- はじめに 「言葉がけ」の向こう側にあるもの
- 第1章 「言葉がけ」でこどもは変わる
- 1.幼児の発達と「言葉がけ」
- こどもの「発達」とは,「物語」なのです。
- 「大人」は,登場人物。そして「言葉がけ」は,台詞のようなもの。
- 「物語のテーマ」。それは,「大きくなるのは楽しいね」なのです。
- 2.「言葉がけ」次第で,こどもは良くも悪くもなります
- 「言葉」は,「包み紙」。やっぱり「中身」が気になるものです。
- 「言葉がけ」は,「楽しむ能力」を引き出す技術なのです。
- 3.言葉がけの反応とこどもたちの心理
- 「言葉がけ」とは,「言葉」×「言葉」なのです。
- 「大人の言葉」が与えるもの。
- 0・1・2歳児の「言葉がけ」は,「今」の想いが大事。
- 言葉がけの意味は,きっと「卒園式の日」にわかるはずです。
- 第2章 こどもがすくすく成長する40の魔法の「言葉がけ」
- 1 こころも体もぐんぐん伸ばしてあげよう
- …発達を意識した言葉がけ(0歳で身につける11の基礎能力)
- その1 あやしてあげたら声を出して笑う子
- ~すべての能力の基礎。それは,「楽しむ能力」なのです~
- その2 「アー」「クウー」って言葉にならない声を出しはじめた子
- ~こどもの「声」への反応が,「質問力」を育てていくのです~
- その3 声を出して先生を呼びはじめた子
- ~ふとした発見が,「工夫する力」の基礎となるのです~
- その4 人見知り,後追いをはじめた子
- ~人見知りは,「グループや仲間意識」の基礎づくり~
- その5 動作をマネできるようになった子
- ~動作のマネっこは,「ルールを守る」基礎づくり~
- その6 指差しができるようになった子
- ~指差しは,「選択する能力」の基礎づくり~
- その7 ハイハイができるようになった子
- ~ハイハイは,「リズム運動」の基礎づくり~
- その8 「ちょうだい」ができるようになった子
- ~「ちょうだい」は,「分かち合い」の土台づくり~
- その9 初めて「意味」のある言葉が話せた子
- ~初めての「言葉」は,「ひらめき」の基礎づくり~
- その10 「立っち」ができた子
- ~がんばった「立っち」は,「根気」の基礎づくり~
- その11 言葉の数が増えてきた子
- ~言葉の数が増えてくると,「組み合わせ能力」が熟成をはじめます~
- 2 お食事大好き! もりもり食べよう おひるね大好き! 寝る子は育つ
- …食事/午睡・着脱に関わる言葉がけ
- 食事
- その1 目を離してしまうと飲むのをやめてしまう子(0歳)
- ~授乳中こそ「今」を大切にした言葉がけが大事なのです~
- その2 「いただきます」「ごちそうさま」が言えない子(2歳)
- ~挨拶の言葉ではなく,おまじないにしてみよう~
- その3 手伝ってあげると食べなくなってしまう子(0歳・1歳)
- ~使っている手ではなく,使っていない手をさわってあげよう~
- その4 「食べる」って言ったのに残してしまう子(2歳)
- ~残してしまったことより,食べようと思った気持ちが大切~
- その5 嫌いなものがどうしても食べられない子(2歳)
- ~食事は,がんばるものではなく,笑顔と楽しさがある場なのです~
- その6 歯磨きを嫌がる子(1歳・2歳)
- ~歯磨きは,「絵本」のような読み聞かせなのです~
- 午睡・着脱
- その7 なかなか寝つけない子(1歳)
- ~お腹の中にいた頃の「思い出」を振り返る気持ちいい時間にしよう~
- その8 なかなか着替えができない子(2歳)
- ~着替えることは次への準備。次の楽しみが見えることが大切です~
- 3 きっとできるよ! ひとりでトイレ
- …排泄に関わる言葉がけ
- その1 おむつをとり換えてあげるときに(0歳)
- ~おむつ交換のときから,トイレトレーニングははじまっているのです~
- その2 「おしっこは?」といつ聞いても,「ナイ!」ばかりの子(1歳)
- ~こどもの「選択」,大人の「洗濯」~
- その3 失敗が多くいつもおもらしばかりの子(1歳)
- ~「おむつ」から「パンツ」に変わると,世界が変わるのです~
- その4 オマルが嫌いになってしまった子(1歳)
- ~オマルは,座らせる場所ではなく,お話を聞く場所なのです~
- その5 うんちに行きたいそぶりの子(1歳)
- ~うんちの後の「お約束」は,案外届きやすいのです~
- 4 きれいって気持ちいいね ちょっとの注意がこどもを守る
- …清潔・整理/安全・ルールに関わる言葉がけ
- 清潔・整理
- その1 汚れた顔をふいてあげるとどうしても嫌がる子(0歳)
- ~「ふかれる」のが嫌いな子には,「ふかせてあげる」ことです~
- その2 こぼした食事をなんど言っても拾わない子(2歳)
- ~拾うものによって,入れる場所が違うことを教えてあげよう~
- その3 おもちゃの片づけがまったくできない子(1歳・2歳)
- ~料理人が教えると,こどもの片づけは,断然うまくなる~
- その4 汚れたシャツを脱がせようとすると泣いてしまう子(2歳)
- ~こどもたちは,お客さん。先生は,クリーニング屋さんなのです~
- 安全・ルール
- その5 遊びのルールがわからず困惑している子(2歳)
- ~ルールがわからなくなるくらい,面白い演出をしてあげよう~
- その6 「ジュンバンでしょっ」って言いながら割り込む子(2歳)
- ~「がんばったこと」と同じくらい「待てたこと」をほめてあげよう~
- その7 道路に出るとすぐに走りだす,注意が必要な子(2歳)
- ~走る時間と歩く時間を区別した声がけにしよう~
- その8 外で歩くときに常に手を出してしまう子(2歳)
- ~手遊びは,「安全対策」にも使えるのです~
- 5 一緒に遊ぶ子この指とまれ
- …遊びにさそう・遊びをつくる言葉がけ
- 室内保育
- その1 お外へ出たいと泣いてきかない子(0歳・1歳)
- ~手にするもので,外へ出たい理由もわかるものです~
- その2 遊びの時間も,抱っこばかりせがんで泣いてくる子(0歳・1歳)
- ~「抱っこ」も「甘え」も,実は「遊び」のひとつなのです~
- その3 読み聞かせの最中に,座って聞けずにウロウロする子(1歳)
- ~読み聞かせが聞けない子には,より多くの言葉がけを~
- その4 おもちゃのとり合いがはげしい子(1歳・2歳)
- ~増やしたり減らしたりしながら変化を持たすことが大切です~
- その5 遊びのときにすぐにお友だちにかみつく子(1歳)
- ~「叱られる」側だけでなく,「叱る」側も体験させてあげよう~
- 自然に親しむ
- その6 花壇の花をむしりとってしまう子(1歳)
- ~「言葉」よりも「感情」の方が伝わるものです~
- 園外保育
- その7 園外保育でうまく友だちと遊べず,ひとりぼっちの子(2歳)
- ~太陽や空を使って,絵本の世界を楽しもう~
- その8 遊び足りないのか,なかなか帰らないこどもたち(1歳・2歳)
- ~外遊びの帰りは,電車ごっこを楽しもう~
- おわりに 「言葉がけ」で,大人も変わる
- ~保育者とは,「絵本作家」のようなものです~
はじめに
「言葉がけ」の向こう側にあるもの
「保育士」として,保育の現場で活躍したい。こどもたちの成長を見守りながら,少しでもこどもたちへ大切なことを教えてあげたい。きっと,みなさんは,そんな願いや想いを持って,「保育士」となり,日々保育の現場で,がんばっていることと思います。
でも,相手は,可能性に満ちた光あふれるこどもたち。今まで,学んできた「知識」としての「保育論」が,ときに現場では通用しなかったり,自分の中で疑問や不安が浮かんできて,「いったい,どのように接したらいいのだろう」そんな想いが湧き上がってくることも,きっと多いはずです。ベテランの保育士の先生や先輩方のこどもたちへの対応を見ながら,「なんであんなにうまく対応できるのだろう」そう思うことも,しばしば……。
「やはり,経験なんだなぁ……」そんな思いを,誰でも一度や二度は,抱いたことがあるはずです。
その反面,ある日,ふと園を訪れた若い営業マンがこどもたちとふれ合っていて,今まで,「園庭の花壇に入ってはいけません」と何度も言ってきたのに一度も聞くことがなかった子が,その営業マンのたった一言の「言葉」で,まったく入ることがなくなってしまった。そんな不思議な「体験」を,目にすることがあります。
もちろん,その営業マンは,「保育士」ではありません。もちろん「保育学」を学んできたわけでもなく,保育経験もありません。
ベテランの先生。そして,この営業マン……。よーく見てみると,何か「特別な言葉」を使っているわけでは,ありません。こどもたちに効く「魔法の言葉」を使っているはずもありません。やはり経験??……。いえいえ……,そういうわけでもないようです。
ずっと昔から見ている「こども」であれば,その子の行動パターンや考えていることを予想することは,できるかもしれません。でも今,目の前にいる子は,ベテランの先生にとっても,新人の先生にとっても,この営業マンにとっても,「初めてのこども」です。
「いったい,なぜなんだろう……??」
今年,小学校1年生になった卒園生の女の子が,園に遊びに来ました。そして,園庭で一緒になって,こどもたちと遊んでいます。
少しだけ,お姉ちゃんになった女の子。たくさんのこどもたちに,色んなお話をしてくれます。そこにいる,ちいさなこどもたち。実は,ここでも,先ほどの営業マンではないですが,同じようにその子が話す「言葉」に耳を傾け,そしてその子の「注意」を聞いていることも珍しいことではありません。やっぱり「言葉」が届いているのです。
本当に不思議に感じますよね?
でも,実はここに大きなヒントが隠れているのです。
それは「言葉」が持つ「本来の意味」ではなく,その「言葉」からその子が「なに」を思い浮かべるのか,そしてどんな気持ちを抱くのかという「こころ」を動かす「ちから」というものが存在しているからです。
こどもにとって,「言葉」とは,本来のその「意味」よりも,その「言葉」から連想されるイメージやフィーリングの方が,こころにぐんっと入ってくるものです。
これが,本当の意味での「言葉のちから」なのです。
「花壇の中に,入っては駄目だよ」
その「言葉」から,こどもたちが,一体何を思い浮かべるだろう。
先生の怒った顔,それとも花壇に育つ大きなひまわり,それとも花の回りに集まり楽しそうに蜜を吸う小さなミツバチの姿,まったく花壇とは関係のない積み木遊びやブロック遊び……
この様々な感じる世界こそ「言葉のちから」なのです。
「言葉がけ」の向こう側にあるもの。
それは,その子の「イメージの世界」なのです。
この本では,「言葉がけ」が,どんな風にイメージをつくり出していくのか,そして「言葉がけ」によって,こどもたちが,どんな想像をしながら,行動していくのか,できるかぎり難しい「言葉」を使わずに,みなさんにご紹介していきたいと思います。
今回は,特に0・1・2歳児という,一番大切な「こころの種」づくりの段階でのお話を中心に,ご紹介いたします。
小さな小さな「こころの種」。でも,この「種」の中には,大人が想像もできないような大きな可能性が秘められています。
「種」は,育てるものであり,それは,育てる前から存在するもの。
大人は,そう考えがちです。でも,本当は,その「種」づくりにも,大人は参加しているのです。「こころの種」づくりに,どのように参加して,その成長をどんな風に見守っていくのか。そこには,「経験」というものはあまり関係ないのです。
それよりも大切なこと。
それは,「言葉がけ」の向こう側にある「イメージの世界」が見えるかどうかなのです。
/岸本 元気
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- 明治図書