- ◯はじめに /セチェイ・ヘルミナ
- ◯本書のために /羽仁 協子
- <なぜ教育者に心理学が必要か>
- T 発達心理学の知識
- 1 運動発達
- 2 感情発達(情緒の発達)
- ―愛着の理論
- ―恐れ
- ―乳児期の感情発達
- 3 社会性の発達
- ―仲間とのかかわり
- ―父親たち
- ―熟達の欲求と自己像―自己意識の発達
- ―保育園での社会化
- ―感情と仲間関係発達のこよみ
- 4 知的発達
- 5 コミュニケーションと言語発達
- ―コミュニケーション(伝達)
- ―非言語的コミュニケーションから言語まで
- ―言葉の発達
- ―コミュニケーションと感情
- ―非言語チャンネル
- 6 乳児の遊び
- U 保母と子どもの関係
- 1 乳児の慣らし保育
- ―慣らし保育とは?
- ―慣らし保育の期間は?
- ―母親に,慣らし保育に参加する時間がないとしたら?
- ―慣らし保育に関して,保母への提案
- 2 担当制と個人的接し方
- ―担当制とは?
- V 育児の心理学
- 1 睡眠と寝かしつけ
- 2 食べる・食べさせる
- 3 オムツ交換・排泄
- W 保母の悩み
- 1 問題をもった子どもへの接し方
- ―何でも口に入れる子
- ―かみつく子
- ―ぶつ子ども
- ―よく泣く子
- ―落ち着きがない,活発すぎる子
- ―引込み思案・消極的な子
- ―話さない子
- ―外国の子ども
- X 教育者の成長と発達
- ・教育者の意識性と自己認識を発達させるための自分でできる練習
- 〈練習T〉 子どもに対して何を感じるか
- 〈練習U〉 活動リスト
- 〈練習V〉 感情面における目的―実行
- 〈練習W〉 夢
- 〈練習X〉 自分の願望との出会い
- 〈練習Y〉 満足感
- 〈練習Z〉 親を見る
- 愛着と個人的接し方の形成に向けての提案
はじめに
自然界や宇宙,そして人間の人生においても,発達は決して止まる事がないと学びましたし,私自身もそれを信じています。人生の最初の3年間がもつ,身体的―心理的―精神的発達の意味については,いまさらいうまでもないことです。
私は,子どもが3歳になるまで育児休暇がもらえた時代のハンガリーで,二人の子どもを産みました。多くの人はなぜ「3歳」なのか知りませんでしたが,この制度は科学的根拠に基づいて作られたものです。人生最初の3年間母親と過ごす事は,信頼感の確立や,情緒的生活の基礎となる生理的・精神的活動が障害のないものとなるためにも大切なものです。後々,ある大人にこだわる事ができるかどうか,フラストレーションへの忍耐度やストレスをどのように解消していくかも,この時期の基礎作りがよく──もしくは──悪く行われたかどうかに影響されます。
にもかかわらず専門家たちは,このもっとも早い時期の出来事をまるでミステリアスに説明しようとします。
働く母親たちは,今も昔も乳児保育に子どもを預けることを余儀なくされています。自己呵責,不安や緊張は,子どもを預けるすべての母親が経験することです。このことによって,預けられる子どもよりも,母親の方が辛かったという話をよく聞きますが,これは本当でしょうか? 母親は感じたことを口で説明できますし,まわりが見て分かるような表現ができますが,母親から離された赤ちゃんや子どもは,自分の感じていることを他人にはっきりと分かるように表現することができません。
私は幸運にも,最初の子どもと1歳半まで家で過ごし,その後ブダペスト十四区のマイバ乳児保育園に預けました。この十四区のモデル園となっている乳児保育園は,よい意味での厳格さがあり,よく考えられたプログラムで,入園後の最初の何か月間の困難な期間をスムーズに過ごせるように援助してくれました。
入園後は,母親と共に時間をかけて慣らし保育をすることで,母親との分離や,新しい環境への適応の援助となりました。担当制は,私の子どもにとっても,私にとっても,ある一人の保母が私の子どもに責任をもってくれているということでも,安心と安定性を感じることができました。
乳児の保育園で過ごしたことは子どもにとって害にはならず,乳児の保育園卒園後も落ちつき,適応能力のある保育園児,小学生,と成長することができたことをここに特筆しておきたいと思います。
十年前,初めて来日した折に,心理学者としてよりも保母さん方と一緒に仕事ができたことは私にとって大きな喜びでした。私の専門家として,そして母親としての経験を心からの喜びと共にみなさんに捧げたいと思います。
/セチェイ・ヘルミナ
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- 明治図書
- 筆者自身のことを例として書いてあったり、わかりやすく書かれていると感じた。2020/5/1350代・幼保教員