- まえがき
- 第1章 生徒の心に響く道徳の時間
- 1 道徳の時間を生徒の心に響くものにするための基本事項
- 2 「生命尊重」を内容とする道徳の時間を充実させるための基本事項
- 第2章 授業構想のポイント
- 1 生徒の実態把握と学級づくり
- 2 授業構想の基本
- 3 道徳の時間の評価
- 4 「心のノ−ト」を生かした道徳の時間
- 第3章 心に響く道徳授業の実際
- 1 魅力ある資料の開発・活用による心に響く道徳授業
- 1 心を揺さぶる感動的な曲を資料とした授業 [1−(3)誠実]
- 2 「かけがえのない生命」への自覚を深める授業 [3−(2)生命尊重]
- 3 視聴覚教材を開発して生徒の内面に迫る授業 [4−(8)郷土愛]
- 2 学習指導過程の創意工夫による心に響く道徳授業
- 1 複数時間扱いにより価値を実感させる授業 [3−(2)生命尊重]
- 2 生徒が自分と向き合い考えを深めていく授業 [4−(1)社会的役割と責任,協力]
- 3 題材設定を工夫し,生徒が創り深める授業 [4−(10)世界への貢献]
- 3 指導体制・指導方法の工夫による心に響く道徳授業
- 1 体験活動を生かす授業 [1−(5)個性伸長]
- 2 保護者などの参加や協力を得た授業 [3−(2)生命の尊重]
- 3 役割演技を取り入れた授業 [4−(3)公徳心]
- 4 「心のノ−ト」の活用による心に響く道徳授業
- 1 導入と終末を関連付けた授業 [1−(4)理想の実現を目指して]
- 2 「心のノ−ト」を使って価値をとらえる授業 [3−(3)人間として生きる]
- 3 「心のノ−ト」を生かした授業 [4−(9)愛国心]
- 5 指導に生かされる評価を大切にした心に響く道徳授業
- 1 1時間のねらいを具体化した授業 [1−(5)向上心]
- 2 生徒の内面の把握に重点を置いた授業 [2−(3)友情・信頼]
- 3 指導に生かされる評価を大切にした心に響く授業 [3−(2)生命尊重]
■まえがき■
「日本は疲れています。日本は自信をなくしています。日本人は彷徨い続けています」
これは,平成14年12月に示された文化審議会答申に盛り込まれている「大地からの手紙」という詩の冒頭である。私は,この部分をよく次のように読み替え,そのあとを続けることがある。
「日本の子どもたちは疲れています。日本の子どもたちは自信をなくしています。日本の子どもたちは彷徨い続けています。戦後ものを作り,ものを売って高度経済成長を果たした日本は,この半世紀を爆走しながら,富の代わりに何を手放し,何を見失ってきたのでしょう。(略)おなかをすかせた心に尋ねてみましょう。『欲しいものは何ですか?』『それは, この目に見えるものですか?』」
日本の子どもたち,とりわけ多感な青年前期の疾風怒濤のまっただ中にいる,この目の前の生徒たちは,今どこへ進もうとしているのか。そして,私たち大人は,これら瑞々しいいのちを,いったいどこへ導こうとしているのか。今日,こうした問いにしっかりとした答えを出していくことが,改めて求められているようである。
生徒による主体的な道徳性のはぐくみ,それは,生徒一人一人が生きていることそのものの価値を自覚し,その生をより豊かでよりよいものとしていける力を培っていくことにほかならない。このことこそ,今私たち大人が,彼らに伝えるべき大切な姿であり,まさにそうできる環境を整えることが,すべての教師そして大人に求められている責務である。本書企画の根底には,こうした思いがある。
現行学習指導要領は,道徳教育に関しては,平成12年度の取り組みから,道徳教育改善の基本方針が各校における教育活動に具体化され,さらなる工夫改善が加えられているところである。また,「心のノート」がすべての中学生に配布され,その活用も着実に広がりをみせてきている。「心のノート」配布の影響もあるのか,道徳の副読本を採択する学校も,この3年間で大幅に増えており,より多くの学校で道徳の時間の充実に向けた取り組みが進められるようになってきた。このことは,平成16年11月に公表された「道徳教育推進状況調査」の結果からも明らかである。
道徳教育改善の基本方針は,
@ 体験活動等を生かした心に響く道徳教育の実施
A 家庭や地域の人々の協力による開かれた道徳教育の充実
B 未来へ向けて自らが課題に取り組み,共に考える道徳教育の推進
ということであったが,最近この方針の道徳の時間への具体化に一部誤った事例もみられるようになってきた。
例えば,実物にちょっと触れるといったような,道徳の時間の一部に位置付けたはずの体験的活動の時間が長すぎたり,ゲストティーチャーとして招いた地域の人の講話が,その時間のねらいを曖昧にしてしまったりしているといった事例である。いずれも,道徳の時間の特質が見失われ,残念ながらそのねらいの達成を助けるものにはなっていないということである。
道徳の時間に熱心に取り組まれる先生方が増えてきているだけに,道徳の時間本来の役割を十分に果たせない,誤った道徳の時間の広がりが懸念されるところでもある。
本書では,道徳の時間本来の役割と特質を押さえた授業こそが,生徒の心に響く授業となり,道徳的価値及び人間として生き方についての自覚を深め,道徳的実践力を確かなものとしてはぐくむ授業となることを具体的な事例をもとに示したいと考えた。そこで,現在我が国の道徳教育,とりわけ道徳の時間本来の姿を大切にしつつ,その充実を目指し,全国的にもその中核となって取り組んでおられる先生方に,以下に示すような読者の要望に応えられる実践事例を多様な形式で紹介していただいている。
◇道徳の時間の指導力アップのための着眼点が分かる。
◇道徳の時間の特質を踏まえた授業の展開が確認できる。
◇教材(資料)研究,学習指導案づくり,指導の工夫のポイントが分かる。
◇生徒一人一人が意欲的に学ぶようになる具体的な手立てが示されている。
◇研究授業を構想し実践するときの参考となる多様な着想が盛り込まれている。
なお,道徳教育を取り巻く今日的課題を考慮して,道徳の時間の指導に関する評価,「心のノート」の活用及び「生命尊重」を内容とする道徳の時間についても取り上げるとともに,体験活動等の生かし方の工夫や,生徒の心に響く魅力的な教材の開発や活用,多様な人々のかかわりによる授業の創造についても,参考となる事例をできるだけ多く紹介させていただいた。先生方をはじめ一人でも多くの方に読んでいただき,授業づくりの「とっておき本」に,あるいは道徳教育に対する「理解促進本」,道徳教育充実への「連携推進本」等にしていただけるようであれば幸甚である。
最後になったが,貴重な実践を分かりやすく示していただいた執筆者の先生方と,本書刊行にあたり,企画段階から編集全般にわたってご尽力いただいた明治図書の仁井田康義,近藤博両氏に,心より御礼申し上げる。
2005年5月 /柴原 弘志
-
- 明治図書
- 道徳について、再度考えさせられた。2015/10/2140代・中学校教員
- 本書の良いところは学習指導案が簡単に作成できるところです。ネット上でも道徳の指導案は数多くありますが、書き方のポイントや「心のノート」との関連をふまえて作成できるのは、この本ぐらいだと思います。また、特に「生命」に関する力のある資料が多く掲載されており、授業にすぐに使えます。実際、私もこの本を参考に校内授業研究を数本行いました。現在、道徳の授業実践が叫ばれています。道徳の授業をどのように行ったらよいのか悩んでおられる先生方には自信を持ってお勧めできる良書です。2009/7/7VOC