- まえがき
- T 新しい幼稚園の運動会の楽しみ方
- 行事としての運動会を考える
- 1 子どもの発達の場としての運動会
- ○運動会は総合的な発達を見せたい!/ ○運動会は発達の節目になる/ ○仲間づくりに運動会を活用する
- 2 親子で楽しいひとときを過ごす場としての運動会
- ○子どもの喜ぶ姿を知る 園との一体感をかもし出す
- 3 地域の中に園が位置づくきっかけとしての運動会
- ○園からの発信をどこに向けるか 地域社会の教育資源の活用
- U 子どもと共につくりあげる運動会
- 1 幼児主体の運動会―運動会までの「過程」を大切に―
- ぼくたちの運動会をしよう/ リレーって棒持って走るんでしょ/ 力の調整と仲間意識を…/ そして保護者も一緒になって/ 小学校の運動会に招待されて/ 応援歌やポスターを作る/ この役、ぼくやりたい!/ 創作リズム/ 運動会が終わって
- 2 だるまはこび(年長組)―伝統的な種目がもつ今日的な意味―
- リレーの理解/ 2人組でリレーをする/ チームの一員としての個人
- 3 テーマは「夢と冒険」―劇場のような環境で運動会を―
- テーマを設けた運動会の主旨/ テーマの模索/ 「夢と冒険」となったきっかけ/ 夢や冒険から生まれる活発な運動的活動/ 夢や冒険を想像したりつくったりを楽しむ/ 会場の設定/ 街も会場にしよう
- 4 運動会(年長組)―子どもの生活の流れの中に位置づけて―
- 運動会をする意味を問い直す イメージを出し合い話し合う/ 試行錯誤の過程を大切にする 日常の遊びを競技や演技に演出する/ 見通しのある計画を立て進める 運動会の醍醐味を共に味わう
- 5 運動会が終わって―保育に位置づけて―
- 5歳児・やり遂げた満足感がエネルギーとなって/ 4歳児・あれおもしろかったね/ 3歳児・今日も運動会やろうよ/ 3歳児運動会後の子どもの姿/ みんなで遊ぶ楽しさを味わって/ 自分なりにイメージをわかせて/ 大きい組さんから刺激をうけて/ 4歳児運動会後の子どもの姿/ 体を動かして遊ぶことを楽しんで/ 新しい友達とのつながりが生まれて/ はりきって生活する姿へ
- 6 運動会から、体育発表会へ―年間の子どもの挑戦を発表―
- きっかけのひとつとして/ その日の午後のミーティングのとき/ 日常の姿から/ プログラム編成にあたって/ 体育発表会を前にしての保護者への説明文/ 当日のプログラムとその説明/ その後の子どもたちに変化が/ おうちの方からの反応から
- 7 テーマをもった運動会―「おはなしのくに」から―
- テーマが決まって/ テーマを盛り上げるための演出/ 絵本の登場/ トンネルをくぐると/ いってきまーす!/ プログラムのポイント/ 工夫した内容/ ただいまー!
- 8 先生が笛を使わない運動会―日常の保育の延長線上にある運動会―
- 運動会開催のわけ/ 保育としての運動会/ 昨年度の運動会の経緯/ 年長組プログラムの様子
- 9 就園前の幼児と一緒の運動会―2・3歳児クラスの特色と配慮―
- 2歳児クラス(満3歳児)の特色/ 運動会のねらい/ 特に配慮すべきこと/ 実際の計画/ 運動会後の広がり/ 実際の種目の例
まえがき
運動会は,親も子どももそれぞれの思い入れがあって楽しく待たれるハレの日で,当日に向けて期待をふくらませていきます。
幼稚園では,運動会を一つの節目として集団意識や運動能力の育ちが期待されるので,年間指導計画に位置付けて独自のプログラムを作成します。その過程で,「子ども主体で活動するさま」や「一人ひとりが自信にあふれて表現しているさま」に成長の手ごたえを感じ,保育するものの喜びを得て,先生自身も運動会そのものを楽しみます。親と子どもと先生と地域をつつみこんで,ハレの日,運動会を待ちわび期待感と充実感に満たされていきます。
運動会の内容は,子どもとともに考えてプランニングされていきますが,その基底になっているのは,その園の教育観・発達観・幼児観の具現化だと思います。つまり,その園の運動会を見ればその園の教育的意図や方法は明確に見えるといわれるゆえんなのです。
さて運動会というと,頭に浮かぶのは万国旗・入退場門・かけっこの賞・つな引き・紅白の玉入れなどの定番種目やその日の会場の祭りの雰囲気です。この是非をめぐって話題はつきません。運動会が,どのようにして今の運動会に受け継がれてきたのかを調べているうちに,運動会に対する先人の思いが多少推測でき,今の運動会を再考する貴重な資料になると考えました。以下に概要をまとめました。
*運動会の起源は,明治7年,海軍兵学校で英国人教師の指導で実施されたものが始まりといわれます。また,兵式体操を重視する明治の政策と民族的に深く根をおろした伝統的な遊戯と祭りをとりこんで形成されたという説もあります。
*運動会を学校行事として取り入れて今の運動会の原型になったのは,明治18年初代の文部大臣の森有礼が,
・学校における集団性の訓練
・児童・生徒の体位の向上
を目的として,体操と運動会を強く奨励したことに始まるとあります。
これは地域社会と結びついて町ぐるみで行い,レクリエーション的・ショー的側面をもっていたといい,「教師が教えてまとめる画一的な行事」として定着していきました。
*幼稚園では,創立初期の段階ではほとんど行われていなかったようです。幼稚園には運動会は必要ないという説が大勢をしめていたようです。大正末期から昭和初期になって,他の学校に園児が「かわいいお客様」として招待され簡単な遊戯や競技をした程度を運動会と称していたそうです。全幼稚園の3分の1程度しか実施していなかったようです。
幼稚園の運動会の始まりは,遠足と運動遊びを合わせた「郊外保育」を運動会と称していたようです。ですから,特別の日,ハレの日ではなく,日常的な保育の中に位置づいていたとあります。その理由として,次のようなことが考えられています。
・園庭がせまく,見る人・演ずる人を入れられない。
・人数が少なく,年齢も低いのでそのころの小学校のように地域をまきこんで,夢中で応援するというような盛り上がりに欠ける。
・そのころの幼児観・発達観からみて,運動会は幼稚園では必要がないという考え方すなわち,「幼児は運動会そのものを要求しているのでも,勝敗を楽しもうとしているのでもない。幼児の要求は,運動会の模倣をしてただ遊びたい,あの雰囲気の中で集団的に遊びたいのである」というのです。つまり,小学校の体育の一環としての意味あいが強い,競争的な運動会に幼児を参加させることに批判の目を向けていたということです。この考え方は,終戦のころまで幼稚園界には受け継がれてきました。
・明治20年ころのプログラムには,行進,遊戯,昭和初期の記録には,つな引き・障害物競走・遊戯・バスケットボール・リレー・唱歌があり,昭和10年代には,唱歌・体操・つな引き・玉入れ・栗ひろいなどがあげられています。
(参考・「わが国の幼稚園における運動会の起源について」柴崎正行・田代和美氏)
運動会は,戸外で行う体育的な保育活動を中心にした園行事ということができます。
本書では,毎年繰り返されることでマンネリ化したり,安易になる運動会について,独自性,伝統などを今日的課題として再検討してみることを試みようとしています。
また,その園の教育的意義の視点で定番の内容,種目・方法を見直して新しい運動会のあり方を模索したいと考えました。その過程で,定番の種目や運営のあり方に今日的なよさを見いだし,定番の意義を明確にしたいとも試みました。
運動会の方法には,できるだけバラエティーに富んだ実践例を提案していますが,基底には「子ども中心の運動会」で共通性をもたせています。
新しい運動会に向けての本書が読者の皆様の賛同を得たり,批判を得たりしてさらによいものになることを願っています。ぜひご助言をいただきたいと思います。
最後に,幼稚園の行事のあり方に問題提起いただきました編集部の仁井田康義氏に対してお礼を申しあげます。
2002年7月 編著者代表 /井上 初代
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- 明治図書