- はじめに
- T章 改訂の経緯と基本方針
- 1 改訂の経緯
- 2 改訂の基本方針
- U章 キーワードでみる幼稚園教育要領
- 1 環境を通して行う教育の特質の明確化
- 2 幼児期にふさわしい道徳性の示し方を改善する
- 3 幼児期にふさわしい知的発達を促す教育を示す
- 4 幼稚園運営の弾力化に関する内容を加える
- V章 幼稚園教育の特質
- 1 環境を通して行う教育における教師の役割
- 2 5領域の考え方と領域相互の関連
- W章 幼稚園教育要領の解説
- 第1章 総則
- 1 幼稚園教育の基本
- 2 幼稚園教育の目標
- 3 教育課程の編成
- 第2章 ねらい及び内容
- 健康
- 人間関係
- 環境
- 言葉
- 表現
- 第3章 指導計画作成上の留意事項
- 園運営の弾力化
- X章 幼稚園教育要領の実践課題と実践例
- @ 戸外で遊ぶ
- A 道徳性に関すること
- B 友達のよさに気付く
- C 生き物とともにする生活
- D ものとの出会い
- E 数量に関する体験
- F 自然に触れる
- G 地域の環境を取り入れる
- H 文字との出会い
- I 自己表現を楽しむ
- J 交流教育
- K 子育て支援
- L 預かり保育
- 付録
- 幼稚園教育要領
はじめに
現行の幼稚園教育要領は平成元年に告示され,ほぼ10年を経過し,この間,概ね幼稚園教育要領への理解が深まり,幼稚園教育の基本を踏まえた着実な実践が積み重ねられてきたところである。
しかし,一方では,近年の核家族化,都市化,情報化に加えて,少子・高齢化,女性の社会進出の増加,科学技術の進展等,社会は急速に変化しつつある。こうした社会の変化は,当然,家庭生活や保護者の子育てに対する意識,あるいは地域社会の生活などに影響を及ぼし,幼稚園においても,このような社会の変化に対応した取り組みが求められるようになり,今回の幼稚園教育要領の改訂にいたっている。
今回の改訂の特色の一つは,これからの学校教育においては,〔ゆとり〕ある教育活動の中で〔生きる力〕を培うことが重要であることから,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,盲・聾及び養護学校の教育課程の基準の一貫性が重視され,各学校段階の役割を踏まえつつ,その教育課程の基準は「調和と統一」が図られたことである。幼稚園においては,幼児が遊びの中で主体的な力を発揮し,生きる喜びを味わうことが大切である。すなわち,幼児期においては,遊びの中で,能動的にものや人とかかわることにより,自我を形成するとともに,自分を取り巻く自然や社会に対して鮮やかな感覚を養うことが大切であり,このような体験がその後の学校教育における学習の基盤となっていく。
しかし,現実には都市化や核家族化,情報化が進む中で,子どもたちの生活は変化を余儀なくされ,いわゆる「遊びの喪失」が問題となるなど,幼稚園においても,遊びの楽しさを体験したことのない子どもたちや友達とつながりがもてない子どもたちが増えつつあることも確かである。こうした状況から,新幼稚園教育要領においては,幼児の主体的な活動を確保するための教師の役割の基本が示されている。教師には,単に幼児を遊ばせるのではなく,幼児自らが遊び本来の楽しさを実感できる手だてをする役割が求められている。
また,これからの学校教育は,特色ある学校づくりを進める必要がある。新幼稚園教育要領では,「各幼稚園においては,法令及びこの幼稚園教育要領の示すところに従い,創意工夫を生かし,幼児の心身の発達と幼稚園及び地域の実態に即応した適切な教育課程を編成するものとする。」と示し,各幼稚園の特色ある幼稚園づくりの一貫としての教育課程を編成することが大切であると述べている。
「特色をもつ」ということは,何か特別なことをすることではない。各園のもつ環境を最大限に生かして教育課程を編成することが,特色ある幼稚園づくりにつながり,それは園の教職員全体による創意工夫によって生み出されるものである。
本書は幼稚園教育要領の解説書であるとともに,各園で教育課程を編成する際の手がかりとなることを期待して,環境を通して行う教育がいかなるものか,どのような園生活場面をとらえることが大切かなどについて,具体的に記述するよう努めている。各幼稚園において,特色ある幼稚園づくりの一助となれば幸いである。
最後に,本書を上梓するに際して,出版を薦めてくださった明治図書仁井田康義氏には心より感謝する次第である。
1999年9月 /神長 美津子
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- 明治図書