- はじめに
- 第T章 「味見読書」誕生の背景
- 一 「図書室はどこ?」
- 二 「本離れ」は「本嫌い」か?
- 三 「読書は面倒くさい」を打破する
- 四 生徒自身にとっての「名作」との出会い
- 五 「食わず嫌い」を無くすために
- 六 活字の現実味を感じる生徒
- 第U章 子どもから本を引き離したもの
- 一 テレビゲーム
- 二 「忙しいから……」
- 三 読書感想文?
- 四 歴史的な「名作」は知るべし!
- 第V章 「味見読書」実践マニュアル
- 一 一学年での実践 ――生徒自身の「名作」の発見――
- 1 「課題図書」の紹介/ 2 「味見読書」の動機付け/ 3 「味見読書」のローテーション/ 4 一言感想
- 二 二学年での実践 ――「味見読書」でコミュニケーション――
- 1 他者とのコミュニケーションの意識付け/ 2 「味見読書」によるコミュニケーションの手順と実際
- 三 三学年での実践 ――「味見読書」で「生き方」を考える――
- 1 三年目の展開/ 2 「味見読書」で何かが変わる
- 四 「味見読書」の風景
- 五 メールの交換例
- 六 「味見読書」アンケート結果と所感(平成一三年) ――これぞ「味見読書」の醍醐味!――
- 第W章 「味見読書」は発展する
- 一 中学生に「読み聞かせ」をさせよう!
- 二 「味見読書」は後輩へ
- 三 「味見読書」アンケート結果と所感(平成一四年)
- 付 録
- 「味見読書」授業案・「課題図書」紹介プリント
- 「味見読書」授業案(平成一三年)
- 一学年「課題図書」(bP〜15)
- 二学年「課題図書」(16〜30)
- 三学年「課題図書」(31〜45)
- 解説 /有元 秀文
- おわりに
はじめに
「味見(あじみ)読書」とは、私が前任校の時に開発し、実践してきた読書指導の方法で、現任校の生徒がネーミングしてくれたものである。
きっかけは、前任校の「自習」の時間であった。そこでの生徒たちとのやりとりの中で「本を味見する」ことが閃いた。――本を読むことは食べ物を食べるのと同じだ。実際に食べてみなければ旨いかどうかは分からない。本だって、ちょっとでも読んでみなければ面白いかどうか分かるはずがない。――そんな単純な発想に、思いのほか生徒たちが食いついてきた。
私が知る限り、これまで実践されてきた様々な読書指導あるいは読書教育は、元々本が好きな子どもや基本的な読書習慣を備えている、数で言えば少数の子どもたちには有効であっても、「本が嫌い」であったり、幼少時からほとんど読書習慣のない、現在では恐らく多数派となってきている子どもたちに対しては、顕著な成果を上げることが困難だったのではないかという気がする。
また、そのような子どもたちを救うためには、学校全体あるいは学年で一斉に行なう「朝読書」などが効果を上げてきたわけだが、それは学級担任をはじめとする教師たちの「連携」や「まとまり」が不可欠であった。
ところが、本文でも触れるが、現在の「本離れ」の現象は決して子どもたちに限ったことではない。むしろ、大人たちこそ「本離れ」が蔓延しているのではないか。学校においては、教師たちとて例外ではない。小学生より中学生のほうが本を読まない子どもが多いという実態は、多くの調査で明らかにされてきているが、それは教師たちも同じことだと思えてならない。
私は時間の許す限り「読書」と名の付くあらゆる講演や講習、研修会に参加しているが、顔を出すのは圧倒的に小学校の教員である。中学校の教員は五分の一にも満たない。ついでに言えば、男女別ではそれと同じ割合くらい女性のほうがはるかに多い。私以外に一人も男性の教員がいなかった講習や研究会を、私は幾度も経験してきた。
日常的に職員室などで教師たちが「読書」を語り合うことも稀である。同僚同士でも、どの人がどんな本が好きで、どんな本を読んでいるかなど、お互いに知らないのではあるまいか。せいぜい、教科や教材のために、近頃では「総合学習」で使用する本の選択のために必要に応じて話をするくらいである。
先だって公表された一五歳の生徒を対象にした経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、「趣味としての読書はしない」という回答が、日本は五五パーセントにも及び、他国に比べて群を抜いて多かったが、それは学校の教師たちとて同様であろう。
従って、「趣味としての読書をしない」教師たちが、「本が嫌い」であったり、ほとんど読書習慣のない生徒たちに「朝読書をしよう!」などとやっているのが、現在の多くの学校の実態であると考えられる。折角、全校一斉の「朝読書」を始めても、教師たち自身にしっかりした読書経験がないから、本を読まない、読みたがらない生徒たちに、どうやって本を読ませればいいのか分からないのだ。全国で「朝読書」を実施する学校は増えているが、長く継続できずにやめてしまう学校も少なくない。
「味見読書」の良いところは、ある程度まとまった数の本さえ揃えれば、「誰でもできる」ことである。それは教師側、生徒側どちらにも当てはまる。教師側の特別なテクニックも読書経験も、ほとんど要らない。生徒にとっては、特に読書習慣の希薄な、「本離れ」している子どもたちに対してこそ有効であると確信している。それは、第V章の六と第W章の三に揚げたアンケート結果を見れば、きっと納得してもらえると思う。
このささやかな「味見読書」の開発・実践が少しずつ評価され、前任校の時、一九九九年二月に集英社主催「第八回読書指導体験記コンクール優秀賞」、現任校に来てからは、二〇〇二年三月に東京新聞主催「第四回東京新聞教育賞」、同じく七月に読売新聞社主催「第五十一回読売教育賞優秀賞」を受賞した。また、同七月には第三十三回全国学校図書館研究大会(横浜大会)で「味見読書」の実践発表を行ったが、これまで私の講演や実践発表に参加した人たちは口々に「ぜひやってみたい」「自分にもできそうだ」と言ってくれる。だが、まだ「味見読書」は世の中に十分知られているとは言えない。
そこで、このたび私が日頃より指導を仰いでいる国立教育政策研究所総括研究官・有元秀文先生の勧めと版元の明治図書出版企画開発室・江部満さんの厚意により、拙著を刊行する運びとなった。「味見読書」が、生徒たちの「読書」に対する意識や意欲を大きく変えていく様子を感じていただき、読書推進の意欲を持つ多くの人たちのヒントとなれば幸甚である。
この実践は教職員にも、児童にも大変好評で、読書の食わず嫌いがなくなると、他校へも輪が広がっています。
図書館の可能性を確実に広げる書籍ですが、公共図書館にも1冊しかなくて、長らく予約待ちでした。
この度復刊が手に入り、大変うれしく思います。
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