- はじめに
- 第一部 理論編
- T モラルジレンマ授業を支える認知発達段階理論 /荒木 紀幸
- 1 コールバーグの考え方
- 2 道徳性の発達における一般的な特徴
- 3 認知能力と役割取得能力
- U モラルジレンマの授業構成法 /堀田 泰永
- 1 授業は二時間扱いを基本とする
- 2 第一次の授業
- 3 第二次の授業
- 4 授業はオープンエンドである
- V モラルジレンマ教材作成法・中学校 /松尾 廣文
- 1 ジレンマ教材が具備すべき要件
- 2 中学生の道徳性発達段階
- 3 中学生版ジレンマ教材作成上の要件
- 4 創作の実際
- 5 終わりに――授業化のすすめ――
- W 道徳性の測定と評価 /楜澤 実 /荒木 紀幸
- 1 はじめに
- 2 中学生版フェアネスマインド検査の構成と特色
- 3 結果の見方
- 第二部 実践編
- T 中学校一年生の実践『ヤマメの古里』 /田村 浩司
- U 中学校一年生の実践『奇跡の生還』 /箕浦 昭彦
- V 中学校二年生の実践『うるわしき伝統』 /森川 智之
- W 中学校二年生の実践『氷河上の決断』 /奥村 光太郎
- X 中学校三年生の実践『田中さんのジレンマ』 /鈴木 憲
- Y 中学校三年生の実践『クローン人間誕生』 /荊木 聡
- Z 高等学校三年生の実践『もう一つの犬の消えた日』 /伊藤 裕康 /永田 成文
- [ 高等学校三年生の実践『独生子女』 /永田 成文 /伊藤 裕康
- \ 少年院におけるモラルジレンマ指導 /宮本 史郎
- 第三部 総合的な学習との関連
- T モラルジレンマから「総合的な学習」へ /松尾 廣文
- 1 「総合的な学習の時間」の創造
- 2 「総合的な学習の時間」と道徳教育の関連
- 3 モラルジレンマから「総合的な学習の時間」への発展
- 4 道徳の時間と環境教育
- 5 まとめ
- U 情報モラルに関する教育とモラルジレンマ授業 /門脇 岳彦
- 1 はじめに
- 2 情報教育の現状と総合的な学習との関連
- 3 情報モラルに関する教育
- 4 情報モラルに関する教材開発
- 5 モラルジレンマによる情報モラル教育の実践例
- 6 今後の課題
- ジレンマ資料『壊れたフロッピーディスク』
はじめに
二一世紀の幕が開き、「総合学習の時間」への具体的な取り組みが本格化する中で、「生きる力」の育成の中核部分である道徳教育への関心は急激に衰えているように見受けられます。このような中で、福岡のバスジャック、実母虐殺などに見られる中学生、高校生を中心とする凶悪な少年犯罪が矢継ぎ早に起こりました。またこの六月八日には大阪教育大学附属池田小学校で八人もの幼い尊い命が奪われ、一五人もの子どもと先生が重傷を負うというあってはならない凶悪な犯罪が起こりました。親たちによる幼児虐待事件も後を絶ちません。改めて、命の教育を徹底すること、道徳教育への関心が再び強く叫ばれています。
我々は、モラルジレンマ授業を通して道徳性を発達させることが生きる力の育成に大きく寄与し、自分の生き方に自信を持ち自分も他人も大切に考える自尊感情を育てることを、多くの実践から明らかにしてきました。この取り組みが学習指導要領がめざす「生きる力、問題解決する力」の育成と整合することも主張してきました。我々が行ってきた教育の方法を道徳の時間で広く活用して頂くために、表題による出版をここに企画致しました。
なお明治図書の江部満編集長からは再三にわたってモラルジレンマによる道徳教育を普及すべく、出版要請を受けていました。変わらないご厚情とご支援に感謝しています。
今回の出版では、中学生を中心に据えますが、高校生や矯正施設の生徒をも対象とし、以下の諸点を含む幅広い内容構成に心がけました。
1 小学校編と中学校編に分ける。
2 学年別にモラルジレンマ授業実践を複数あげる。
3 「総合的な学習」との関連を図った実践を載せる。
4 道徳性認知発達理論、コールバーグ理論に基づく授業論、教材論を載せる。
5 授業後の評価として標準化した中学生版道徳性発達検査(フェアネスマインド)を紹介する。
6 実践で扱うモラルジレンマ資料は研究会で新たに検討した新作のものとする。
7 高校生や矯正施設の生徒を対象としたモラルジレンマ授業を入れる。
8 モラルジレンマ資料集をつける。
ところで、今回の出版にはもう一つの意味があります。それは我が国においてコールバーグ理論に依拠した道徳教育の普及と発展を願って、一九八二年秋に立ち上げた道徳性発達研究会が活動を開始して、早いもので二〇年になったことです。この間研究室の修了生、卒業生だけでなく、モラルジレンマ授業を積極的に実践する仲間、理論的検討を続ける研究者の仲間が全国各地に増えました。多くの研究仲間のご協力を得ながら続けてきた宿泊合宿研究会も形と場所と時期を変えて、兵庫教育大学、鳥取教育会館、大阪教育大学附属天王寺小学校、同志社大学へ、さらに京都教育文化センターへと会場を変えてきました。二〇〇一年は第一八回の会となります。夏に研究会を行うようになって、新しく参加される方が毎年のように増え、二〇〇名に迫る盛況です。このように多くの方が参加されることが恒常的になってきたという現実に対して、一〇年ほど前から研究会を学会に変え、研究活動や研究内容、研究領域、我が国の道徳教育への影響力、などに見合った学会組織に変えるべきだというご意見を多くの方からいただいてきました。
「心の教育」が低迷している今、また私たちの活動を私的な活動に終わらせるのでなく、多くの現場の先生方の参加を得て、広く日本の道徳教育の発展に寄与していくために、古くからの研究同志であり、先輩である佐野安仁同志社大学名誉教授、吉田謙二同志社大学教授を顧問に親しみのある学会組織を作りました。その名前もこれまでの活動を生かして、「日本道徳性発達実践学会」としました。事務局は兵庫教育大学教育方法講座荒木紀幸研究室内(〇七九五―四四―二一四六、FAX)です。読者の皆さまも我々の仲間に加わっていただき、一緒に研究して行きましょう。
ともあれ、「日本道徳性発達実践学会」が発足して最初の記念すべき仕事となったこの出版が、現場の先生方の励みになり、道徳教育の実が上がり、生徒たちの「生きる力」の育成に貢献できればと強く願っています。
最後になりましたが、読み合わせ、校正は院生の伊藤昭治(前原市立前原南小学校教諭)さんにお世話になった。感謝申し上げます。
二〇〇一年七月八日 兵庫教育大学教育方法講座 /荒木 紀幸
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- 明治図書