- はじめに
- 第1章 総合学習と美術教育
- 1 子どもの感性に根ざした総合学習
- 1 基本的な視点
- 1 「センス・オブ・ワンダー」の視点
- 2 「生きる力」と美術教育
- 3 総合学習が求められる背景
- 4 総合学習のねらい
- 5 総合学習の特質
- 2 総合学習の構想
- 1 総合学習のタイプ
- 2 単元構成の手順
- 3 特色のある総合学習
- 3 総合学習の展開
- 1 教育観の転換と教師の支援
- 2 学習形態
- 3 単元の評価
- 4 美術教育に繋がる実践的な視点
- 2 美術教育を窓口にした取り組みに向けて
- 1 美術教育のめざす総合とは
- 1 生きる喜びにつながる内面的総合
- 2 自己を起点とした求心力と他者へ向かう遠心力
- 3 実践的な問題分析能力と美的解決能力
- 4 創造性
- 2 総合学習の現代的課題と美術教育
- 1 環境芸術にみる環境への問題意識の流れ
- 2 環境問題と美術教育
- 3 「使い捨て」の論理から「使い使い」への発想の転換を
- 4 拾い上げ文化が生み出す造形をもとに
- 3 情報化への対応と美術教育
- 1 美術とコンピュータの関わり
- 2 マルチメディア作品が生む総合的思考
- 3 インターネットの登場と美術表現の新たな可能性
- 4 コンピュータから学ぶインターフェイスの重要性
- 4 子どもの発達を軸とした取り組み
- 1 低学年の思考や操作の傾向の理解
- 2 中学年の認識の変化の考慮
- 3 高学年の情報欲求を生かす活動
- 5 総合学習と関わる美術学習の基本的な学習要素
- 6 教材プランニングにおける美術教育のおさえ
- 7 教材プランの構想
- 第2章総合学習のデザイン
- 単元構成の手引き
- (1) 自分探しの旅
- (2) <手>のはたらき
- (3) 地域社会に生きる
- (4) 国際社会に生きる
- 単元構成の手引き
- (1) 水のさまざまな表情
- (2) 水と生き物
- (3) 水は警告する
- (4) 水と造形
- 単元構成の手引き
- (1) 風を感じる
- (2) 風を測る
- (3) 風の利用
- (4) 風にのって
- 単元構成の手引き
- (1) 光をあやつる生き物と光の演出
- (2) 光と影の交錯するところ
- (3) 光を記憶する装置
- (4) 光の性質を利用して
- 単元構成の手引き
- (1) 炎を見つめて
- (2) 火を手に入れる
- (3) 火が生み出した文化
- (4) エネルギとしての火
- 単元構成の手引き
- (1) 土と触れ合う
- (2) 土の不思議
- (3) 大地に挑む
- (4) 土と生活
- ◎本書を有効に活用するために
- ・学習対象の構造図
- ・本書で扱う総合単元のトピック一覧
- ・総合単元例
- ・年間計画例
- おわりに
はじめに
教育課程審議会「答申」によって「総合的な学習の時間」の取り組みに対する展望が示された。この総合的な学習を充実,発展させるためには,各教科との関連や位置づけを明確にすることが不可欠である。そのためには,これまで以上に学校全体のカリキュラム構成,各教科間の連携,教師間の共通理解が求められる。
こうした総合的な学習への動きは,教育自体の硬直化や社会的適合性の喪失の証であるとみなす向きもあるが,小学校においては,教科担任が子どもたちの興味関心をもとに教科学習の進度を調整したり,合科的な扱いをしたりするなど,総合的な学習の視点に立って学習を進めてきたはずである。従って総合的な学習の時間の定式化はある意味で学級担任の復権であり,本来学校教育が担うべき教育力の在処を明言化したことに他ならないのではないだろうか。そうした意味で総合的な学習の時間は本来の生きた教育力を子どもの学習力と統合していく試みである。
この総合的な学習と美術教育が出会うことによって果たして相乗的な学習の効果を発揮できるようなものになり得るのであろうか。従来,人間形成を標榜しながら,美術教育に関わる教科としての図画工作や美術が,子どもたちの自己表現力や個性を育み得たのだろうか。作品主義という言葉に代表されるように,技術主義的側面が強調され,造形学習の過程や子どもの内面的育ちを見逃してきたことはあながち否定できない。総合的学習との関わりの中で子どもの視点に立つ美術教育の意義を問い続ける責務を我々は負っているといえよう。
本書のねらいは,こうした問題意識に基づいて,総合的学習の中で子どもたちが様々な事象に出会い,問題を見つける過程での学習をどう関連づけ対処していくのかを美術教育の固有の価値を見据えながら考えていく契機とすることである。
本書は,3部構成となっており,第1章では,子どもの感性に根ざした総合学習と美術教育の基本的なあり方とその関わりについて述べ,第2章では,総合学習をデザインするにあたって手引きとなるトピックを自然の原初的な要素と人を軸にまとめた。最後には,総合学習の構想に本書を活用する示唆となる試案を載せた。
総合学習の構想化は様々な観点からなされるべきであり,ここで示した観点やトピックはあくまでその手がかり的なものである。総合学習を考える上で子どもの感性や育ちを支援する役割を担う美術教育の意義を理解して活用いただければ幸いである。
1999年7月 兵庫教育大学助教授 /福本 謹一 /初田 隆
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