- 序 文 東京学芸大学教授 /金谷 憲
- はじめに
- 第1章 なぜ「個別化授業」を始めたのか
- 1.「個別化授業」を始めようとしたきっかけ
- 「透」という中学3年生がいた/ 「透」以外の生徒の視線/ 「透」への取り組み/ 普通じゃない生徒一人ひとりへの取り組み/ 「透」たちが卒業して/ 中学3年生3学期の授業
- 2.「個別化授業」への第一歩
- 教師3年目での授業への取り組み/ LL教室の活用
- 3.現在の「個別化授業」に至るまで
- コンピュータの活用/ 「個別化授業」の講演会
- 第2章 こうすればうまくいく 「個別化授業」の秘訣
- 1.「個別化授業」の特徴
- 2.「個別化授業」を上手に始めるための7つの方法
- その1 「見栄えのいい授業」へのこだわりを捨てる/ その2 「一斉授業」の常識を壊す/ その3―1 「待てる教師」になること/ その3―2 生徒が自分から学習し始めるのを「待つ」/ その3―3 生徒が自分で疑問を解決できるまで「待つ」/ その4 自分から学習を始められない生徒にアドバイスを与える/ その5 「個別化授業」でのきまり/ その6 生徒一人ひとりの学習課題を把握させるための手だてを取る/ その7―1 生徒一人ひとりの学習履歴を残させる/ その7―2 学習課題をどのような方法で解決させていくのか/ その7―3 学習履歴の記録方法/ その7―4 「私の学習課題」確認カードの活用法
- 3.中学3年間のいつから「個別化授業」を始めるのか
- 1年生/ 2年生/ 3年生/ 実際の授業での指導内容/ 始める前に必要なこと/ 実施する前のオリエンテーションでの指導内容/ 「個別化授業」の意義 その1〜その3/ 「個別化授業」でのきまり/ 3年生に向けてどのように個別化授業が変化するのか
- 4.「個別化授業」での学習方法
- 第1時間目以降の「個別化授業」
- 5.「個別化授業」での配分
- 2種類の「個別化授業」/ 完全個別化授業での教師の役割/ 「個別化授業」の準備
- 6.「個別化授業」での2種類の授業方法
- 単独個別化授業/ 並列個別化授業/ ネイミング
- 7.「個別化授業」を実践する時間をどのように生み出すか
- 授業方法のDrastic Change/ 音読指導について/ 指導内容の精選
- 8.授業効率を上げる教育機器の活用
- コンピュータ/ 教材提示卓/ CDリピータ/ ビデオデッキ
- 第3章 「個別化授業」を成功させる 使用教材トップ10
- 1.「個別化授業」の3つの展開パターン
- 基本パターン/ 並行パターン@/ 並行パターンA
- 2.「個別化授業」で使用する教材について
- 最近3年間で使用した教材と授業方法/ 教材・授業方法の概要
- 3.基本パターンで活用している教材 その1―スカグー
- 4.基本パターンで活用している教材 その2―スカイラウンジ
- 5.基本パターンで活用している教材 その3―ドリルマラソン
- パソコン・ドリルマラソン記録用紙(若葉・熟練・ドリルプロコース)/ ドリルマラソン競技上の注意事項
- 6.基本パターンで活用している教材 その4―WINNING問題集
- 7.並行パターンで実施している授業形態 その1―Split Lesson
- 班名簿/ Split Lessonの感想カード
- 8.並行パターンで実施している授業形態 その2―音読テスト
- 9.生徒が自分の学習課題を確認するための準備教材―学習課題確認テスト
- 「私の学習課題」確認カード
- 10.基本パターンで活用しているその他の教材
- 英語教室で活用している教材/ コンピュータルームで活用している教材
- 第4章 授業が変われば生徒も変わる 「個別化授業」の成果
- 1.学力調査問題で「個別化授業」の成果を測定
- 2.「個別化授業」の効果について
- 所沢市立E中学校での取り組み/ 所沢市立T中学校での取り組み/ 埼玉県中学校学力調査問題の結果
- 3.「個別化授業」を終えての生徒の感想
- 4.今後の課題
- 資料 普通教室で「個別化授業」を始めるきっかけとなった講演会/ ドルトンプラン Dalton Plan/ 英語教育達人セミナーでの発表/ リトミック/ その他
- おわりに
◆序文―英語授業研究の新世紀を切り開く―
英語教師の最も大切な役目は,生徒の英語学習を支援することである。teachingはlearningを助けることにある。教育では生徒の「学習」が主役である。
しかし,英語学習を主軸に据えた授業の取り組みはまだまだ多くは見られない。まだ「どう教えるか」が中心に据えられている。「どう教えるか」はもちろん大切なことである。しかし,このことには,「どう学んでいるか」についての観察が進まなければ,答えることが出来ない。
「どう学ばせるか」を考えることは「どう教えるか」を考えるのと比べて数段難しい。「どう教えるか」は主に教師側の都合でどうにでもなることである。「どう学ばせるか」となると教師側の都合通りには行かない。生徒側の話である。しかも,教師は1人だが,生徒は30人,40人といる。「個別」と簡単に言うが,それに教師が対応するのは容易なことではない。30通り,40通りの学習があるからである。
個別学習をさせるには「学習」に関する深い洞察が必要である。個別に対応するには何十種類もの教材などのリソースの蓄積が必要である。50分授業1コマ単位の授業研究では到底やりきれるものではない・中学3年間を通した学習についての理論が必要である。
小林泰義さんは,ずいぶん前から,生徒たちが「どう学んでいるか」に焦点を当てて「どう学ばせるか」を中心課題として,授業研究を進めてきている人である。おそらく,20年近くも前に私のところへ埼玉県の長期研修生として来ていた頃から,この課題は彼の中心課題だったと思う。個別学習がお題目のみで唱えられていたころから,このことに真剣に取り組んで来た人である。
小林泰義さんは有言実行の人である。授業研究がもっぱら教師のperformanceを中心に行われていたころから,彼は一人,英語学習の長期的展望に立って,個別学習というテーマを自分の研究テーマと公言して研究してきた。英語学習を主軸にする,長期的展望に立つ,システムとして授業を考えるなど,どれをとってみても,現在でも十分に研究が行われていない事柄だらけである。そのすべてについて小林さんは一人,取り組んできた。英語授業研究の新世紀を切り開く営みである。彼の試みは極めて先進的なものであると言ってよい。あるいは,先進的にすぎたのかもしれない。これまで十分に注目されてこなかった。
今回,明治図書より,このようなかたちで小林さんの個別化学習の試みが紹介されることとなったのは,やっと時代が彼に追いついて来たことの証左であり,英語教育にとって大変望ましいことである。
2005年7月 東京学芸大学教授 /金谷 憲
普通の教師だったら無理だと諦める部分を実現されているのがすごい。音読をどう指導するか、本文、文法指導はどうするかなどについて、懇切丁寧な解説と紹介が展開されている。また、生徒の音読発表を画期的な方法で行っていることが紹介されていたり、発想のダイナミックさときめ細やかさに、読み手にもかなりのインスピレーションを得ることができる。
さらに、生徒を自主的な学習者にするために教師は何をすればよいかがわかり、スプーンフィーディング的な指導に悩む人にもかなりの示唆を与えてくれる書でもある。