- 序章
- 本書を読まれるみなさんへ
- 第1章 子どもの心をつくるためにマルチメディアを使う
- 心をつくるとはどういうことか
- 心がつくられない原因は何か
- 心をつくるためにマルチメディアを使う
- マルチメディアに対する誤った信念
- なぜマルチメディアで心がつくれるのか
- 第2章 親子でマルチメディア
- マルチメディアの普及の状況
- 幼児向けのマルチメディアソフト
- 幼児にほんとうに必要なことは何か
- 「親子マルチメディア教室」の実践から
- 実は保護者の役割が大事
- 保護者の心配はどこにあるか
- 教えるべきは「マルチメディアとのつきあい方」
- 第3章 幼稚園でマルチメディア
- 幼稚園にパソコン?
- 板橋明星幼稚園の実践に学ぶ
- 幼稚園の先生は何が不安か
- 第4章 試行錯誤の導入物語
- 試行錯誤のコンピュータ導入物語
- 「自由な遊びの中で」
- 子どもがすることっておもしろい
- ふたばオリジナルコンピュータ遊び
- 楽しいことは,何でもやろう!
- 第5章 幼児向けマルチメディアソフトの紹介
- 第6章 マルチメディアのしくみ
- マルチメディアってなに?
- 身近なマルチメディア
- パソコンでできること
- パソコンの基本構成
- あると便利な周辺機器
- 本体のしくみ
- ディスプレイのしくみ
- キーボードのしくみ
- マウスのしくみ
- ハードディスクのしくみ
- フロッピーディスクのしくみ
- CD―ROMのしくみ
- 情報量を表す単位
- ソフトウェアってなに?
- ソフトウェアの種類と役割
- インターネットのしくみ
- インターネットでできること
- インターネットをはじめよう
- あとがき
序章
本書を読まれるみなさんへ
――幼児教育は,直接体験こそが大切。
マルチメディアなんて,
幼児にとってもっともふさわしくないものだ。
筆者らは,この考えが間違いであることを,この本の中で一貫して説いています。本書は,このように考えている保育者や保護者の方々に,そのステレオタイプなマルチメディア観を見直していただくために執筆されたと言っても過言ではありません。
もう少し詳しく説明しましょう。
筆者らは,「幼児教育は,直接体験こそが大切である」ことを否定するものではありません。むしろ,大賛成です。
しかし,その後ろの文章,すなわち「マルチメディアなんて,幼児にとってもっともふさわしくないものだ」には,反対の立場をとります。一見,もっともらしい主張のように見えるこの文章には,マルチメディアに対する多くの誤解や無理解が潜んでいるからです。
幼稚園・保育園に必ずある積み木も,時には子どもたちがけがをする原因になります。積み木で囲いを作ってごっこ遊びをすることは望ましい活動ですし,保育の中でよく見られる光景です。しかし,もしも積み木をお友だちに投げつける子どもがいたら,これは大人が止めに入るべき事態です。しかし,その時,「保育の場面に積み木があるからいけないのだ。積み木は保育の場面から無くしてしまおう」という判断をするでしょうか。
マルチメディアに対する誤解は,この話で言えば積み木と同じです。どんな道具でも,使い方を間違えば,危険がともなってしまいます。だからこそ,そばにいる保育者や保護者が,危険な状況にならないように,子どもたちを見守り,支援し,ときには叱ります。そして,子どもたち自身に,道具の間違った使い方をしないことを教育していくのです。
マルチメディアも道具の1つです。もし子どもたちにとって,マルチメディアが望ましくない結果を与えるとしたら,それは使い方が誤っているのです。道具そのものが悪いと決めつけてはいけません。積み木が悪いわけではないのと同じです。道具は使い方次第で,子どもたちの創造性を伸ばし,他者との望ましい関わりのための経験につながります。積み木がそうであるように,マルチメディアも同じ可能性を持っています。マルチメディアの望ましい使い方を子どもたちに教育することは,積み木の時と同じように,むしろ大人の仕事です。子どもたちがマルチメディアとのつきあい方を学んでいくように,そばにいる大人が支援していかなければならないのです。
筆者らがこの本で伝えたいことは,このようにマルチメディアも道具の1つに過ぎないのだ,だから要は使い方次第なのだという考え方です。ステレオタイプなマルチメディア観を見直していただくことです。
幼児教育の歴史の中に,マルチメディアはこれまで存在しませんでした。その意味では,マルチメディアは時代の象徴であるとも言えます。しかし,これからの時代は,マルチメディア環境の中で,子どもたちは育ち,学び,そして生き抜いていかなければなりません。この事実を正面から受け止めたとき,私たち大人が,マルチメディアを子どもたちの周りから排除するような単純な対応をするだけでよいのでしょうか。私たち自身が十分にマルチメディアを理解することなしに,これまで存在しなかったという理由だけで,これは保育に望ましくないものだと簡単に決めつけてしまってよいのでしょうか。
しかし,筆者らは,幼稚園・保育園でマルチメディアを活用すべきであると説いているわけでもありません。筆者らは研究者であり,マルチメディア販売を促進する立場ではありませんから。矛盾するようですが,筆者らが伝えたいのは,マルチメディアに対しての正しい理解と幼児への影響であり,幼児への望ましい出会わせ方です。保育の現場で活用するかどうかはあくまで幼稚園・保育園の経営方針の問題です。繰り返しますが,まだ使っていないのに望ましくないと決めつけているケースが少なからず見られることに対する筆者らなりの批判であり,使ってみて正しくマルチメディアを理解してほしいという願いを伝えたいだけなのです。
本書は,3人の研究者と,2人の大学院生によって執筆されています。第1章は,向後が,読者のステレオタイプな考え方にメスを入れるつもりで書きました。第2章,第3章は,堀田が実際に関わったプロジェクト等の中から,現実に即して書きました。第4章は,研究者でありながら実際に保育の現場に立ち日夜実践をしている小川が,その毎日の取り組みの中から考えをまとめています。第5章は潟辺が,第6章は浦崎が,できるだけ多くの人に「マルチメディアとは何か」ということが伝わるように書きました。
本書で,保育者や保護者の方々にとって,マルチメディアが一歩だけでも身近なものになっていただけば,これにかわる喜びはありません。
最後になりましたが,私どもに本書の執筆を勧めてくださった富山大学教育学部の竹井史助教授に感謝します。また日学科学技術振興記念財団の菊地さん,假谷さんには,筆者らが先進園を視察する際にお手伝いいただきました。東京都板橋明星幼稚園の松岡理事長と橋本園長には,新しい時代を見据えた幼稚園経営のビジョンを教えていただきました。さらに,本書を著すにあたってご協力いただいた川崎ふたば幼稚園の諸先生方,富山大学教育学部附属幼稚園の保護者のみなさまに厚く御礼申し上げます。
1998年9月 著者を代表して /堀田 龍也
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- 明治図書