- はじめに
- ◎資料を生かし,発問を行うためのポイント
- 1 お金さえあれば 【節度と節制 1−(1)】
- 2 お母さんの手 【節度と節制 1−(1)】
- 3 ひきこもり 【希望と勇気 1−(2)】
- 4 捨て猫の運命 【自主自律の精神 1−(3)】
- 5 高校入試は何のため? 【人生を切り拓く 1−(4)】
- 6 やっぱりバイクは最高! 【夢の実現 1−(4)】
- 7 自分にとって大切なもの 【充実した生き方 1−(5)】
- 8 僕がのめりこんだもの 【個性を伸ばす 1−(5)】
- 9 事実を言って何が悪い! 【温かい人間愛 2−(2)】
- 10 淳の居場所 【思いやりの心 2−(2)】
- 11 大切な友達 【心から信頼できる友達 2−(3)】
- 12 あこがれの先輩 【異性についての正しい理解 2−(4)】
- 13 『知らない何か』に導かれて… 【畏敬の念 3−(1)】
- 14 遊ぼうよー 【生命の尊さ 3−(2)】
- 15 ごめんね,アスカ! 【人間のもつ弱さ 3−(3)】
- 16 試合に出られなければ意味がない 【集団の意義 4−(1)】
- 17 マナー違反とルール違反 【社会連帯の自覚 4−(3)】
- 18 嫌がらせは俺たちの生きがい 【正義を重んじる 4−(4)】
- 19 職業の選択 【勤労の尊さや意義 4−(5)】
- 20 福祉の学習 【公共の福祉 4−(5)】
- 21 僕のお母さん 【父母への敬愛の念 4−(6)】
- 22 おじいちゃんとおばあちゃんの街 【高齢者をいやす 4−(9)】
- 23 日本のよさ 【日本人としての自覚 4−(9)】
はじめに
「生徒の内面を見つめ,心をゆさぶっている…」
そんな道徳授業に出会うたびに,私は胸が熱くなります。
「生徒の発言がなく,教師がひとりで話をしている…」
その一方で,こんな授業に出会うことも少なくありません。
前者が盛り上がった授業だとすれば,後者は盛り上がりに欠ける授業と言えるのかもしれません。
今,一度,考えてみてください。
道徳授業は,生徒が次々に発言し,にぎやかな話し合いが行われるとき,それが無条件に「いい授業」だとは言えないということを。
なぜならば,道徳授業は,「ねらい」に含まれる道徳的価値に向けて,生徒が自らの内面を見つめ,どうすればいいのかを考え,心をゆさぶられる時間であるからです。したがって,生徒が自らを見つめるときは,にぎやかな盛り上がりではなく,ときには,沈黙が続く場合もあることを理解しておかなければなりません。
道徳授業が,「自らの内面を見つめ,心をゆさぶられる」時間であるとするならば,生徒は,うつむいて発言することを躊躇することもあるでしょう。ありのままの人間の姿に向き合い,主体的に「人間としての生き方」を考える時間だからこそ,沈黙することも必要になってくるからです。
中学生になれば,発言がなくても,自らの内面での思考は,活性化していることだってあります。それが生徒自身にとって,とても大切な瞬間になることさえあります。「生徒の発言がなく,教師がひとりで話をしている」授業であっても,「生徒の内面を見つめ,心をゆさぶる」ことができれば,盛り上がりに欠ける授業であるとは,決して言えないと思うのです。
では,そのような道徳授業をつくりあげるためには,何が必要なのでしょうか。
私は,資料選びと発問の検討が大切なポイントだと思います。道徳の時間の成否は,よい資料(中学校の場合は,特に読み物資料が中心になると考えます)を選択し,発問を十分練り上げることだと思うからです。
よい資料の条件としましては,文部科学省の「解説書」にも出ていますが,教師自身が資料の内容に心を動かされ,感動するものでなければなりません。しかし,既存の読み物資料に,どれだけ生徒の心を動かすものがあるでしょうか。教師自身が感動した資料であっても,生徒にとっては,「わざとらしく」「みえみえで」「つくりもの」としか感じられないことだってあるのではないでしょうか?
また,せっかくすばらしい資料にめぐり合っても,教師が,資料にある道徳的な問題を,第三者的に批判させたり,論評させたりさせてしまうこともあります。発問というのは,教師が,学級の生徒と重ね合わせながら,資料の流れや登場人物の心の動き,資料の一字一句,行間に隠れた主人公の心情の変化などを吟味して,構成していかなければならないものです。そのことにより,生徒は,「自らの内面を見つめ,心をゆさぶられる」ようになると思うのです。
以上のことを踏まえて,今回,「生徒の内面を見つめ,心をゆさぶる」ための「自作資料集bR」を作成しました。資料のなかには,内容そのものが生々しすぎたり,一般化するのが難しかったりするものもあると思います。その点につきましては,教師自身で改善したり,発問を工夫したりすることも必要になると考えます。
また,その際には,「教師であるあなたが実践するから道徳授業である」ことを常に意識してもらいたいと思います。
終わりになりましたが,出版に当たって多大なるご尽力を賜りました明治図書の仁井田康義氏,近藤 博氏に厚く御礼申し上げます。
2008年1月 /松原 好広
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- 明治図書
- この本では、どこの教室でも起こりうる場面での、日常よくある葛藤場面が取りあげられており、授業で用いれば生徒が必ず食いつく内容だと思う。資料だけでなく、実際の進め方、心のノートとの関連や終末での教師の語りなども紹介されており、とても使いやすい。2008/3/20コーパス