- まえがき
- 第T章 準備運動とコーディネーション能力
- 準備運動とは?
- 準備運動におけるコーディネーション運動のポイント
- 第U章 つまずき克服のための準備運動で行うコーディネーション運動
- 1 陸上運動に必要な能力
- @陸上運動全般におけるコーディネーション運動
- (1)リアクションダッシュ(全)/ (2)シャトルラン1(全)/ (3)シャトルラン2(中・高)/ (4)ジャンケンシャトルラン1(全)/ (5)ジャンケンシャトルラン2(中・高)/ (6)リアクションタグ1(全)/ (7)リアクションタグ2(全)/ (8)リアクションタグ3(全)/ (9)リアクションストップボール(全)/ (10)フラフープジャンプ1(全)/ (11)フラフープジャンプ2(全)/ (12)足ラダー(中・高)/ (13)足ラダー競争(中・高)/ (14)長縄ハードル(低・中)/ (15)長縄くぐりダッシュ(中・高)/ (16)バトン送りリレー1(全)/ (17)バトン送りリレー2(全)/ (18)ペットボトルバトンキャッチ1(中・高)/ (19)ペットボトルバトンキャッチ2(中・高)
- ※エクササイズ名の後ろの( )は対象学年です。
- 低―低学年,中―中学年,高―高学年,全―全学年。
- 現場の実態に合わせて行ってください。
- 2 器械運動に必要な能力
- @器械運動全般におけるコーディネーション運動
- (20)腕支持リズムジャンプ(全)/ (21)マリオネット(全)/ (22)グーパージャンプ1(全)/ (23)グーパージャンプ2(全)/ (24)ケンステップラダー1(全)/ (25)ケンステップラダー2(中・高)/ (26)ペンギン歩き1(低・中)/ (27)ペンギン歩き2(低・中)/ (28)サイドローリング1(全)/ (29)サイドローリング2(全)/ (30)ローリング1(全)/ (31)ローリング2(全)/ (32)リアクションローリング(全)/ (33)壁登り倒立トンネル1(低・中)/ (34)壁登り倒立トンネル2(中・高)/ (35)友だち人越え側転(中・高)/ (36)ボール投げ&ローリング1(全)/ (37)ボール投げ&ローリング2(全)/ (38)ローリング&ストップボール(全)/ (39)ローリング&ボールキャッチ(中・高)
- A跳び箱運動全般におけるコーディネーション運動
- (40)いろいろジャンプ1(低・中)/ (41)いろいろジャンプ2(中・高)/ (42)ドロップジャンケン1(低・中)/ (43)ドロップジャンケン2(中・高)/ (44)ボール投げ&ドロップキャッチ1(全)/ (45)ボール投げ&ドロップキャッチ2(全)/ (46)空中ボールキャッチ1(中・高)/ (47)空中ボールキャッチ2(中・高)/ (48)跳び箱ボールキャッチ1(全)/ (49)跳び箱ボールキャッチ2(中・高)
- B鉄棒運動全般におけるコーディネーション運動
- (50)腕支持ジャンプ1(低・中)/ (51)腕支持ジャンプ2(全)/ (52)腕支持ジャンプ3(中・高)/ (53)腕支持リアクションジャンケン(全)/ (54)逆さまリアクションジャンケン(全)/ (55)リアクション鉄棒回り(全)/ (56)逆さまキャッチプル1(全)/ (57)逆さまキャッチプル2(全)
- 3 ボール運動に必要な能力
- @ボール運動全般におけるコーディネーション運動
- (58)ドンジャンケン(全)/ (59)しっぽ取り1(低)/ (60)しっぽ取り2(中・高)/ (61)ステップオンゲーム(全)/ (62)リアクションステップオンゲーム(中・高)/ (63)リアクションタグボール1(低・中)/ (64)リアクションタグボール2(高)/ (65)リアクションタグボール3(中・高)/ (66)ジャンケンシャトルランボール1(低・中)/ (67)ジャンケンシャトルランボール2(全)/ (68)まねっこキャッチ(全)
- Aバスケットボールにおけるコーディネーション運動
- (69)いろいろドリブル1(中・高)/ (70)いろいろドリブル2(全)/ (71)階段ドリブル(中・高)/ (72)舞台ドリブル(中・高)/ (73)ドリブルボールカットバスケ(中・高)/ (74)ドリブルジャンケン(中・高)/ (75)バランスボールパス(全)/ (76)選択リアクションパス1(全)/ (77)選択リアクションパス2(高)/ (78)ツーボールパス1(全)/ (79)ツーボールパス2(中・高)/ (80)ボールラケットパス1(全)/ (81)ボールラケットパス2(中・高)/ (82)いろいろタッチドリブル(全)/ (83)ドリブルリアクション(低・中)/ (84)仲良しドリブルバスケ(全)/ (85)仲良しステップドリブル(全)/ (86)ボール投げジャンケン1(低)/ (87)ボール投げジャンケン2(中・高)/ (88)テイクオンゲーム(低・中)/ (89)平均台ボールキャッチ1(全)/ (90)平均台ボールキャッチ2(全)/ (91)平均台ドリブルバスケ1(全)/ (92)平均台ドリブルバスケ2(高)/ (93)平均台パス(全)/ (94)ドリブル&ストップボール(全)
- Bサッカーにおけるコーディネーション運動
- (95)対面ストップボール(低・中)/ (96)リアクションボールキック1(全)/ (97)リアクションボールキック2(中・高)/ (98)リアクションボールパス1(中・高)/ (99)リアクションボールパス2(高)/ (100)ボールストッピング1(低・中)/ (101)ボールストッピング2(中・高)/ (102)フワフワキャッチ1(低・中)/ (103)フワフワキャッチ2(中・高)/ (104)フープスルーキック(高)/ (105)ドリブルボールカットサッカーバージョン(中・高)/ (106)ジャンケンシャトルランサッカー1(低・中)/ (107)ジャンケンシャトルランサッカー2(中・高)/ (108)仲良しドリブルサッカー(中・高)/ (109)ツーボールドリブルサッカー(中・高)/ (110)平均台ドリブルサッカー(中・高)/ (111)平均台トラップ(中・高)/ (112)平均台越えドリブル(中・高)
まえがき
体育の授業において,準備運動にコーディネーション運動を取り入れることを積極的に提案します。その理由は,
1.心身の解放
2.運動量の確保
3.学習過程の視点
という,3つの要因からです。
心身の解放については,「自由度」がキーワードになります。子どもたちは,本来体を動かすことが好きで,自然な姿でもあります。教室の中で,集中して勉強をしていたり,これから教室での勉強が始まる,そんな状況の中で,最大限の自由度を確保した,準備運動が大切になってきます。張り詰めていた心身の緊張を,コーディネーション運動によって和らげてください。そこには,単に走り回るのではなく,コーディネーション能力の開発という重要なねらいが,準備運動の段階から設けられている点に着目していただきたいと思います。一見,ワイワイガヤガヤしているのだけれど,児童期に大切な神経系の開発つまり,コーディネーション能力の開発というしっかりとした軸をもっている点が,大きく異なる点です。
運動量の確保のキーワードは,「みんなで」です。片方が行って,一方は待っているのではなく,全員参加型によって,運動量を確保します。待ち時間なしで,準備運動のコーディネーション運動をテンポよく実施してみましょう。毎回少しずつ変わるコーディネーション運動は,子どもたちの知的好奇心を刺激し,動機づけを高めることにつながります。たとえ授業の前に,何か嫌なことや気になることがあったとしても,みんなで体を動かしているうちに忘れてしまいます。あるいは運動が苦手な子どもは,「入り口」でどうしても立ち止まってしまいがちな傾向にあります。そうすると,次に続く主運動では,さらに受け身の状態が形成されます。
学習過程の視点から,コーディネーション運動を準備運動に積極的に組み込む理由は,2つの理論を背景にしています。第1は,発見学習などを提唱したアメリカの教育心理学者ブルーナーの認知発達論にもとづいた,学習過程の視点です(ブルーナー,1970)。
ブルーナーは,学習過程には次の3段階があると報告しています。
1.行動的把握(小学校低学年)
2.映像的把握(小学校中学年)
3.記号的把握(小学校高学年)
行動的把握とは,直接に手で握っているとか,動いてみるとか視野に入ったものなど直接的な行動によって事物を把握することをいいます。例えば,自転車乗りを学ぼうとしている子どもに対して,「ほら,ハンドルを柔らかく握るんだ。それ,ペダルを踏むんだ」とかたわらから言語指示をしても,それは無駄です。なぜならば,指示した言語は,子どもの耳に届きはするが,彼の手足の筋肉運動と結びつかないからです。つまり,行動的把握の子どもには,心的な内面過程が未完成であり,言語指示を受け入れる心的素地がほとんどないため,といわれています。
映像的把握では,事物を視覚的ないし聴覚的なイメージとして,把握したり表現したりする段階になります。例えば,人や物との距離を測るとき,動いて実測するのが行動的把握であり,視覚による目測が映像的把握です。鬼ごっこをさせたとき,幼児期ではよく子ども同士がぶつかるケースがあります。これは,目測つまり距離感が未発達なために起きているのであり,行動的把握の段階であることが分かります。行動的把握における直接的な身体動作から,頭の中での動作に転化したものが,映像的把握ともいえます。
記号的把握とは,事物を言語記号によって把握したり,表現したりすることです。言語は,内容(意味されるもの)とこれをいいあらわす簡潔な記号(意味するもの)とから成り立っています。言語は,映像を簡潔に記号化し,脳へ貯蔵し自由に引き出すことを可能にします。さらに重要なこととして,記号的把握は他者との交流が自在である,という点です。例えば,ボールを投げ上げてボールの周りを片手あるいは両手で回す,ボールロールというエクササイズを行うとき,映像的把握の段階では,実際に模範をして見せたのちに行います。記号的把握になると,「腕を交互に回してみましょう」「ハートを描いてみよう」「ボールは膝より下で取るんだよ」という説明が可能となるのです。
対象とする学年に応じて,あるいは学習段階によって,各学習過程の特性を置き換えてみてください。そうすると,意味のある学習としての準備運動が構成されると考えます。
第2は,体験的な学習の提唱者でもある,アメリカの心理学者コルブの「学びの4タイプ」モデルです。コルブは,人は体験的に学ぶという前提のもとに,情報の認識の仕方と情報の加工方法によって,大きく4つのタイプのモデルをつくりました。それは,以下のとおりです。
1.見たり,聞いたり,読んだりして学ぶタイプ
2.じっくり考えることによって学ぶタイプ
3.動いたり,実際に試してみることによって学ぶタイプ
4.フィーリングや感情,直感などを大切にして学ぶタイプ
このタイプ分けは,一人の人がひとつのタイプに完全に当てはまるのではなく,4つを順番にカバーするように学んだ方が,よりよく学べるといいます。教室の授業では,1のタイプの学び方が主流ではないでしょうか。実際には,その他の学び方を得意とする子どもたちがいます。そして,体育の授業こそが,この4タイプを実践できる最適な場であると考えます。特に,準備運動からコーディネーション運動を行うことで,子どもたちに合った学びの機会が提供できると確信しています。
休み時間になり,先生が一緒になって外で遊ぼうとしても,約半数の子どもたちは教室の中。一世代前は,みんなが競って外に出て,体を動かしたものです。体を動かさないので,ますます動くのが面倒になる,という循環になります。あるいは,「外で友達と一緒に遊んでいる」と子どもたちは答えますが,なかには外でTVゲームをそれぞれで,黙々と行っているケースも少なくありません。海外のある難民キャンプを訪れた知人が,話してくれました。「日本の子どもたちは,運動難民だ」と。難民生活を余儀なくされている子どもたちは,日々の食糧を満足に口にしていないにもかかわらず,自分たちでいろいろな遊びや運動をつくって楽しんでいる,といいます。
さて,学習指導要領が改訂になり,体育の時間が小学校4年生までは,90時間から105時間となります。子どもの体力低下を危惧した,重要な施策といえます。子どもたちの身体能力の衰えは,日本だけの問題ではありません。ドイツの社会生活の変化に対応するスポーツシステムの開発に関する研究で,著名なスポーツ社会学者リットナーは,ドイツにおける幼児期および小学校低学年の体力の低下が顕著になっており,対策が急務であると報告しています。
私は,最も身近である体育の授業を通じて,子どもたちの体力の回復が王道であると考えます。なぜならば,そこには運動の得意な子も,そうではない子もいます。可能な限り,すべての子どもたちに共通の機会を提供できるのは,体育の授業だからです。幸いにも私には,私の考えをご理解いただき,コーディネーション運動を世に出していただける明治図書の皆様がいます。明治図書の皆様も,私と同じ考え方をしており,子どもたちと先生方に少しでも役立つことを願っております。
2008年4月 ポーランドにて /東根 明人
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- 明治図書