- まえがき
- T 一年生と絵綴り方表現
- 1 毎日のできごとで,ふと思ったこと・言いたい思いを!
- 2 ねえねえ,聴いて聴いて! *聞いてもらいたい思いをそのまま
- U 二年生と絵綴り方表現
- 1 初めは分からなくても,だんだん…! *言いたいこと、少しずつ出てきたよ
- 2 大事なことや素敵なことにも気づいて!
- 3 みんなで頑張ると,楽しい!
- 4 みんなに聞いてもらえるから,言いたくなる!
- 5 絵綴り方って,おもしろ〜い!
- V 今,子どもが求めているものは
- 1 子育ては,ゆっくり・じっくり・そして自然に!
- 2 今こそ聞こう,子どもの声を
- 3 子どもと表現
- @ “思い”の音声化
- A “思い”の具体化
- B 「絵」と「言葉」は不可分
- C 自己実現のための自己表現
- D 主人公は「子どもの思い」
- W 絵綴り方表現のすすめ
- 1 “絵綴り方”って,何?(絵日記とどう違う?)
- @ “思いを綴る”ところに意味がある(形ではなく,中身こそを)
- A 「絵綴り方」って,「絵日記」みたいなもの?
- 2 “絵綴り方指導”の6つのコツ(ポイント)
- @ 何でも受け止めよう! 「先生に知らせたい!」が原動力
- A クラス中に響かせよう! 「みんなにも知って欲しい!」
- B 「上手に!」は止めよう! 見栄えの形も技術も関係ない!
- C 子どもたちの力を信じよう! 深い感じ方も自然に!
- D いつでもどこでも全てにつなげよう! 学習も生活も一体のもの
- E 日々重ねよう! コツはこつこつと!
- X 入学当初はどうするの?(絵綴り方表現の前は?)
- 1 みんな,言いたい思いを持っている!
- @ 言いたいことは値打ちがある
- A “思い”を具体化すれば
- B まず受け止めることから
- 2 日々が絵綴り方表現の宝庫 誰にでもできる日常的・美術教育
- @ 聴いてください!はい,何ですか?
- A お話がいっぱいの教室に
- B 言いたいことを,言いたいように!
- C 言いたい思いを何かの形に それが描画の始まり
- D “字”のない「絵綴り方」
- E 知っている文字は使いたい
- Y 三年生へのステップ(「絵綴り方表現」をどう発展させるのか)
- 1 絵綴り方がそのまま画用紙上の表現に
- @ わあっ,やったあ。絵綴り方の親分だ!
- A やっぱり,言いたいように!
- B 画用紙も自分に必要な大きさで!
- 2 多様な素材を用いて,楽しく!
- Z 子どもと学級担任と表現活動
- 1 子どもと学級担任と表現活動
- 2 学級づくりと総合学習・美術教育について
- あとがき
まえがき〈小学校低学年〉
「ええーっ,なんでーっ?」「そんなん,いややあ!」「何で先生だけで,そうやって決めるんやあ?」「何で,相談してくれへんかったん?」……大ブーイングが起こりました。5年前に担任した,小学校4年生のクラスでのことです。教師が決めたやり方に対して子どもたちが抗議してきたのです。それまでも,それ以降も,常に子どもたちと相談しながら進めてきたのに,どうしようもない諸般の事情でこの時だけ教師サイドの一方的な計画を発表したのです。市民文化祭に出品する美術作品作りのテーマとやり方についてのことでした。(実は,私自身も何かしら違和感を覚えていたのです。)
彼らは,わがままで感情的になってただ反抗したのではないのです。やり方に不合理さを覚えたからなのです。先ずはその計画自身に納得できなかったからなのです。そして何より,直接自分たちのことなのに,計画段階でも自分たちの全く知らないうちに決められてしまっていたことへの違和感が最大の原因だったのです。
実は,私は子どもたちをこういうふうに育てたいと常に考えてきました。自分たちの納得できないことについては,誰に対してもしっかりと意見を出せる子どもたちになって欲しい!と。正当な理由がある時には,しっかりと自分の思いを出せる子どもになってもらいたい!と。子どもたちにしてみれば,“先生” に対して正面切ってきちんと抗議的な意見を出すということは,最も難しいことなのです。それをしっかりとできる子らにしたい!と。つまり,直接自分たちに関わることを自分たち抜きで決められたりした時に,疑問を感じない子どもにはしたくないという意味なのです。
とりわけ,表現というのは最も主体的な活動であるはずなのに,それを勝手に先生が決めてしまって,子どもたちは一方的に押しつけられたことに黙って従うなんて,もっての外です。子どもの表現は先生のものでも誰のものでもない,子どもたち自身のものです。そのことを常に心がけてきたつもりだったのに,それなのに……。
はっと気づかされました。そして,他のことでももしかしたらこんな風に,教師サイドの感覚で一方的に押し進めてしまっていることがあるのかもしれない,ややもすると教師というのは自分の思いやペースで進めてしまっていても,なんら疑問すら感じていないのかもしれない……と。そのことを改めて考える機会になりました。(もちろんその時の“教師サイドの一方的計画”は取り消しました。そしていつものように,子どもたちと一から相談して,テーマとやり方について決め直して進めていきました。)
私は,小学生の子どもたちとの25年間の生活の中で,彼らから実に多くを教わってきた気がします。その一つが上のようなできごとであり,また同じ趣旨による「絵綴り方表現」活動の編み出しなのです。これは,“生活綴り方活動の美術版”といっても良いかもしれない方法です。生活に根ざした素朴な思いをそのまま“絵綴っていく”方法です。子どもたちとの日々の中で,子どもたちを完全に主体にしていくこの方法を見い出していくことができました。これは,日々の素直な思いをそのままぶつければいいのです。こうあるべきという枠や,作品主義とは対極のものです。一番,子どもたちの側に立った考え方によるものです。一番,自由に思いを表現できる方法の一つであろうと考えています。
表現活動を組織するということは,子どもの思いにしっかりと寄り添う営みなのです。つまり,子ども自身の思いをどれだけ大切にできるかどうかということです。この「絵綴り方表現」というのは,子どもをしっかりと主人公として据え付けていく方法であり,彼らに真の表現力をつけていくための,非常に有効な土台育ての方法であることを,自信をもってお伝えできると考えています。
低学年編である本巻では,主に,この「絵綴り方表現」をどうやって生み出していくのかということについて,述べていきました。全く入学したてで,文字も知らない状態である子どもたちが,どうやれば,この「絵綴り方表現」を自分のものにしていくのか……を順を追って述べてみました。そして,この「絵綴り方表現」という方法がいわゆる「描画表現」にどうつながるのかということを具体例を挙げながらお話しているのです。
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