- はじめに
- 第1章 「心のノート」とエンカウンターを生かした道徳授業
- 1 『心のノート』とは
- 2 『心のノート』のここを押さえよ――諸富流の提案
- 3 『心のノート』はこう使え
- 4 『心のノート』とエンカウンター
- 5 この巻の実践について
- 第2章 実践 「心のノート」とエンカウンターで進める道徳
- 1 大すき!! 2年2組【総合2年】
- ありがとうカードとビンゴゲームで生き生き学習
- 2 こんなランドセルがあったらいいなっ【道徳1年】
- 男女共生へのはじめの一歩
- 3 ふわふわ言葉で元気パワーいっぱい!【道徳2年】
- ハートの風船を活用して
- 4 いきものにやさしくする心【道徳2年】
- 体験活動を生かした道徳学習
- 5 なかよく助け合う心【総合1年】
- 友達とのかかわり合いを大事にして
- 6 世界でたった一人の自分だから【道徳2年】
- 明るくのびのびと生きようとする力をはぐくむ
- 7 年下の人にやさしく【総合2年】
- 交流活動をを生かして
- 8 こころがハダシになるとき【道徳2年】
- 自分の心をみつめ、元気な心を育てる
- 9 あたたかい心をひろげよう【総合2年】
- 日常の活動や家庭・地域との連携を生かして
- 10 みんな すてきな ちゃんぴおん【道徳1年】
- 読み物資料とエンカウンターを組み合わせて
- 11 いつもにこにこ観覧車がいいね!【道徳1年】
- 一枚絵からウェビング
はじめに
千葉大学教育学部助教授 /諸富 祥彦
『心のノート』は使える。
子どもの心を育てるための,大きな武器になる。
『心のノート』の登場によって,日本の道徳教育,「こころの教育」は新たなステージを迎えることになる。
これが,『心のノート』完成直後からの,私の率直な実感でした。
本当にそうなるかどうかは,日本の「こころの教育」にかかわる現場教師や私たち研究者の努力にかかっています。
現場の先生方にも,最初は,戸惑いが見られました。
「どう使えばいいかわからない」
そんな声がよく,聞かれていました。
しかし,さまざまな場で私がおたずねした実感では,今ではもう小学校で約8割,中学校で約5割の先生方が,『心のノート』を使った実践に取り組んでおられます。
ある方は道徳授業で。
ある方は総合で。
ある方は教科の時間で。
ある方は朝の会や帰りの会で。
ある方は朝読書の時間で。
ある方は家庭との連携で。
『心のノート』は,実に,さまざまなところで使われています。
またたとえば,道徳授業における使われ方を見てみても,実に,多様性に富んでいます。
ある方は,導入で。
ある方は,展開で。
ある方は,終末で。
同じ展開で用いるにしても,展開前段で,読み物資料の読みを深めるために使うケースがあったり,展開後段で,子どもたちの体験の交流のために使うケースがあったりと,実にバリエーション豊かなのです。
こちらも思いも付かなかったような,素晴らしい着想も多く見受けられます。
この着想が素晴らしいと,私は思います。
本書にももちろん,その素晴らしい着想の成果が,たくさん集められています。
あえて言うと,こうなります。
『心のノート』のいいところは,それだけでは,どうにもならないところにあるのだ,と。
『心のノート』が配られた。
せっかくだから,使いたい。
でも,どう使えばいいんだろう……。
ここから生まれた,先生方のさまざまな工夫が,子どもの心を育てる上での教師の力のバリエーションを広げることに役に立っている。
私は,そう感じています。
とくに,道徳授業に関して言うと,1990年頃まで日本の道徳授業は,ワンパターンに限定されていました。
副読本を読む。
主人公の気持ちを追っていく。
それを通して,道徳的価値を伝える。
何十年もの間,ひたすら,このワンパターンをくり返してきたのです。
この方法が悪い,と言いたいのではありません。
むしろ,この方法こそ,日本の道徳授業の伝統の中で培われた,たいへん貴重な授業方法であることは,私も認めます。
日本の道徳教育が誇るべき財産です。
ただ,あまりにワンパターンすぎたのです。
さまざまな方法があり,個々の教師が自分に合った方法を選択するというのが理想的なあり方だとすると,一つの方法しかない,それしか認められない,というのは,どうみても不健全です。
『心のノート』の登場によって,このワンパターンはますます崩れ,相対化されていくはずです。
もちろん,『心のノート』は副読本に代わるものではありません。
日本の道徳授業の柱が,副読本の読み物資料であることに,今後も変わりはないでしょう。
私自身も,ある副読本の作成にかかわっています。
そこには,素晴らしい資料が豊富に盛り込まれています。
しかし,『心のノート』の配布によって,副読本の読み物資料に頼らない,他の道徳授業の方法が,ますます急速に開発されていくことになるはずです。
『心のノート』の配布は,ここ十数年の間,日本の道徳教育の世界で急速に進められてきた,いわば「道徳授業の多様化現象」をさらに促進する,という役割を結果的に果たすことになるはずです。
中でも私が注目しているのは,『心のノート』と,欧米の「心の教育」すなわち,サイコエデュケーションにおいて開発され,また日本で独自なものに組み立て直されたさまざまなアプローチとが,結びついた実践です。
構成的グループ・エンカウンター
ピアサポート
ソーシャル・スキル・トレーニング
モラル・スキル・トレーニング
アサーション・トレーニング
グループワーク・トレーニング
シェアリング
フォーカシング……
まだまだ,あります。
片仮名が苦手な方は頭がクラクラしたかもしれませんが,このような,さまざまなアプローチが,日本の学校現場に今,急速に普及しつつあります。
実は,こうしたサイコエデュケーションの諸方法と『心のノート』とは,結構,ドッキングさせやすいのです。
本論で述べますが,『心のノート』の構造からいって,特にエンカウンターとの相性は,バツグンです。おそらく,エンカウンターに習熟した教師,特にシェアリング(体験の分かち合い)がうまい教師は,『心のノート』の使い方もうまいはずです。
また,『心のノート』とエンカウンターの組み合わせによって,多様な授業がさまざまに生み出されていくと思います。
ここに,さらに読み物資料が加わると,ぐーんと充実することは,言うまでもありません。
この本で紹介した実践の中でも,こうしたサイコエデュケーションのアプローチがふんだんに使われています。
もちろん,道徳教育を考える上で欠かすことのできない,地域との連携などを重視した実践も盛り込まれています。
そのまま,すぐにマネしたくなる,マネできる実践も,きっと見つかると思います。
そんなつもりで,気軽に本書をめくっていただきたいと思います。
本書の刊行が,『心のノート』の活用の可能性をますます広げていくことを願っています。そしてそのことが,子どもたちの心を育てていくことを。
2004年2月
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- 明治図書