- はじめに
- 第T章 集団生活もこわくない!
- ―幼児期に身に付けたいソーシャルスキル
- 1 トラブルが増えるのは,新しい心が発達するから
- 2 ソーシャルスキルってなに?
- 3 「思いやり」はどうやって育てるの?―VLF思いやり育成プログラム―
- 4 VLF思いやり育成プログラムで用いる絵本について
- 5 伝える力,推測する力,解決する力は思いやりにつながる
- 6 VLF思いやり育成プログラムの特徴
- 7 やってみよう!
- 8 プログラム実践の仕方
- 第U章 こんなときどうする?
- ―幼児期に起こりやすい18のトラブルと解決のための指導術
- (がまんの向こうは新しい世界) 「忍耐力のない子ども」へのスキル
- 1 じっと座れない子
- 2 ものを大切にしない子
- 3 思ったことをすぐに言ってしまう子
- (話すって意外と簡単だよ) 「はずかしがりの子ども」へのスキル
- 4 思ったことが言えない子
- 5 人見知りがはげしい子
- 6 友達と遊べない子
- (がんばるって気持ちいい) 「やる気がない子ども」へのスキル
- 7 友達と意見が合わないとすぐにあきらめる子
- 8 いやなことは逃げる子
- 9 一生懸命やることができない子
- (ちょっと立ち止まってまわりを見よう) 「自分勝手な子ども」へのスキル
- 10 決まりが守れない子
- 11 思い通りにいかないと乱暴をする子
- 12 自分の思ったことしかやらない子
- (怒りを抑えることが本当の強さだよ) 「攻撃的な子ども」へのスキル
- 13 友達にいじわるをする子
- 14 友達を助けてあげない子
- 15 友達が傷つくことをする子
- (はじめの一歩を踏み出そう) 「行動力の乏しい子ども」へのスキル
- 16 相手と楽しく遊べない子
- 17 動物の世話をしない子
- 18 引っ込み思案で友達を助けようとしない子
- 第V章 保護者とうまくやっていこう!
- ―保護者と信頼関係を築くスキル&ポイント
- 1 保護者の心理を理解しよう
- (1) タイプ別で見る母親の心理
- (2) 育児に挑戦する父親の心理
- (3) 保護者の相談にのるときの8つのポイント
- 2 保護者と関わるソーシャルスキル
- (1) 保育者の基本スキル
- (2) 保護者や職場の人との関係を維持するソーシャルスキル
- (3) 担任としてのソーシャルスキル
- (4) ソーシャルスキルを支える意欲や態度
- ソーシャルスキルを育てる絵本教材のブックリスト
はじめに
この本は,幼児期の子どもたちの保育にかかわる先生方にとってお役に立つことを願ってまとめました。子どもたちの育ちや笑顔にふれて,楽しさややりがいを感じる毎日だと思いますが,反面,いろいろなトラブルにふりまわされて,どうしたらよいのか戸惑われていることも少なくないのではないでしょうか。
こうした幼児期の子どもたちに起こりやすいトラブルは,実は,子どもたちの心の発達の証でもあります。自分を主張する力が成長するためにトラブルが多くなりますし,言葉が達者になるから言い合いが起こるわけです。つまり,トラブルは,健康な心の発達のバロメーターのようなものです。ただ,子どもたちは,そうしたトラブルを解決する力は未熟です。思いを言葉にたくしてうまく相手に伝えられなかったり,規則があることがわからなかったり,怒りや悲しみをコントロールすることができないでいるわけです。
ですから,こうした未熟な点はよく理解してやって,わかるように教えてあげることが必要なのです。ただ,「やさしくしなよ」「怒っちゃダメ」などと,くどくどと繰り返し怒っても,子どもたちの心にはなかなか届きません。子どもたちの心の中に,何が大事なことか,どのように行動すればよいかといった考えや行動を具体的に伝えていく工夫が必要なのです。
この本では,普段の子どもたちによく見られる18のトラブルをあげて,具体的にどのようにかかわったらよいかについて説明しました。このかかわり方で工夫された点は,「ソーシャルスキルの考え」,「思いやりの心を育む」,「絵本を使う」の三つにあります。
まず,「ソーシャルスキル」の考え方をとることのよさは,性格のせいにしないことです。たとえば,けんかの多い子を見て,つい乱暴な性格の子どもだと思ってしまうことが少なくないと思います。ですが,性格のせいにしてしまうと,子どもにそれが伝わってしまいます。また,先生も無意識のうちに,性格のせいだから仕方がないと教える努力を怠り,悪い面ばかりに目が行きがちになります。それよりもむしろ,ソーシャルスキルがないからできないんだ,と捉えることが大切です。やさしくするという行動が,具体的にどんな言葉かけをしたり,行動をすることなのかを教えたり,モデルを見せたり,やらせてほめたりして丁寧に教えてあげればいいのです。
また,「思いやりの心」を育むために,「絵本」を用いています。思いやるということは,自分と違う人がいることに気付き,自分以外の人のさまざまな立場にたつ力を育てることです。「自分」だけではなく「あなた」の立場に,そして,「彼」「彼女」の立場に,といったように人の気持ちに立てるように導いていくわけです。その際,三つめの特徴である「絵本」がとても効果的です。
子どもたちは,絵本の物語の世界にすぐに入り込むことができます。まるで自分がその世界にいるように生き生きと感じることができます。絵本の中の登場人物がさまざまなトラブルをかかえていると,彼らの心にふれることができるのです。そして,いろいろな登場人物の立場を考えて,どうすればよいのか,どんな行動をとればよいのか,一生懸命に考える機会を経験することができるのです。ただ,先生が読み聞かせるだけではなく,お友達と考えを伝え合ったり,登場人物の気持ちを想像したり,実際にどんな行動をとるかをやってみたり,といったように仮想的な体験を重ねながら,さまざまな人の立場にたつ練習をすることができるわけです。こうしたかかわりをふだんからしておくと,トラブルが起きてもそれを解決し,つぎには予防することのできる力を育てることができるようになります。
本書では,子どもたちに読んでほしい素敵な絵本をできるだけたくさん選びましたが,先生方のお好きな絵本でもぜひ実践していただければと思います。少しでも,先生方の日々の子どもたちとのかかわりにお役に立つことができれば,大変うれしく思います。最後になりましたが,この本の企画から編集まで,とてもあたたかく導いていただいた明治図書の木村悠さんに心から感謝いたします。ありがとうございました。
2009年5月 /渡辺 弥生
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- 明治図書