- まえがき
- 第Ⅰ部 スウェーデンの就学前保育
- 第1章 スウェーデンの就学前保育の様式
- 1 デイケアセンター
- 2 パートタイム・グループ
- 3 オープン・プリスクール
- 4 プリスクール
- 5 ファミリー・デイケア
- 6 レジャータイム・センター
- 第2章 育児休業(暇)制度等
- 第3章 就学前保育の過去の概観
- 1 初期のころ
- 2 1950年代まで
- 3 1960年代,70年代,80年代,の発展期
- 第4章 就学前保育の現状
- 1 現状認識のための基礎知識
- 2 母親の高い就労率
- 3 公立中心の家庭外保育
- 4 公立チャイルドケアの財源
- 5 教育とケアの統合的な保育サービス
- 6 プリスクールでの保育の内容・方法
- 7 デイケアのための国の基準の地方への委譲
- 8 スタッフおよびその訓練
- 9 そのほかの側面
- 第5章 首都ストックホルムのチャイルドケアの実態
- 第Ⅱ部 デンマークの就学前保育
- 第1章 就学前保育の基本構造
- 第1節 就学前保育施設に関する用語
- 第2節 就学前保育の様式
- 1 ナーサリー
- 2 デイケアセンター(幼稚園)
- 3 ファミリー・デイケア
- 4 プリスクール(プリスクール・クラス)
- 5 統合センター
- 6 統合スクール・スタート
- 7 授業時間外ケア
- 8 レジャー・ホーム
- 第3節 就園状況等
- 第4節 デンマークの育児休業(暇)制度
- 第2章 デンマークの概観と,保育の歴史的・社会的現実 69
- 第1節 デンマークの概観
- 第2節 デイケアの具体的環境
- 1 独自の幼稚園理解
- 2 「親委員会」と教員との協力
- 3 母親の高い雇用率とデイケアへのニーズ
- 第3節 デイケアの行政・運営的側面
- 第3章 スタッフの訓練・研究開発・母性支援局の活動
- 1 プリスクール教員の訓練
- 2 就学前児分野での研究開発
- 3 特別なニーズをもつ子どもたちへの提供
- 4 文化的少数者,移民の子どもたちへの支援
- 5 妊娠,出産などでの援助
- 6 養子
- 第Ⅲ部 フィンランドの就学前保育
- ―導入― フィンランドの概観
- 第1章 フィンランドのチャイルド・デイケアの基本構造
- 第1節 幼稚園(チャイルド・デイケアセンター,デイケアセンター,プリスクール・チャイルド・センター)の種類
- 第2節 ファミリー・デイケア
- 第3節 プレイ・アクティヴィティー
- 第4節 幼稚園の一般的性格
- 1 幼稚園の目的
- 2 幼稚園の保育時間など
- 第5節 3歳未満児のケア,特別なニーズ
- 1 3歳未満児へのデイケアの席の保証,もしくはホームケア手当の保証
- 2 特別なニーズをもつ子どものケア
- 第6節 フィンランドの育児休業(暇)と育児手当
- 第2章 チャイルド・デイケアの目的,グルーピングおよびスタッフ
- 第1節 チァイルド・デイケアの統合的な目的
- 第2節 チャイルド・デイケアのグルーピングとスタッフ
- 第3節 スタッフの養成と資格
- 1 幼稚園教員の資格
- 2 三つのタイプのデイケアで求められる資格
- 第3章 チャイルド・デイケアの行政的側面
- 1 婦人の保健クリニックについて
- 2 子どもの保健クリニックについて
- 3 チャイルド・デイケアの普及状況
- 第4章 変化の中の福祉
- 1 急激な社会の変化
- 2 福祉政策の柔軟性の必要性
- 第5章 フィンランドのチャイルドケアの歴史的概観
- 1 先駆的幼稚園
- 2 フィンランドの産業革命から国の独立までのころ
- 3 フィンランドのデイケアの歴史的変遷
- 4 児童福祉中央同盟 (Central Union for Child Welfare)について 116
- 第Ⅳ部 ノルウェーの就学前保育
- 第1章 ノルウェーの概観
- 第1節 国土と歴史の概観
- 第2節 教育の概観
- 第3節 保育施設の歴史の概観
- 第2章 ノルウェーの就学前保育施設
- 第1節 就学前保育施設の全体構造
- 第2節 保育内容の基準としての Framework Plan
- 第3節 ファミリー・デイケア
- 第4節 行政・法規の側面
- 第5節 中央と地方との関係
- 第3章 スタッフィング
- 第1節 プリスクール・ティーチャー
- 第2節 プリスクール・ティーチャーの養成
- 第4章 保育施設の実態
- 第1節 就園状況
- 第2節 保育施設の数,公私立別の施設数と園児の割合
- 第3節 就園率の地域格差,障害児への対応
- 第4節 保育施設への助成
- 第5章 子どものいる家族への包括的な助成
- 第1節 出産・育児休業(暇)制度
- 第2節 時間計算休暇方式
- 第3節 家族手当
- 第4節 現金給付制度,税額控除
- 第5節 これら以外の援助
- あとがきにかえて
まえがき
本書は,スウェーデン,デンマーク,フィンランド,ノルウェーという北欧諸国の就学前保育の実情を明らかにすると共に,わが国が学ぶべき点がどこにあるかを明らかにしようとするものである。これらの国は,現代の代表的な福祉国として知られ,世界の多くの国々に影響を与えている。わが国における就学前保育の研究者や実践家も,これらの国への関心が高い。
これらの北欧諸国は,いずれも北極圏近辺に位置し,気象条件は,特に冬季は,厳しい。この種の共通性をもちながらも,それぞれの国は,よく見ると,その地理的環境の点でも,歴史や産業構造の点でも,それぞれの個性的な遺産ももっている。
このような北欧諸国が,そろって福祉立国と言い得るような方向に大きくかじ舵を切り始めたのは,それほど古いことではなく,むしろ近年のことである。そのような方向に活路を見いだそうとした背景には,上記した共通性と個性的な遺産を基盤にして,これらの諸国が一体となって緊密な情報交換と連携をとりながら,それぞれの国が自らの進むべき方向を探ってきた,と言う事実がある。
高福祉高負担という言葉がある。しかし,高福祉は必ずしも国民に大きな負担を強いるとは言えないかもしれない。例えば,近年の海底油田や天然ガス田の発見は,ノルウェーの福祉政策の遂行の上で大きな役割を果たしている。ほかの北欧福祉国でも,その国なりの特徴が生かされている。
これらの福祉国の現状に対しての,賛否を含めての見方には,さまざまなものがある。高い税金を払った上で,国民はぬるま湯につかったような,福祉に甘えた生活を送っている,といったたぐいの批判や反対論もある。福祉立国が向かうべき方向は,国としての活動力をもっと盛り上げながら福祉の充実を図るべきである,という見方もある。イギリスのブレア労働党政権の掲げるいわゆる「第三の道」は,このような考え方に近い方向での福祉政策をよしとしている。
就学前保育の面でも,もっと広義の福祉政策に関しても,どのような道を選択し,どう切り開いていくかは,結局は,その国の国民が決めることである。わが国の政策についても,世界の多くの国から注目されている北欧諸国の福祉政策から多くのものを学びつつ,ほかの先進欧米諸国のもつ活力や福祉政策にも目を向けながら,わが国の国民の合意の上にその道を切り開いていくべきであろう。
わが国の就学前保育の充実のために,本書が少しでもお役に立つことができるならば,幸せに思う。
2007年4月 /山田 敏
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- 明治図書