- まえがき
- 第1章 腹の底からの実感! 道徳授業で生徒が変わる
- [1] 《生き方》を示すための道徳であって欲しい /染谷 幸二
- 1 一流選手の《生き方》を伝える
- 2 「ワールドカップの贈り物」
- 3 夢の舞台 オリンピックを目指す
- 4 《生き方》という視点は外せない
- [2] 4月にしたい「脳」の授業 /山本 雅博
- 1 いじめへの初歩的な対処
- 2 「脳」の授業
- [3] TOSS道徳なら,教師も生徒も変わる /伊藤 和子
- 1 苦痛だった道徳の授業
- 2 TOSS道徳で教師が変わる
- 3 TOSS道徳で生徒が変わる
- 4 TOSS道徳で生徒が変わる〜心を動かすか,新たな情報を伝えるか〜
- 第2章 暗い,ネクラな道徳授業からの決別
- [1] TOSS『牛乳授業教育テキスト』で自信と誇りを育てる /染谷 幸二
- 1 根拠を持って主張できる力を育てる
- 2 TOSS『牛乳授業教育テキスト』を使った授業
- 3 牛乳が世界を救う
- 4 夢,希望,明るい未来を伝える授業
- [2] 生き方のモデルを示し,将来に希望を持たせる /野口 敦広
- 1 自分の意見を言い,他人の意見を聞く
- 2 「他人の生き方」を通して「自分の生き方」を考える
- 3 「他人のため=自分の幸せ」という生き方
- [3] つかみの15秒,第一発問で子どもを引きつける /山口 俊一
- 1 ネクラな道徳授業から抜け出したくて
- 2 授業の始まり(15秒)のつかみ
- 3 教科書道徳で子どもの反応が変わった
- 4 全員に声を出す場面をつくり緊張感を持たせる
- 5 最後は「教師の笑顔」が決め手となる
- 第3章 生徒が笑顔になる道徳授業ネタ
- [1] それぞれの悩みに,最高の言葉を送ろう /櫛引 丈志
- 1 どんな生徒にも悩みはある /
- 2 友人の言葉こそが重い
- 3 君ならば,どんなアドバイスを送る?
- [2] 染谷学級の人気No.1授業は,今年も「道徳」であった /染谷 幸二
- 1 授業後に書く感想が授業の質を決める
- 2 実践『わたしの体 ぜんぶだいすき』
- 3 「道徳」授業の魅力は感動にある
- [3] 夢をあきらめない〜全盲のランナー・高橋勇市〜 /星由 紀枝
- 1 全盲のランナー
- 2 高橋さんを支えた大きな夢
- 3 もう1つの夢,そして奇跡
- [4] 教師の経験をストレートに伝える /戸嶋 崇人
- 1 教師の経験が生徒に響く
- 2 教師の経験を知る
- 3 努力することを宣言させる
- 第4章 オススメNo.1授業(TOSSランド論文の追試報告)
- [1] いじめは許さない 教師としての気概を示す /井戸 恵美
- 1 いじめは許さない
- 2 『わたしのいもうと』
- 3 授業の後の生徒の反応
- [2] 「じろじろ見ないで」〜藤井輝明氏の生き方から学ぶ〜 /芦田 まゆみ
- 1 主題設定の理由
- 2 授業展開
- [3] 「見えないところを一生懸命」という生き方を学ぶ /新谷 竜治
- 1 TOSSランドの追試
- 2 清掃の大切さを学ばせるオススメ授業
- 3 生徒の感想とその後
- 第5章 実践 「黄金の3日間」にオススメ! やる気を引き出す道徳授業
- [1] 「青春」という名の詩の授業 /川神 正輝
- 1 詩「青春」の音読活動からスタートする
- 2 持ち込み資料を使った読み合わせをする
- 3 担任「エピソードクイズ」で教師が自らを語る
- 4 短い「青春」という名の詩を作る
- [2] 「友達」で悩むのだから,「友達」の授業をする /染谷 幸二
- 1 4月の定番 「友達」の授業
- 2 後半は,資料の読み聞かせ
- 3 中学生に《かっこいい生き方》をたくさん伝えたい
- 第6章 実践 保護者との信頼を深める! 参観授業に最適授業
- [1] それは保護者を巻き込む食育の授業である /松原 大介
- 1 参観授業に必要な条件
- 2 保護者を巻き込む最新「食育の授業」
- [2] 菊池恭二氏の生き方から運を呼び込む生き方を学ぶ /志田 智明
- 1 参観授業だからこそ普段通りの道徳の授業を見せる
- 2 菊池恭二氏の運を呼び込む生き方の授業
- 第7章 実践 夢を実力でつかむ! 進路選択・入試に最適授業
- [1] 「教師の語り」で家族の支えを伝える /染谷 幸二
- 1 いつも《未来志向》を貫く
- 2 「教師の語り」で授業を構成する
- 3 私が体験した高校入試
- 4 《見えない》部分を《見える》ように伝える
- [2] 「未定」とは「未来を決定すること」 /山本 真吾
- 1 「未定」とは未来を決定すること
- 2 面接の質問は2種類しかない
- 第8章 実践 感動を演出! 卒業式・修了式に最適授業
- [1] 「読み聞かせ,指名なし発表」で授業を仕組む /染谷 幸二
- 1 学級通信を資料として授業を行う
- 2 卒業式1週間前の学級通信
- 3 読み聞かせ,そして30秒スピーチ
- 4 最後の学活で読み上げた学級通信
- [2] 「飛ぶ鳥跡を濁さず作戦」で感謝の気持ちを伝える /山本 真吾
- 1 「飛ぶ鳥跡を濁さず作戦」
- 2 飛ぶ鳥跡を濁さず作戦 その1〜小学校時代の先生に手紙を書く〜
- 3 飛ぶ鳥跡を濁さず作戦 その2〜最後の授業で感謝の意を伝える〜
- 4 飛ぶ鳥跡を濁さず作戦 その3〜普段,直接会わない方々に感謝の意を伝える〜
- 5 飛ぶ鳥跡を濁さず作戦 その4〜親に感謝の手紙を書く〜
- 6 飛ぶ鳥跡を濁さず作戦 その5〜その他〜
- [3] 卒業式後の学活は,最高の道徳授業である /垣内 秀明
- 1 卒業式の最後の授業によって完結する
- 2 目の前のエピソードで授業をつくる
- 3 一番伝えたいことを演出する
- 第9章 実践 「いじめ問題」「ネット問題」「薬物問題」を正面から取り上げる
- [1] 力のある資料で,いじめに歯止めをかける /杉山 学
- 1 いじめに対する教師の姿勢を示す
- 2 力のある資料で,いじめに歯止めをかける
- 3 まずは,いじめに歯止めをかけること
- [2] 薬物の恐ろしさを知り,断る勇気を持つこと /櫛引 丈志
- 1 遠い世界の話ではない
- 2 シンナーを授業で取り上げる
- 3 麻薬・覚醒剤を授業で取り上げる
- [3] 「いじめ」は責任問題に発展することを教えよ /横山 宏樹
- 1 強烈な事実を伝える
- 2 授業のポイント
- 第10章 実践 教師の語りで授業をつくる
- [1] 語りを通して,生き方の原理原則を伝える /染谷 幸二
- 1 繰り返して指導しなければならないことがある
- 2 教室で起きた問題を題材に取り上げる
- 3 切り口を変えて中学生に伝える
- 4 事件の教訓を伝えたミニ授業
- [2] 落ち着いた学校生活を過ごすためにきまりを守る /三並 郁恵
- 1 荒れから落ち着いた学校へ
- 2 更なる規範意識の向上のために
- 3 指導案
- [3] 日本人としての誇りを育てる授業をしたい /染谷 幸二
- 1 日本を好きな国民を育てるのが公教育の原点
- 2 愛国心から誇り・自信が生まれる
- 3 「事実」を授業の中核にする
- 第11章 緊急避難! 授業の準備ができていないときの乗り切り方
- [1] 普段から授業のネタを集めておく /渡邊 佳織
- 1 普段から集める
- 2 TOSSランドを利用
- 3 録画したテレビ番組
- 4 副読本
- [2] 「追試」と「語り」で授業を構成する /坂本 佳朗
- 1 授業はパーツで組み立てる
- 2 追 試
- 3 語 り
- 第12章 私の本棚 道徳授業づくりに役立つ1冊
- [1] 生徒の心に触れる本 /古松 育代
- 1 生徒は良い話,感動する話に飢えている
- 2 おすすめの本
- [2] 社会規範を教えるためのバイブル /芦田 まゆみ
- 1 危機感を持って授業に臨む
- 2 扱われている内容項目
- [3] TOSS道徳を追試するのに,欠かせない本はこれだ /辻 拓也
- 1 河田孝文氏から学ぶ
- 2 TOSS中学教師のお勧めの本を知る
- [4] 人の心をわしづかみにする“とっておきの話” /井戸 恵美
- 1 語りを鍛える
- 2 メッセージの宝庫
- [5] まねることは学ぶこと〜型を学ぶ1冊〜 /新谷 竜治
- 1 TOSS道徳授業の型を学ぶ
- 2 基本も忘れずに
- 第13章 実録! この道徳授業で生徒が変わった
- [1] 『いじめ14歳のMessage』の授業 /冨士谷 晃正
- 1 K男の言葉
- 2 『いじめ14歳のMessage』との出会い
- 3 『いじめ14歳のMessage』の授業化
- 4 『いじめ14歳のMessage』を学級文庫に
- [2] 人のために何かをする生き方を示す /佐藤 泰弘
- 1 具体的に行動している人を示す
- 2 人のせいにする活動をつぶす
- [3] 生徒がつぶやき,相談し,発表した /冨田 茂
- あとがき
まえがき
教師は「失敗した」と思ってはいけない。なぜなら,いつでも,どこでも,どこからでも取り戻すことができるからだ。
教師1年目,道徳の授業を途中で打ち切ったことがある。予定していた展開がまったくできなかった。自分では100点満点で,マイナス500点ぐらいの授業だった。何もかもダメだった。
それなのに,生徒は真面目に授業を受けていた。「こんなダメ授業なのに,生徒は真剣に受けている!」と思った瞬間,自分が情けなく思えた。手に持っていた副読本を閉じ,次のように言った。
今日の授業は全然ダメです。
もう1度勉強をやり直して,来週,授業をします。先生に時間をください。
責任は先生にあります。
残りの20分間は,教室で自由に過ごしていいです。
私は深々と頭を下げ,教師用の椅子に座った。
いきなり,私が授業中止を宣言した。普段から私語が絶えない学級だった。
「自由に過ごしていいです」と言ったのだから,生徒から歓声が上がると思った。そして教室内を走り回って大騒ぎをすると思った。
しかし,違った。生徒は誰一人として席を立たなかった。それだけではない。私語をする生徒もいなかった。何と,全員が机から教科書を取り出して読み始めたのである。
私は目を疑った。読む教科を指示したわけではない。ページも指示していない。そもそも「教科書を読みなさい」など,一言も言っていない。それなのに,生徒は教科書を読み続けた。20分間,教室にはページをめくる音だけが響いた。
授業終了を告げるチャイムが鳴った。私は「申し訳ありませんでした」と,再度,頭を下げて教室を出た。それでも,生徒は教科書を読み続けていた。
懸命に授業の勉強をした。指導書を何度も読み,授業のイメージを膨らませた。授業で使うプリントをつくり,発問・指示のすべてをノートに書き出した。それを朝方まで何度も読み上げ,暗記した。それが,生徒に対する最低限の礼儀だと思った。
教室に入った。その瞬間,いつもと違う空気を感じた。全員が椅子に座っていた。机に副読本とノートが広げられていた。普段なら,廊下を走り回っている生徒たちである。チャイムが鳴っても,席に着かない生徒たちである。彼らが,背筋を伸ばして私を待っていた。胸が熱くなった。
私はチャイムとともに授業を始めた。「席に着きなさい」「静かにしなさい」などは,一言も言わなかった。しかしながら,たくさん勉強して臨んだはずなのに,1週間前の授業と質は変わらなかった。暗記したはずの発問・指示が,スムーズに出てこなかった。挙げ句の果てには,配布するプリントを職員室に忘れてくる始末。すべてがダメだった。1週間で,授業の腕が上がるわけはない。厳しい現実を目の当たりにした。
100点満点で0点にも達しない授業だった。明らかにダメな授業だった。それなのに,生徒は笑顔で授業を受けていた。普段の授業では寝てばかりいる男子生徒が発表した。副読本を開こうとしない女子生徒が,自ら手を挙げて朗々と読んだ。ダメ授業にもかかわらず,生徒はついてきた。授業が終わった瞬間,教室には拍手が起きた。信じられなかった。私は深々と頭を下げ,教室をあとにした。職員室に向かうまでの間,私は涙が止まらなかった。
1週間前も泣きながら職員室に向かった。そのときは,敗北の涙だった。しかし,この日の涙は違った。授業の質は何も変わっていない。今思えば,両方ともダメ授業である。明らかに授業技量が劣っていた。しかし,その日は感動の涙を流していた。その違いを,自分でもしっかりと認識していた。
この日を境に私の授業に対する考え方が180度変わった。自分でダメ授業と思っても,生徒には関係ないことである。教師が授業を放棄するということは,生徒が伸びるチャンスを教師自らが摘んでしまうことになる。許されない行為である。そう理解した。たとえ,ダメ授業であっても教師は揺れてはいけない。ダメ授業であっても,教師は凛として生徒の前に立つべきである。ダメな部分は授業が終わってから反省し,次の授業で取り戻せばいいのである。
教育とは,いつでも,どこでも,どこからでも,取り戻すことができる。
大切なことは,教師が学び続けること,自分を高めようと思うこと。
こうした当たり前のことを,当時の生徒たちが教えてくれた。教員1年目の良き思い出である。
いい授業をしたいと思う。道徳なのだから,生徒の心に響き渡る授業をしたい。できれば,《生き方》にかかわる授業をしたい。
本書はTOSS中学で学ぶ教師が,日々の実践の中で感じたこと,考えたこと,学んだことを中心に執筆した論文集である。《生徒にとって価値ある教師でありたい》という共通の志を持った仲間と1冊の本を完成させた喜びは格別のものがある。
我々と同じく,《生徒にとって価値ある教師でありたい》という志を持った教師に読んでいただきたい1冊である。
TOSS中学 /染谷 幸二
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- 明治図書