- まえがき
- Ⅰ章 新しい中学校技術科教育の目指すもの
- 1 技術科教育の改訂の特徴
- 2 技術科教育のこれから
- 3 技術・家庭科の技術分野はどう変わるか
- (1) 課題と改善
- (2) 改善の方向性
- (3) 改善の具体的事項
- 4 対応すべき課題
- Ⅱ章 生徒の技術力を伸ばし高める題材
- 1 「題材」と「教材」及び「教具」の分類
- 2 技術・家庭科の題材
- 3 技術力を高める題材
- 4 技術科教育の題材の扱い方
- (1) 技術科教育の学力観
- (2) 題材に求める要素
- (3) 求める生徒像
- (4) 環境教育や国際理解教育とのかかわり
- (5) 基礎的・基本的な内容とのかかわり
- Ⅲ章 中学校 技術科の題材&授業
- A 材料と加工に関する技術
- [1] ガイダンス
- ものづくりは段取り力を身に付け,ものを「技術的見方」で見る目を養う ~素材のよさを生かす~
- [2] 学びをひらく花瓶入れの製作
- [3] 身の回りのものを整理・収納できる製品の設計と製作
- [4] 和風ベンチをつくり高齢者を喜ばそう
- B エネルギー変換に関する技術
- [1] ガイダンス
- 学ぶ喜びを感じる学習でエネルギー利用を考えよう
- [2] ロボコンを超えた「ロボ魂」の実践
- [3] 光を演出しよう ~LEDイルミネーションの製作~
- [4] エネルギーのもっている特徴が生きる題材 ~エネルギーの変換の様子が目に見える教具の利用~
- C 生物育成に関する技術
- [1] ガイダンス
- 栽培ステップアップ学習で,生徒の心を育てよう
- [2] 卒業式を育てた花で飾ろう
- [3] 「野菜は何でそんなに安いの?」
- [4] 日本の食糧自給率に貢献しよう ~大豆の栽培を通して~
- D 情報に関する技術
- [1] ガイダンス
- 情報を利用して生活を豊かにしよう ~ようこそ情報の世界へ!~
- [2] マルチメディアでカラオケに挑戦 ~音楽の授業で役立つカラオケの制作~
- [3] プログラムを組めば,制御ができる教材 ~ヒダピオシステムを使った制御学習の提案~
- [4] Google SketchUpを使用した,設計・製図の授業 ~情報を活用して,便利で役立つ題材~
- 複合内容の題材
- [1] 青色LEDインテリアランプの製作 ~エネルギー変換を利用し,短時間でやさしく製作できる題材~
- [2] ソーラーパネルで作物栽培をしよう
まえがき
わたしの机の上には,軟鋼をクロムメッキした四角い棒の本体に,ねじ接合でつまみの付いたぶんちんがあります。これは,わたしが中学2年生のときに,技術・家庭科の授業で,自分でつくったぶんちんです。自宅を何度か引っ越ししたし,仕事に就いてからも異動がありましたが,学生のころからそしてどの職場でも机の上に置いて一緒に移動してきました。つくってから35年ほど経過しています。
中学生当時,男子生徒だけの技術・家庭科の技術科教育で,長時間かけて平やすりで必死にやすりがけしたことを覚えています。黒カワの付いた丸棒を渡され,週3時間の技術科教育で,毎時間,ただ削るだけの授業でした。そのほか,旋盤でローレットがけしたり,卓上ボール盤で穴あけをしたりし,タップやダイスでねじをたてました。メッキしたのは,自分が技術科の教員になってからですので,それから10数年後ですが,今もきれいに輝いています。このぶんちんは,自分だけにしか見えないかもしれませんが,大切で重厚で自分の生き方の原点として神々しく輝いています。
技術科の教員になった一つの要因は,やはり,ものづくりしたときの感動かもしれません。鉄という重くて硬いものを削ったり,ねじをたてたりすること,鉄工やすりや万力,卓上ボール盤,タップやダイスなどが使用できること,自分でつくったものが役に立つことなど,「ものづくり」学習のダイナミックな学習内容で感動や成就感を味わったからと思います。
たかがぶんちんくらいで大げさかもしれませんが,わたしにとっては,されどぶんちんなのです。決して,ぶんちんがどうこうではないと思われます。これも一つの題材(教科の目標及び各分野の目標の実現を目指して,学習指導要領の各項目に示される指導内容を指導単位にまとめて組織したもの)です。しかし,昨今では,技術科教育でぶんちんを製作する学校はほとんどありません。まず,書道をしなくなりぶんちんの必要性が減り,授業時間数の不足で長時間をかけて製作することができなくなり,何でも必要なものは容易に入手できる,などぶんちんを取り上げる必要性が減ったからと思われます。
今の技術科教育では,1枚の集成材から自分の構想したラックづくりやダイナモ発電のついたLEDの照明器具など,新しい学習内容として魅力的な題材がたくさん準備されています。題材は,各学校の技術科教員の指導方針や生徒の希望などで選定されます。
わたしのような経験をして,ものづくりの感動や成就感を感じている人は決して少なくないように思います。しかし,その役立ちや重み付けが明確にされないままきたため,たかがものづくりになっているように思います。人間が形成されるのは,されどものづくりからではないでしょうか。
ものづくりしている子どもの顔や表情は純粋で美しいです。いつまでも自分のつくった経験を大切に感じて生かしている大人はたくさんいます。今の時代に不足している,豊かな人間性や情緒などとともに,効率よくものづくりを進めるために段取りを考えたり,ユニークな発想をはぐくみ構想したりすることなど,ものづくりの体験で子どもははぐくまれているのではないでしょうか。
わたしの感動や成就感をはぐくんでいるこのぶんちんは,技術科教育の実態であり成果であると思うのです。この教育を確かなものにし,日本のこれからの時代に求められる大きな可能性が,この度の技術・家庭科技術分野の新しい学習指導要領の内容にあり,指導に用いられる題材の内容に生徒の感動や成就感をはぐくんでいるものと確信します。
わたしは,いつまでもこのぶんちんとものづくりを大切にしていきます。
本書の出版に際して,温かいご指導ご支援を賜りました明治図書出版株式会社の仁井田康義様に心からお礼申し上げます。
2010年6月 京都教育大学 /安東 茂樹
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