- はじめに
- 第1章 生も死も超えた「いのち」を学ぶ
- T 生と死を超えた「いのち」のはたらき
- U 有限なる「生」と無限の「いのち」
- V いのちが,私している
- W ハイデッガーの考えた「死」
- X 「死」のリアルな体験が,無限なる「いのちのはたらき」に触れさせてくれる
- Y 学習指導要領において
- 第2章 実践・生と死を見つめる「いのち」の道徳授業
- @ 目に見えなくても,生きる勇気を与え続ける存在 [高学年]
- 〜死んでからも,なお残る「いのち」〜
- A 「大いなるいのち」に気づく道徳授業 [高学年]
- 〜『千の風になって』〜
- B 「いのち」の道徳授業 [高学年]
- 〜自他の生命を大切にすること〜
- C 「食べる」とは,「いのち」をもらうこと [低学年]
- 〜「食」から「生と死」を見つめさせるアプローチ〜
- D いつまでもいっしょだよ [中学年]
- 〜「生」と「死」を超えて互いの中に生き続ける〜
- E 命が伝えるメッセージ [高学年]
- 〜『道徳ドキュメント』から,自他の生命のかけがえのなさに気づかせる〜
- F 「いのち」は永遠に [高学年]
- 〜たとえ死んでも,アサガオとして咲き続ける「いのち」〜
- G 「命」の授業(一つの命・多くの命,今の命・未来の命) [高学年]
- 〜複数時間扱いの道徳授業〜
- H 実話資料と体験で迫る「いのち」の授業 [高学年]
- 〜「ポトマック川のできごと」〜
- I いっぱいいっぱいのありがとう [低学年]
- 〜生まれて よかった〜
- J 体験活動と道徳時間をつなぐ授業 [低学年]
- 〜「良寛さんの『いのち』への深い思い」〜
- K 死ぬこと,生きることの意味 [中学年]
- 〜『心の中のお父さん』〜
- L 「かけがえのない生命体,地球」 [高学年]
- 〜つながりのある一つの「いのち」〜
- M 生きることの意味を考えさせる道徳指導 [高学年]
- 〜「生きて・ある」ことのすばらしさを感じ取らせる〜
はじめに
生命尊重は,道徳の時間で扱う様々な価値の中でも最も重要な位置付けを与えられています。
しかし,これまでの生命の授業を拝見していて,私はどこか物足りなさを感じずにはいられませんでした。どこか,ズシン,とくる重さが感じ取れなかったのです。
それはなぜだろう――そう考えて様々な授業を見直したとき,多くの授業で扱う生命が,まだ生物学的な生命にとどまっていて,「いのち」としばしば表現される人間特有の生命の深さの次元にまでたどり着いていないからではないか,と考えました。
人間の「いのち」は,死んだら終わり,ではありません。死者の存在を私たちは感じとることがあります。それは,たとえ肉体的には亡くなっても,その人の「いのち」の存在を感じるからだ,ということもできるでしょう。いわゆる目に見えない次元,スピリチュアルな次元にまで「いのち」は通じています。
この「いのち」は,また,人間だけのものではありません。肉体的な生死にとどまらない深さをもつ「いのち」に思いをはせるとき,それは,永遠に生死を繰り返す「大自然のいのち」とも通じるものがあります。それはさらには,「この宇宙全体にあまねくはたらいているエネルギーそのもの」にまで広がっていきます。このとき,「いのち」は,「人間をはるかに超えたもの」となって,畏怖の念の対象となります。
この本で扱おうとしたのは,そのような,深さと,重みと,広がりをもった「いのち」です。ズシリと重い感じがする「いのち」です。
そして,この目的のためには,「生」だけではなく,「死」をも正面から見つめる,という要素を欠くことはできないはずだと考えました。
本書『生と死を見つめる「いのち」の道徳授業』のコンセプトは,私のこのような考えから生まれたものです。
本書の執筆依頼に当たって,私は,著者の先生方に次のような手紙を書きました。
遠慮は要りません。
「ズシリ」と重い「いのちの授業」をご紹介ください。
「死んでも,いのちは残るのか。そのいのちとは何か」
「人間とほかの生き物,例えば微生物などにも共通するいのちとは何か。そこにはたらく,大いなるいのちの法則とはどんなものか」
といった根源的な問いを正面から扱うものでもかまいません。
「いのちというものの本質」を子どもたちに感じ取らせるような,重みのある授業をぜひご紹介ください。
(中略)
執筆者の方には,私と仁井田さんとで,このリクエストに応えられる本当の実力者だけを厳選させていただきました。
「ほんものの,いのちの授業」をご紹介ください。
すばらしい原稿をこころからお待ちしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
本書は,前著『人間を超えたものへの「畏敬の念」の道徳授業』(明治図書)とひと続きの内容のものです。
ずしっと,重みのある「ほんものの,いのちの授業」をぜひご堪能ください。
そして,何か感じるところがありましたら,ぜひ御自分でもトライされてみてください。
2009年11月 明治大学文学部教授 /諸富 祥彦
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