものづくりやコンピュータ操作,調理やディベート学習など,生徒が生き生きと学ぶ姿が見られます。生活環境から生じる手先の不器用さやものづくりの未熟さなどが指摘されますが,ものづくりや調理実習などの活動では少ない授業時間の中でも着実に技能や認識が定着しています。決して,工夫・創造力や実践力が低下しているとは言えないと考えます。生活上の必要性が不足しているから現れないだけであって,生徒自身の資質には変化はなく,原因は十分に時間をかけて能力として育成されていない状況が見られるためと考えられます。「つくりたい,触ってみたい,飛ばしてみたい,食べてみたい,着てみたい,走らせてみたい,加工してみたい,演じてみたい,編んでみたい……」など,本質的に生徒の備えている興味や関心は高いと感じられます。無感動や無関心ではなく,その行為すなわちものづくりや調理実習などの価値を認めない社会に問題があるように思われます。
ものをつくったり調理したりしているときは,どの生徒も純真で楽しそうで幸せそうな表情や姿が見られます。数学や英語のような座学中心の教科と違い,そして,ペーパーテストがよくできる・できないに関係なく,生き生きと充実感をもっています。自分の価値や有用感を備え,自分が大切で意味ある存在に感じる自尊感情をもっていることがよく分かります。私たちが考えている学力観は,ペーパーテストで計れる数量化されるデーターだけでなく,豊かな感性とともに工夫・創造力,技能,関心や意欲,行動する態度などを含んだ総合した資質・能力を指します。確かに,10年前や20年前の生徒と比較して,生活環境の変化や教科の授業時間数の削減などから生じるその能力の低下は認められますが,備えている資質は全然低下していないと思われます。要は,生徒の資質・能力の状態は,学力観をどのように考え,何をもって学力と定義づけるかによって差異が見られるものですが,現状は,一部分だけを比較して学力低下が叫ばれている傾向が認められます。
本来の人間性を大切にする,人間の本能的で充実した生き方を大切にする,及び自分の存在を大切にする技術・家庭科の教育を充実発展させたいと考えます。本書は,学校の教育現場で見られる生徒の生き生きした姿と一生懸命取り組む表情から,技術・家庭科の教科の意義を感じ,その具現化のためにまとめあげたものです。技術・家庭科を担当される先生は元より,将来教師を志望されている学生の方,ものづくりを大切と思われる皆様に読んでいただけることを願っています。そして,日本の教育の大切なコア的存在として技術・家庭科教育の普及並びに発展に少しでも役立てばうれしいです。
読んでいただき,忌憚のないご意見やご感想,そしてご質問をお気軽にお聞かせください。
本書の執筆陣として,静岡県浜松市の「技術クラブ」の先生方を中心に,すばらしい実践を推進されている先生を加えて技術科教育の指導法や考え方をまとめあげました。
浜松市の「技術クラブ」は,昭和49年,中村義明先生,齊藤庸男先生,斎木榮二先生(故人)の3人の先生により設立されました。当時,技術科が教科として認知された状況ではなく,各学校において一人教科でありました。そのため,大学で技術科教育を学んだ先生は経験の少ない若い人ばかりでした。そこで,静岡大学教育学部附属浜松中学校を拠点として,「明日の授業をどうすればよいか」から始まり,先生の資質の向上や技術科教育の発展を目指して近隣の先生方に研究会の設立や参加を呼びかけました。結果,静岡県西部地区を中心に,続々とその輪に参加する先生が増えました。本書の編著者の安東も平成8年から参加しています。研究会では,指導案の検討,題材の開発,研究大会の発表原稿の検討等,日々の授業と直結した研究活動を行ってきました。今年で設立から32年になりますが,これまでの成果をこの機会に結集していただきました。
2005年12月 京都教育大学教授 /安東 茂樹
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- 明治図書