- 初めに
- 序章 「伝え合う力」を豊かにする自己発見学習
- 1 自己表現力の育成と自己形成
- 2 「自己」を表現する力
- 3 自己「創造」の世界へ
- 4 「人」を支えるもの
- 5 国語力育成の視野から
- 第1章 自己存在の対象化
- 1 自己を素直に見つめる
- 2 特性からの発見
- 3 内面の深まり
- 4 自己との出会い
- 5 自分史の作成
- 実践1 自分が一番好き
- 1 単元名/ 2 教材名/ 3 単元観/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元の授業過程/ 7 何より大切な自分
- 〔授業アイデア1〕「みんなとちがう私」
- 〈参考資料1〉自己の特性を探るブックリスト20
- 実践2 どんな時に心は成長するの
- 1 単元名/ 2 教材名/ 3 単元観/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元の授業過程/ 7 内面の成長に気付く時
- 〔授業アイデア2〕「私のお気に入り」
- 〈参考資料2〉自己の内面を見つめるブックリスト20
- 実践3 自己を見つめて
- 1 単元名/ 2 教材名/ 3 単元観/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元の授業過程/ 7 見つめ直した自己
- 〔授業アイデア3〕「自己を綴る」
- 〈参考資料3〉自己を知るチェックリスト30
- 第2章 人間関係の中の自己
- 1 子どもの人間関係
- 2 家族との関係
- 3 児童同士の関係
- 実践4 「私」はどんな子
- 1 単元名/ 2 教材名/ 3 単元観/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元の授業過程/ 7 通じ合った親子の気持ち
- 〔授業アイデア4〕「あなたがうまれたとき」
- 〈参考資料4〉親子関係を考えるブックリスト20
- 実践5 家族っていいな
- 1 単元名/ 2 教材名/ 3 単元観/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元の授業過程/ 7 自己と家族の再確認
- 〔授業アイデア5〕「おじいちゃん おばあちゃん」
- 〈参考資料5〉きょうだい関係を考えるブックリスト20
- 実践6 私の友達
- 1 単元名/ 2 教材名/ 3 単元観/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元の授業過程/ 7 友達の中にいる自己
- 〔授業アイデア6〕「先生大好き」
- 〈参考資料6〉友達関係を考えるブックリスト20
- 第3章 環境と自己確認
- 1 子どもと環境
- 2 確認の契機となる風土
- 3 自然と人間形成
- 4 自己を育む文化
- 実践7 風土の中の自己
- 1 単元名/ 2 教材名/ 3 単元観/ 4 単元の指導目標/ 5 単元の評価規準/ 6 単元の授業過程/ 7 風土を糸口に自己発見
- 〔授業アイデア7〕「私を育てた風土」
- 〈参考資料7〉方言にふれられる絵本のブックリスト20
- 第4章 自己発見の授業 15の扉
- 〈前書き〉
- (1) チェックリスト法
- (2) 選択肢法
- (3) アンケート法
- (4) 比較法
- (5) 自己紹介法
- (6) 他己紹介法
- (7) 自分史法
- (8) アルバム法
- (9) 年表法
- (10) 未来法
- (11) 視点法
- (12) 構造図法
- (13) 図鑑法
- (14) カード法
- (15) インタビュー法
初めに―本書の研究過程と特徴―
人は,自己を見つめ生きる糧を得る
いかなる試練や困難も
自己の中に解答がある
人は,人とともに生き
人を助け
人に助けられる
人は,生まれた土地を踏みしめ
その大地に心を育む
いかなる地にあっても
生まれた土地に心を残す
(井上一郎 2003.5.25)
本書は,私が主宰する大阪国語教育カンファランスの研究会員とともに行った研究成果である。自分は誰か,自分は何か,自分は何をしたいのか,と自問自答しながら人は生きていく。その自己発見によって,人間は一層深く成長していく契機を得たり,目的を持つことができる。国語教育のみならず,他教科や総合的な学習の時間などにおいても,単元の課題となる重要な自己発見の学習が,教育学的にはまとまった形式で理論研究されていない。勿論,国語教育では,実践研究についてほとんど先行文献がない。教科目標に加えられた人間関係力を育てる「伝え合う力」の育成の具現のためには,これらの学習は不可欠となるはずである。そこで,以下のような過程を経て刊行に至った次第である。
◆
研究は,1999年(H11)1月から本格的に始めた。最初は,自己表現や自己発見に関わる文献(心理学や哲学など)を収集しながら,絵本や童話集やエッセイなどから自己発見をテーマにしたものを調査した。集めた資料をもとにブックリストを作成したり,教材として活用したり,表現活動のモデルとなる作品などを整理した。次に,どのような指導方法が可能か,模索する実践を重ね,成果があったものを分類して整理した。
2000年(H12)には,本書の構成は,理論・調査・ブックリスト,など教材や理論に関する参考文献を示すこと,自己発見のアイデア集になること,実践を行い問題点と成果を踏まえ,事例集となるように再構想して提唱できるものにすること,といった大枠を決めた。
2001年(H13)には,自己発見の方法的基盤として,「自己からの発見」,「他者からの発見」,「関係からの発見」,「状況・風土との関わりからの発見」を構想した。2002年(H14)から,実践の指導案を立て,各執筆者ごとに予備実践から本実践へと展開した。実践では,子どもたちが強い関心を示し,自分がこんな人間だと初めて気が付いたとか,親子関係をゆっくり考えることができたと保護者から感謝の手紙をもらったりした。今まで受けたことのない授業であったが,こんなに興味深く,しかし厳しい自己認識に驚いたりする子どもの姿を発見したのであった。
特に,工夫したのは,国語科のみに限定せず,各教科等や総合的な学習の時間にも,活用できるような単元構成にしたことである。大単元としても,小単元としても,活用できること,また,各教科の中心的な課題となってもよい,または,内容の一部として取り上げてもよい,と言った柔軟なものにすることなどを決めた。育成すべき能力については,新しい学習指導要領では,授業について目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)をしなくてはならない。本書でも,評価規準をどのようにするかを協議し,四観点を設定して能力の定着を図った。それぞれの構成は,次のようにした。
実践1 自分が一番好き
1 単元名 2 教材名 3 単元観 4 単元の指導目標 5 単元の評価規準 6 単元の授業過程 7 何より大切な自分
〔授業アイデア1〕 「みんなとちがう私」
〈参考資料1〉 自己の特性を探るブックリスト20
実践を軸に,〔授業アイデア〕を示したり,〈参考資料〉としてブックリストを示すなど,本書を契機に新たな実践に取り組めるような工夫もした。
実践後,執筆を開始し,原稿に仕上げる推敲を重ねた。研究会は,一つのテーマを長期にわたって継続的に研究し続けるものだが,学校現場にあってそれを継続することはいかに厳しいものか,研究会員を見ているといつも感じさせられることだ。本書の研究に携わってくれた研究会員の情熱と努力とに敬意を表するとともに,編集に応えてくれたことに感謝したい。
◆
明治図書の石塚嘉典・松本幸子氏には,刊行の機会と多大なご協力を頂いた。ここに記し,感謝の意を表したい。国語教育のみならず,学校教育全体が改革され,子どもが生きやすい環境を構築することが私たち教育者の課題であり,可能なことを全て行う覚悟と決意が必要である。教育書刊行も重要な任務を負っており,今後もともに行動を続けたい。
今は,研究者にとっても,実践者にとっても教育学を実践に生かすことが難しい状況にある。従って,何よりも優先すべきは,自己表現として,研究内容を世に問うことが最も重要であろう。追い込まれた子どもたちの慟哭を決して忘れることなく,喜びに満ちあふれた笑顔とともに研究と実践を重ねていこう。志をともにできる人が集い,ともに行動して下さることを期待して筆を擱きたい。
2003年7月 /井上 一郎
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- 明治図書