- 監修者のことば
- はじめに
- T 英語活動の基本的な考え【理論編】
- 1 社会の動向から見ると
- 2 片島小学校と子どもたち
- 3 研究主題について
- 4 年間活動計画の基本的な考え方
- 5 1単位時間の流れ
- 6 「聞く」から「話す」「伝え合う」への活動過程の工夫
- 7 HRTとALTの役割分担について
- 8 HRTのみで進める活動の工夫について
- 9 評価規準について
- (資料1) 英語の歌リスト その1
- U 英語活動の実際【実践編】
- 実践編の見方
- @ 1年 色とあそぼう
- @陣取りゲーム /Aビンゴゲーム
- A 1年 どうぶつ大好き
- @アニマルビンゴゲーム /A好きな動物を伝えよう*
- B 2年 こん虫大好き
- @虫とりビンゴゲーム /Aインタビューゲーム
- C 2年 数を数えよう
- @すごろくゲーム /A“How many 〜?”ゲーム*
- D 3年 体を使って遊ぼう
- @カード交換ゲーム /A絵本の読み聞かせ*
- E 3年 ALTに飯塚を紹介しよう
- ○中間報告会
- F 4年 持っていますか?
- @Go fishゲーム /A“Do you have 〜?”カードゲーム
- G 4年 クリスマスを楽しもう
- @雪だるま あてっこゲーム* /A雪だるまペーパーチェーン作り
- H 4年 どこにあるの?
- @宝さがしカードゲーム /A宝さがしゲーム
- I 5年 ハンバーガーショップで買い物をしよう
- ○買い物ゲーム*
- J 5年 ALTに運動会を紹介しよう
- @神経衰弱伝言ゲーム* /A種目の印象シート完成ゲーム
- K 5年 留学生にインタビューしよう
- @インタビューをしよう* /A“Who am I ?”ゲーム
- L 5年 外国の友だちにビデオレターを送ろう
- ○ビデオレターづくり*
- M 6年 道案内をしよう
- ○道案内ゲーム*
- N 6年 電話をかけよう
- ○遊びに誘おうゲーム・・・*
- O 6年 世界の旅をしよう
- ○入国審査体験*
- P 6年 校内英語放送をリニューアルしよう
- ○校内英語放送づくり*
- (資料2) 英語の歌リスト その2
- V 英語によるコミュニケーションに親しむ環境づくり【環境編】
- 1 朝の活動
- 2 Daily English*
- 3 校内放送*
- 4 校内テレビ放送*
- 5 先生も“Enjoy communication in English!”*(E研)
- 6 先生も“Enjoy communication in English!”*(夏休みE研)
- 7 英語によるコミュニケーションに親しむ10か条(教師編)
- 8 英語によるコミュニケーションに親しむ10か条(子ども編)
- 9 共通理解を図るために
- 10 保護者への理解と協力を求めて
- おわりに
- DVD contents 一覧
- (資料3) 絵本リスト
- 参考文献
- (*はDVD所収)
監修者のことば
〜未来ある子どもらのために〜
戦後の日本の公立小学校における英語教育は,平成4年度,文部省より指定を受けた研究開発学校のカリキュラム研究からスタートした。そして,10年後の平成14年度には,「総合的な学習の時間」を利用して実施される運びとなり,平成13年には文部科学省より『小学校英語活動実践の手引』(筆者は副座長として,また,第4章のカリキュラムを執筆)も刊行され,地域や学校の採択制とはいえ,今では,全国の95%以上の公立小学校で英語を取り入れた教育が実施されている。
しかしながら,その実態はさまざまである。例えば,指導体制についていえば,担任が一人で「言語(英語)を教えている(?)」ところもあれば,ALTに任せっきりの学校もある。また,英語を取り入れた教育内容についても,昭和44(1969)年の学習指導要領改定時以来,中・高の外国語科の教育内容と同様の「言語活動(=言語によるコミュニケーション活動)」とすべきなのに,昭和43年までの言語材料(単語や文法など)の学習をねらいとした「学習活動」をしているところもあれば,ただ単に,遊びに近い英語の授業をしているところもある。いわゆる「教育目標」と「教育内容」並びに「教育成果(評価)」等とのつながりが見えない授業を行っている。すなわち,英語を取り入れた活動を通して「子どものどのような資質・能力を育てようとしているのか」が見えない授業である。そのような学校や地域では,外国語としての英語を導入したカリキュラムの成果について保護者や地域の人々にどのように説明責任を果たしているのであろうか。
ところで,監修者は平成4年度の小学校英語活動開始以来,現在まで500校以上の公立小学校の学校教育研究を支援してきており,上記のような学校の実態を数多く見てきた。最近は,品川区,さいたま市,成田市,黒部市(以上,教育構造改革特区),北区,豊島区,目黒区,三鷹市等における地域で推進する「小中連携(一貫)英語教育改革」事業を支援しているが,そのような地域では,実施している教育成果について説明責任を果たさねばならない。したがって,ただ単に英語を取り入れた授業をしていればよいというわけにはいかない。
それでは,どのような教育理念で,何をどのような枠組みでどの程度行えば,誰もが納得できる学校教育研究を推進することができるのであろうか。英語を取り入れた小学校教育とは,どうあるべきなのか。小学校英語教育の目標,教育内容と教材の開発,指導法と評価の在り方,指導体制,学校の環境作りなどを含めたシステム化について,何をどのように進めればよいのであろうか。さらには,保護者や地域の人々に説明責任を果たすには,何をどうすればよいのであろうか。この種の悩みは,あちこちで聞かれる。
片島小学校のカリキュラムは,このような疑問に応えるために研究開発された。同校は,平成12年度より上述の課題を解決するための理論的・実際的基礎研究を行ってきた。その研究では,小学校英語教育(英語によるコミュニケーション活動)の目標を設定する際,次に示す義務教育の最終段階である中学校外国語科の教科目標を重視してきた。したがって,本カリキュラムの開発においても,その中学校外国語科が目指す目標と平成16年8月より文部科学省初等中等教育局が目指す国際(理解)教育の目標を出発点かつ到達点とした。なぜなら,小・中・高の外国語教育は,国際(理解)教育の一環として取り扱われているからである。
○中学校外国語科の目標:「外国語を通じて,言語や文化に対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,聞くことや話すことなどの実践的コミュニケーション能力の基礎を養う。」(『中学校学習指導要領 外国語編』)
○文部科学省が目指す小・中・高の国際(理解)教育の目標:
@ 「異文化や異なる文化をもつ人々を受容し,共生することのできる態度・能力」(共生)
A 「自らの国の伝統・文化に根ざした自己の確立」(主体性:アイデンティティー)
B 「自らの考えや意見を自ら発信し,具体的に行動することのできる態度・能力」(自己決定・行動力)
[本教材の特徴について]
○特徴―1:本教材は評価規準(到達目標)を重視しながら開発
本教材の評価規準は,いわゆる学習者の変容振りを見取るための「学習評価」と教育成果の説明責任を果たす上で重要な「カリキュラム評価」の双方で利用するために開発されたもので,客観的に教育の成果を見る上でなくてはならないものである。その規準を作る際,本教材では文言の文末を「〜ができる」ではなく,すべて「〜を(しようと)している」と「プロセス評価」による文言で記述している。これは,コミュニケーション力の見取りは,活動の一瞬時だけで「できる/できない」と評価し難いことと,平成13年度に文科省国立教育政策研究所が策定した小・中の国語科の「伝え合う力」等の見取りの規準について,すべて「〜を(しようと)している」というプロセス評価で行っていることを重視したからである。
すなわち,小・中の9年間を通して培う母国語による伝え合う力(コミュニケーション力)でさえ,「〜ができる」という規準で明言しにくいのなら,外国語の場合,より一層の習熟期間を要すると判断した次第である。また,子どもには温度差があり,英語活動の授業時数も多くないことを考慮すると,「〜を(しようと)している」というプロセス評価で,子どもの変容振りを見取ることは当然のことだと判断した次第である。したがって,通知表には,この評価規準を重視しながら活動を通して子どもが変容する良い面を記述しよう。
なお,本教材では,その評価規準を,各単元の目標,各単元の評価規準,そして一つ一つの活動のねらいの中でも,それぞれの文言の後に(→B・)のように明記した。これは,授業者が,常に育みたい子ども像とも言うべき「到達目標(評価規準)」(【例】→B・:「自分の気持ちや考えを親しんだ英語表現や身振りで相手に伝えている」)を意識しながら活動の指導をしてほしいからである。
○特徴―2:子どもの心的発達を考慮したテーマと,6年間の英語活動を通して育成したい資質・能力の実現化を目指した教材
6年間の英語活動を通して育みたい資質・能力の実現化を図るために,低・中・高の学年進行に伴い,子どもの関心事に沿ったテーマ(トピック)の選定と教材構成のあり方に配慮した。具体的には,低学年では,「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」(評価観点A)の育成を意識しながらカリキュラムの開発を行った。また,高学年では,コミュニケーションへの関心・意欲・態度等の育みを基礎に,「理解・表現等を重視したコミュニケーション力」(評価観点B)の育成を意識したカリキュラムを開発した。とりわけ「自分の気持ちや考えを親しんだ英語表現や身振りで相手に伝えている」(評価規準B−・)で子どもの変容を見取るカリキュラムを数多く開発した。
これは,高学年になるにつれて,子どもの発信したがる性質を生かすように心掛けたことと,日本の国際教育が目指す「(コミュニケーションには必要不可欠な)自己決定・行動力6自己発見・自己実現6主体性:個の確立」の資質・能力を育みたかったからである。周知のとおり,目下,文科省が推進する「生きる力」の教育では,そのような資質・能力の育成を求めており,片島小でもALTとの豊かなコミュニケーション活動を通して「積極的に自己を発信し,主体性(=identity)を発揮する子ども」の育成を願っている。したがって,各単元の目標と到達目標である評価規準を意識しながら,地域や自校の実態に応じたカリキュラムの中で本教材の教育内容を利用していただければ幸いである。
なお,本教材内のテーマはすべてが実験済みで,子どもの目が輝くものばかりである。
英語活動という新しい教育を始めることで,子どもが変わり,先生も変わる。具体的には多くの子どもや先生が明るく元気になる。これは,英語活動を通して,子どもも先生も「生きる力」の源泉を得ることができるからである。ALTとのコミュニケーション活動を通して,全人教育における「人間性」重視の不易の教育成果を発見することができるからである。私たち教員は,誰もが子どもを愛し,未来ある子どもらのために,みんなで力を合わせて全人教育に携わっている。今後とも「小学校から英語によるコミュニケーション活動を始めて本当に良かった。おかげでこれまでの教師観および人生観が変わった」と言える教育をしようではありませんか。
最後に,本教材の開発研究にあたり,片島小学校の学校長をはじめ全教職員の子どもたちを愛する心と教育研究に対する熱意溢れる尽力に対して,心より敬意と謝意を表したい。また,本書の出版にあたり,明治図書編集部の三橋由美子さんには心温まるご支援をいただいた。併せて謝意を表したい。
平成19年5月吉日 /渡邉 寛治
文京学院大学外国語学部 英語コミュニケーション学科教授
文部科学省国立教育政策研究所名誉所員
放送大学大学院客員教授
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