- まえがき
- T モラルジレンマ資料による授業
- ◆低学年
- ももいろの木いちご
- もみじのはっぱ
- とうもろこしができた
- ◆中学年
- 紙ひこうき大会
- げんぞうじいさん
- 病院の待合室で
- おいしそうな手作りケーキ
- 歯医者の予約
- なかよし遠足
- お父さんのビール
- ◆高学年
- ゲンとダイ
- 動物好きのあすか
- 運 動 会
- 楽園を求めて
- 情報倫理教育 ダンス
- 情報倫理教育 ぼくの詩どう?
- どうする? 健
- アメリカからの転校生
- 韓国からの転校生
- ヤッカの決意
- カミソギの選択
- 人権教育 キャンプの中の診療所
- U 道徳教育活性化のための方法
- ――校内研修のみならず,あらゆる場面での取り組みが大切!――
- 魅力を感じ,やる気になる取り組みをする
- 1 校内研修の活性化(模擬授業)を図る
- 2 先生方の要望に応え,出前授業を行う
- 3 日常的に授業実践を交流する
- 4 授業参観日に道徳の授業を行う
- 5 人材を効果的に活用する
- 6 授業後の検討会を充実させる
- 7 「心のノート」の活用例を示す
- 8 モラルジレンマ資料を提供する
- 9 道徳に関わる情報を提供する
- 10 学級における道徳の年間指導計画に指導の重点を位置づける
- 11 日常で話題にする
- 12 各教科や領域等との密接な関連を実感させる
- 13 道徳的な環境づくりをする
- V モラルジレンマ授業実践のために
- ――ピアジェとコールバーグの理論――
- 1 21世紀における道徳教育
- 1―1 道徳授業に対する考え方
- 1―2 道徳教育に対する先生の考え方を正そう
- 1―3 学習指導要領にみる道徳性と道徳的実践力の関連
- 1―4 道徳教育における『生きる力』の育成
- 1―5 学習指導要領の改訂と『生きる力』
- 2 ピアジェにみる道徳教育
- 2―1 臨床法によるピアジェの思考研究
- 2―2 ピアジェは道徳をどうとらえたか
- 2―3 自己中心性と脱中心化
- 2―4 道徳的実念論と客観的責任・主観的責任
- 2―5 正義観念の発達
- 2―6 ピアジェと学校教育
- 2―7 ピアジェの道徳教育への貢献
- 3 コールバーグにみる道徳教育
- 3―1 コールバーグと道徳教育
- 3―2 3水準6段階の道徳性の発達
- 3―3 正義の道徳と配慮と思いやりの道徳
- 3―4 どのようにモラルジレンマ授業を進めるか
- 3―5 モラルジレンマ授業の実際
- 3―6 モラルジレンマ授業の資料づくり
- 3―7 モラルジレンマ授業における討論の効果
- 3―8 道徳性の測定と評価を考える
- 索引
まえがき
私たちが20余年にわたってモラルジレンマ授業を研究し,実践し,そこから明らかにしてきたこと,明らかになってきたことは子どもたちの中に次のような学力が育つことである。
1 段階の移行が促され,道徳性,道徳的な見方や考えが発達する
2 道徳的思考に必要な概念や知識を学習する
3 ソーシャルスキル・コミュニケーションスキル・話し合いスキルなどの様々な学習スキルに習熟する
4 自尊感情(self-esteem)を高める
5 学校生活を生き生きと充実させる
6 「生きる」力を育てる
そのような学力の要はなんと言ってもモラルジレンマである。子どもたちが道徳的ジレンマ(価値藤)に陥ることで初めて道徳的な問題(矛盾,不条理,疑問,悩みなど)に気づき,その解決のために主人公が大切にしたい価値は何かを考え,主人公を取り巻く人の考えや思いを考慮し,主人公にとってどうすることが本人にとっても周りの人にとっても公正で公平かという視点で判断し,問題解決していく。その中で学級での話し合いが道徳性の発達にとって大きな意味を持つようになる。
ここで特に注目したいのは,モラルジレンマ授業を繰り返し経験することが子どもたちの道徳的感受性,道徳的気づき(moral awareness)を育てることである。それは生活の中の僅かな変化をもとらえて道徳的におかしい,変だと見る感覚であり,道徳的な問題を未然に防いだり,問題が大きくなるのを防ぐだけでなく,何が道徳的な問題かを整理し,問題解決していく第一歩となる。主体的に周りの世界に働きかけながら,「生きる」第一歩でもある。このことは文部科学省が子どもたちにつけたい「生きる力」と連なっている。このような道徳的感受性を身につけることは教師にとっても,子どもたちにとっても同様に大切なことと私たちは考える。
子どもたちが過ごす学校には様々な道徳的なジレンマや藤場面が存在している。たとえば,「持ち物がなくなった」り,「教材を忘れた子がいた」り,「休み時間で使う遊具で取り合いが始まった」り,「掃除の分担で不満が出た」り,「掃除当番の一人が早引き」したり,「置き傘がなくなった」り,「クラスの一人がルール違反をしたのに,全員がられた」り,はいずれも現実の道徳的なオープンエンドの問題となる。教師がうまくこれらの問題をとらえ,子どもたちが自分たちの力で道徳的解決をできるように配慮していくことが,道徳的感受性を育てることにつながる。
「道徳の時間」にこの道徳的問題をとらえ,考える道徳的感受性を育てるために,今回「モラルジレンマ資料と授業展開 小学校編 第2集」を出版する。この資料集は第2集となっているが,明治図書からこれまで出版したモラルジレンマ授業の関連図書は7冊である。従って今回8冊目の出版となる。これまでに出版した図書が何度も何度も版を重ねてきただけでなく,新刊として新しく資料集を出版できたことは,多くの現場の先生方の支持を受けてきた賜物だと感謝している。
総合的な学習が新しく登場してからも,時代に合わせた新しいモラルジレンマ資料が必要であり,現場の先生方からの要望もあって,私たちは絶えず資料を開発し実践的に研究し,検討を重ねている。その多くは修士論文の形で公表されている。しかしこれらは大学図書館に保管され,管理されており,著作権の問題があって,一般には入手が難しい。そこで,私のところで修士論文を書いた現場の先生方を中心に,日本道徳性発達実践学会の会員の先生方の協力を得て出版する運びとなった。今回は現場の先生方の要請や時代の要請に応えて,「命の教育」「福祉」「情報倫理」「異文化理解」「人権」「思いやり」「健康」「親子関係」など新しい心の領域を中心にこれまで開発してきたものを,第T章,小学生のためのモラルジレンマ教材と授業展開として編集した。それぞれ授業実践のための学習指導案,道徳的価値分析,学習過程,授業記録,反応分析などを示し,最後に使用したモラルジレンマ資料をつけた。執筆して頂いた先生方には,竹田レイ子,植田和也,池永智宏,松田義久,黒川博史,高木智明,中田光彦,楜澤 実,西田智貴,村上正樹の各氏がいる。
第U章では,小学校での道徳教育の取り組み,校内研究の持ち方など,どのようにすればよいかについて具体的な提案,実践例を楜澤氏に執筆頂いた。学校としてどのように道徳教育に取り組めばよいかについて悩まれている多くの研究担当の先生方にとって,多くのヒントが隠れており,強い味方となるものと期待している。
第V章は編者である荒木が担当した。モラルジレンマ授業の理論的背景や学習指導要領との関わりについて先生方がしっかり学んでおくことは,学級経営,授業設計,道徳性の発達,道徳性の評価,授業評価等,どれをとっても大切なことで,必要である。しっかりと1主題2時間の道徳授業を実践して頂くためにコールバーグのみならず,ピアジェについてもよく理解して頂きたい。ただし実際の授業では,指導案のように子どもたちは行動し,考えると思って授業を進めないでほしい。思いこみは授業を萎縮させる。また子どもを無視して指導案に沿って授業を展開しようと思わないことである。子どもが思考のできる学級風土作りから始めたい。先生自身がオープンエンドの手法になれることも必要である。なおこの章では道徳性の発達の説明と絡ませて,発達段階に応じた役に立つ生活指導,生徒指導のために,教師や親が子どもとどのように関わったらよいかについても執筆した。是非指導の参考にして頂きたい。
本書の出版は企画してから1年近く遅れてしまった。お詫びします。私自身が昨年3月に兵庫教育大学を退職し,4月から神戸親和女子大学に移ったりしたために,連絡や調整が進まないで,今日になってしまった。早くに原稿を頂いていた仲間には誠に申し訳ない。実践的検討に時間が必要以上にかかって執筆が相当に遅れた執筆者も何人かいた。その分これまでと違った新しい教材がたくさん集まったと喜んでもいる。日本各地の多くの先生方がこの本を手にされ,「使ってみたいなぁー」と思って頂けたり,クラスの子どもたちの顔が浮かんだりすると幸いである。本書の出版が新しい風となって現場の道徳教育の充実に少しでも貢献できればと楽しみにしている。是非使っていただき,よい点悪い点を知らせて下さると大変有り難い。
最後になりましたが,現代教育科学(523〜534)で1年間かけた連載(「ジレンマ教材で道徳的実践力を育てる」2000〜2001)を用意して頂き,今回の資料集の出版の企画につなげて下さいました企画室長の江部満さんには常に熱く私たちの研究活動と教育実践を見守って下さいまして心よりの感謝の気持ちでいっぱいです。有り難うございました。またこの長丁場の編集に直接関わって完成に導いて下さいました編集部の佐保文章さんに心よりお礼申し上げます。
春一番が日本各地を吹き荒れた日に
2005年2月23日 /荒木 紀幸
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