- まえがき
- T 中学校数学における「わかる」とは?
- 1 「わかる」という言葉
- 2 「理解」という言葉
- 3 「わかる」ことと「できる」こと
- 4 発達段階からみた「わかる」と「できる」の関係
- 5 「わかる」授業の要素
- 6 「わかる」授業への誤解
- コラム@ 「メタ認知」からみた「わかる」
- U 「わかる」授業をデザインするための3つのストラテジー
- 1 わからせる対象の明確化
- 2 わからせるための工夫
- 3 わかったことの確認
- コラムA 「意味理解」と「手続き理解」
- V 「わかる」授業をデザインするためのチェックリスト
- 1 評価者が生徒の場合
- 2 評価者が教諭等の場合
- コラムB ワークシートの活用
- W 3つのストラテジーを踏まえた「わかる」授業をつくるための教材研究&授業デザイン
- 1. 「数と式」領域
- (1)「数と式」領域の「わかる」とは?
- (2)「数と式」領域の実践事例
- 1 文字の式
- 2 一次方程式
- 3 連立二元一次方程式
- 4 平方根
- 5 二次方程式
- コラムC 「ねらい」と「発問」
- 2. 「図形」領域
- (1)「図形」領域の「わかる」とは?
- (2)「図形」領域の実践事例
- 1 平行線と面積
- 2 図形の性質と合同
- 3 平行線と線分の比の性質の活用
- 4 三平方の定理
- 5 中高連携から探る「わかる」授業:三角比(数学T)
- コラムD なぜ「数学的活動を通して…」なのか
- 3. 「関数」領域
- (1)「関数」領域の「わかる」とは?
- (2)「関数」領域の実践事例
- 1 比例と反比例
- 2 一次関数と連立方程式
- 3 いろいろな関数
- 4 中高連携から探る「わかる」授業:関数 y=ax2
- コラムE 生徒が「問い」をもち,「わかる」数学の授業を
- 4. 「資料の活用」領域
- (1)「資料の活用」領域の「わかる」とは?
- (2)「資料の活用」領域の実践事例
- 1 資料の活用
- 2 資料の散らばりと代表値
- 3 独立試行の確率
- 4 中高連携から探る「わかる」授業:データの分析
- あとがき
まえがき
「よい」授業という言葉は,これまでにも多用されてきましたが,そのように判断する視点は,「授業内容」「授業方法」「生徒の学習状況」など様々に考えることができます。しかも,「よい」授業であったかどうかの判定は,授業観察者自身がその定義を明確にして判定すればよいということでもあります。
これに対して,「わかる」授業という言葉は,生徒が「何を」「どのように」わかった授業であったのかということが問われ,その判断は,「生徒の学習状況」によってのみ行われます。この意味で,授業者にとって,「わかる」授業は「よい」授業のデザインよりも難しい課題と言えます。
「わかる」授業という言葉が行政機関ではじめて用いられたのは,個に応じた指導を展開する中で,「わかる」授業の構築を求めた平成15年の中央教育審議会答申です。
数学教育において「わかる」を「理解」ととらえると,「理解論争期」があったと言われるほど,その研究は盛んに行われてきました。ただ,その研究の多くは,人が理解をするということはどういうことなのかを理解のモデルに沿って考察するもので,実践的な場面で「理解」を促す指導のあり方を直接的に研究対象としているわけではありません。
このようなことから,本書では,実践的な側面から「わかる」授業をデザインするための3つのストラテジーとして,「わからせる対象の明確化」「わからせるための工夫」「わかったことの確認」を明確にし,実践例をまとめました。
この3つのストラテジーは決して新しい提案ではありません。しかし,実際には,「わかるように指導はしている」が,「生徒がわかったかどうかは確認できていない」というような授業になっていたり,「わかる」ことよりも「できる」ことの評価に重きが置かれたりしているのも事実です。
授業設計者がこの3つのストラテジーを十分に意識することが「わかる」授業のデザインにつながると考えており,本書が,各学校現場で「わかる」数学の授業のデザインに向けた取り組みを進める上で参考となれば幸甚です。
なお本書は,平成19〜21年度に筆者が研究代表者として行った,「わかる数学の授業を構築するための基礎研究〜小中高接続の重点化を通して〜」(科学研究費補助金・基盤研究(A),課題番号19203037)の内容を基に,より実践的な資料として作成したものです。
最後になりましたが,本書の作成に当たりまして,執筆者各位には,多大のご協力をいただきました。また,明治図書の矢口郁雄氏には,本書の構成や記述等について細部にわたりご支援をいただきました。みなさま方に深く心より感謝申し上げます。
平成23年8月 /吉田 明史
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- 明治図書
- 教材研究の視点を示しており、教師の指導力とくに発問力と作問力を高めることができる。2015/10/1930代・中学校教員