- まえがき
- 第1章 中学校で育てたいセルフエスティーム
- [1] 生徒の「いじめによる自殺」問題から,
- [2] 本書におけるセルフエスティームとは
- [3] セルフエスティームを道徳授業で育てる三つの観点
- [4] セルフエスティームの育った生徒たちの姿
- [5] 終わりに
- 第2章 実践・中学校の道徳授業で育てるセルフエスティーム
- @ 努力する自分に価値を見いだし,「セルフエスティーム」を育てる
- 資料 「僕は幽霊部員じゃない」
- A 「かくありたしの像」を構築することで「セルフエスティーム」を育てる
- 資料 「白衣の一生」
- B 生徒の内面から引き出す「セルフエスティーム」
- 資料 「足袋の季節」
- C 「われは一人なり」を考え「セルフエスティーム」を育てる
- 資料 「一人しかいない自分」
- D 自分のよさを見つけ,自信をもたせる
- 資料 「自分で自分をほめたい」
- E 自分のよさと,役割を実感する
- 資料 「明かりの下の燭台」
- F 「セルフエスティーム」を育てるための自分発見
- 資料 「今日からはじまる」
- G ロールプレイングで育てる「思いやりの心」
- 資料 「ある朝の出来事」
- H 子どものころの写真を通して自己肯定感を育てる
- 資料 「私の命にブラボー!」
- I 「手のかかる子」と見るのではなく,「手をかけてあげたい子」と見る
- 資料 VTR「新垣 勉さんの世界」
- J 何よりも自分自身を救う
- 資料 「いくさが置いていった宝物」
まえがき
人間は,自分の弱さ・醜さには,いやというほど気づいているものです。その反面,自分のセルフエスティーム(自尊感情)には,なかなか気づいていないものです。
友達から,「いつもそばにいてくれて,とっても安心するの! 本当にあなたは優しいのね!」と声を掛けられても,自分では「私なんか,ただそばにいるだけよ…。優しい気持ちなんてもってないのに…」と思ってしまいます。本当は,優しい言葉を掛けたり,さりげなく相手の心を気遣ったりしているのに,自分のセルフエスティームに気づいていないことが多いのです。
人間は,神や仏と異なり,不完全な生き物です。セルフエスティームもあれば,弱さ・醜さもあります。だれもが,心の中では,よりよく生きたいと願っていますが,現実には,「こうなりたい」「こうしたい」自分と,「こんなこともできない」「こんなふうになれない」自分を比べて,自信をもてないでいるのではないでしょうか。
世の中は,人と人とのかかわりで成り立っていますから,自分の思い通りにはならないことが多々あります。すると,どうしても自分の弱さ・醜さに目が行ってしまい,自分のセルフエスティームに気づくことができなくなります。特に,思春期を迎えた生徒たちにとっては,「いじめ」「自殺」問題が深刻化するなど,大きな社会問題も引き起こしているのが現実です。
「こんな私だけど,まんざら見捨てたもんじゃない!」
「こんな僕だけど,みんなの役に立っているんだ!」
生徒一人一人が,このように自分のセルフエスティームに気づいてくれれば,自分のよさを伸ばし,自分の存在感を実感することができることでしょう。そこで,今こそ,生徒一人一人が自分を見つめ直し,自分のよさを実感できる道徳授業を行うことが必要になります。
道徳授業は,読み物資料などから,主人公やほかの人たちの心の動きを自分と重ねて考えていきます。自分のあるべき姿と現実の姿を比較しながら,よりよく生きていくこと,人間らしく生きていくことについて,教師と共に模索していくのです。そして,「あるべき姿に少しでも近づいていきたい」という思いを自覚させることで,「こんな私だけど,まんざら見捨てたもんじゃない!」「こんな僕だけど,みんなの役に立っているんだ!」と思えるようになるのです。
以上のような趣旨から,今回,全国でご活躍されている先生方のご協力をいただきまして,本書を刊行させていただくことになりました。各授業者の方々の実践は,生徒とのやりとりが,実にさわやかで教室の雰囲気が目に浮かんでくるものばかりです。しかし,各授業者の方々は,最初から,生徒とこのようなやりとりができたわけではありません。これらの実践を行うために,道徳授業をはじめ,教科の授業など,学校生活の様々な場面で,生徒との人間関係を培い,道徳授業を毎週続けてきたからこそ,このような道徳授業を実践することができたのです。
したがって,本書の各実践を参考にされる際には,その実践の裏に隠されている,「教師と生徒との人間関係づくり」までもご推察いただきながら,お読みいただけましたら幸いです。
最後になりましたが,優れた実践例をご提供くださいました各先生方に対しまして,心より感謝の意を表すとともに,出版に当たって多大なるご尽力を賜りました明治図書の仁井田康義氏・近藤博氏に厚く御礼申し上げます。
2007年3月 /松原 好広
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- 明治図書