- はじめに
- 第T章 エンカウンターで道徳授業を進める
- 1 今,なぜエンカウンターか
- 2 エンカウンターとは何か
- 3 なぜ,道徳でエンカウンターか
- 4 道徳授業でエンカウンターを行うことのメリット
- 5 “ねらい”を明確に意識せよ
- 6 エンカウンターで自己肯定感と他者肯定感を育てる
- 第U章 エンカウンターで道徳授業の実践〔高学年〕
- ★自分を好きになる心を育てる★
- 1 自分を見つめ,自分らしく成長していくために*6年
- 2 「見つけよう 自分!」の実践*6年
- 3 自己理解を深め,自分を好きになる心を育てる*6年
- ★友達を理解し,人を好きになる心を育てる★
- 4 聴き合い活動で進める道徳の時間*6年
- 5 いじめを許さない心を育てる*6年
- 6 友達と進んで触れ合おうとする心を育てる*6年
- 7 自他のよさに気づき,自尊感情を高める道徳の時間*6年
- 8 言葉の影響を実感させる道徳の時間*6年
- ★生命を大切にする心を育てる★
- 9 自分の生命と家族に感謝する心を育てる*5年
- ★集団の中で人間関係の力をつける★
- 10 みんなで考え,確かめる不正義への対応*6年
- 11 よさに気づき人間関係力を育てる道徳の時間*5年
- 12 新学期の人間関係づくりのための道徳の時間*5年
はじめに
千葉大学教育学部助教授 /諸富 祥彦
「この前,道徳の授業で,エンカウンターをやってみました」
──最近,そんな声をよく耳にします。
道徳授業の新しい手法の一つとして,構成的グループエンカウンターのエクササイズが取り入れられはじめているのです。
しかも,授業の雰囲気や,子どもたちからの評判も上々の様子。
「子どもたちもよくのってくれたし,最近,ちょっと停滞的だった道徳の時間がひさしぶりに盛り上がりました」と言ってくださる方が多いのです。
もう二十年も前から,この方法の開発者である國分康孝先生・久子先生ご夫妻からエンカウンターを学んできた私にしてみれば,これは,うれしい話。
しかし,考えてみれば,道徳授業にエンカウンターが取り入れられるのは,もっともな話です。
道徳の授業は,子どもたちのこころを育てる時間。
そして,こころを育てるカウンセリング技法の代表格が,構成的グループエンカウンター。
数年前まで,道徳授業でエンカウンターがあまり取り入れられてこなかったことのほうが,不思議なくらいです。
では,これで万事オーケーかというと,そうでもありません。
同時にこんな声をよく耳にするのです。
「道徳の時間にエンカウンターをやったら,たしかに子どもはわきました。
とってもイキイキした表情で,楽しそうにエクササイズに取り組んでくれました。
でも,それでいいのかというと,ちょっと自信がないんです。
これで道徳の時間になっているのか。
果たしてこれで,ねらいとする価値が達成できたと言えるのか。
ちょっと,不安になるのです」
「この前,公開授業のとき,道徳授業の新しい手法としてエンカウンターのエクササイズをやってみました。
すると地域の指導主事から,『これは学級活動だ,道徳ではない』と言われてしまったんです。
エンカウンターで道徳はできないのでしょうか」
こんな相談を受けることもあります。
「どんなふうにすれば,道徳でエンカウンターをやれるんでしょうか。
読み物資料とうまくつなげて使う方法というか,コツのようなものはあるのでしょうか……」
これらの質問に,私は,こう答えたいと思います。
もちろん,エンカウンターで道徳はできます。
できるどころか,これから,道徳授業の中心的な手法の一つにさえ,なるかもしれません。
ただし,道徳授業としてエンカウンターをやる場合,(学級活動などでやる場合とは異なる)いくつかの押さえるべきポイントはあります。
では,そのポイントとは何か。
具体的にどうすればいいのか。
これを示すのが,本書なのです。
もったいをつけるのはやめて,あらかじめここで,簡単に答えを言ってしまうと,こうなります。
道徳授業でエンカウンターをやる場合,
「どんな“ねらいとする価値”を達成するために,なぜ,このエクササイズを行うのか」
ここを明確に押さえておく必要がある
のです。
そして,子どもたちの意識をしっかりと,その“ねらいとする価値”に定めるために,
授業の導入や終末で,読み物資料やビデオを使う
ことも必要になってくるでしょう。
要は,道徳授業の目的は,あくまでねらいとする価値であり,読み物資料を使った話合いであろうと,説話であろうと,そして,エンカウンターのエクササイズであろうと,いずれもそのねらいを達成するための手段である,ということです。
このことをしっかり踏まえた上で,どうすればそのねらいを効果的に達成できるか,そう考えることが必要なのです。
「とは言っても,では,道徳授業で,どの価値のときに,どのエクササイズを行えばいいか,分からない」
「どのエクササイズと,どんな読み物資料を,どうドッキングさせればいいか,分からない」
本書は,こうした疑問に答えていきます。
そして,具体的実践例を提示していくのです。
具体的には,
(1) 四つの視点ごとに「どの価値のときに,どのエクササイズで」授業をやるとうまくいったかを,実践例によって示していく。
さらに,
(2) 可能な限り「エクササイズと読み物資料をつなげた道徳授業」の実践例を示していく。
この二つが,本書の特徴なのです。
本書の発刊によって「エンカウンターで道徳授業はできる」ことが常識になること,しかもこの考えが授業実践のレヴェルで全国に広まっていくことを願っています。
私の道徳教育の恩師,故遠藤昭彦先生と,構成的グループエンカウンターの開発者で,私の恩師である國分康孝先生・久子先生ご夫妻に感謝させていただきます。
-
- 明治図書