- はじめに
- 第1章 「感性」は表現教育の源
- コミュニケーションとしての表現
- 1 表出と表現
- 2 感覚と感性
- 3 表現と感性の関わり
- 第2章 人物からせまる!「感性」の教育史
- 現代の教育課題と感性教育の系譜
- 1 ルソー ―感覚刺激が子どもを育む―
- 2 フレーベル ―感覚の教育から「生の合一」へ―
- 3 シュタイナー ―魂と身体の成長をめざす―
- 4 チゼック ―子どもの新たな発見―
- 5 ダルクローズ ―リトミックの考案者―
- 6 モンテッソーリ ―自立した子どもを育てる―
- 7 コダーイ ―歌うことの本質を子ども達に―
- 8 オルフ ―エレメンターレ・ムジークの重視―
- 9 バウハウス ―精神と身体の全体に呼応した造形をめざして―
- 10 シェーファー ―サウンドスケープ理論の提唱者―
- 11 レッジョ・エミリアの幼児教育 ―子どもの輝く未来を育てる―
- 〈資料〉年譜
- 〈コラム〉表現を語源から考える
- 第3章 発達段階別 子どもの表現力の変化
- 発達とは
- 〈資料〉子どもの発達段階表 ―「0〜2歳」および「2〜8歳」―
- 1 表現のはじまり ―母子のコミュニケーション―
- 2 赤ちゃんの音声 ―喃語から日本語へ―
- 〈コラム〉声の衛生,声の環境
- 3 ことばと歌の関係
- 4 「つくりうた」から「わらべうた」へ ―でたらめなのにでたらめでない―
- 5 声と動きのリズミカルな関わり@ ―0〜2歳頃まで―
- 6 声と動きのリズミカルな関わりA ―2歳頃から―
- 7 造形表現の発達@ ―子どもの発達段階と描画―
- 8 造形表現の発達A ―なぐり描きから目と手の運動へ―
- 9 造形表現の発達B ―空間の再現―
- 10 造形表現の発達C ―写実の表現へ―
- 第4章 領域「表現」の最新情報
- 領域「表現」がめざすもの ―3つのねらいから―
- 1 幼稚園教育要領
- 2 保育所保育指針
- 〈資料〉幼稚園教育要領と保育所保育指針 ―領域「表現」対照表―
- 〈コラム〉「表現を育む人」になる ―造形の視点から―
- 第5章 「感性」をひらく!とっておきエクササイズ31
- 感性をひらいてむすぶ ―本章の実践はどのようなことを意味するのか―
- 1.身体感覚をひらくエクササイズ
- (1) 自分の身体の存在を知る
- 1 呼吸に母音をのせる
- 2 呼吸を使ったコミュニケーション
- 3 声のいろいろ ―まねっこしてみよう―
- 4 声の表現 ―ささやき声…,届く声―
- 5 ボディ・パーカッション
- (2) 耳を澄ます,目を凝らす
- 6 環境を聴く ―音日記をつけてみよう―
- 7 目を閉じて歩く・走る ―見えないものを見てみよう―
- 8 ものと出会う ―身の回りのものをあらためて観察してみよう―
- 9 距離を見る ―見えなくなるまで,聞こえなくなるまで離れてみよう―
- (3) 肌で感じる
- 10 手で触れる ―「手触りあそび」で指先の感覚を楽しむ―
- 11 触れて,視る ―見えないものを触って視てみよう―
- 12 音に触れる
- 13 風に触れる
- (4) 場所を感じる
- 14 物を置く,場所と出会う ―物を持って出かけよう―
- 15 空間を身体で測る ―自分たちの身体で空間の大きさを確かめよう―
- 16 光の色で場所をつくる ―光の色を空間に満たそう―
- 17 場所を生み出す ―作業を重ねて場所に働きかけよう―
- 2.五感をむすぶエクササイズ
- 18 音環境を描く ―キャンパスの音環境を描こう―
- 19 リズムや旋律を描く ―楽器の音を描こう―
- 20 音具で曲をつくり,図形楽譜に表す
- 21 音楽を動きで表す
- 22 オノマトペ(擬音語・擬態語)の動きを感じる ―声と身体とリズム―
- 23 オノマトペ(擬音語・擬態語)を描く ―声と動きと色彩と―
- 24 絵本の中の音,色,形を楽しむ
- 〈コラム〉発音と絵本
- 〈コラム〉「行って帰る」遊びの原型と絵本
- 25 絵本で音あそび
- 〈資料〉五感をむすぶ絵本リスト
- 26 声の伝達,声の遠近感覚
- 27 声で空間を感じて表現する
- 28 動きで空間を感じる
- 29 闇を感じる/光を感じる ―闇や光そのものを体験しよう―
- 30 五感を働かせて鑑賞する@ ―絵を見て音を感じる,匂いを感じる,質感を感じる―
- 31 五感を働かせて鑑賞するA ―音を聴いて色を感じる,形を感じる,空間を感じる―
- 〈コラム〉 方言とわらべうた ―話すことばと歌うことば―
- 第6章 事例でチェック!感性を育む環境づくり
- 子どもの感性と表現が育つ環境
- 1 人的環境
- 2 物的環境
- 3 自然環境
- 4 地域環境
- 5 人的環境としての保育者の存在
- 6 地域をコーディネート
- 7 五感を通して感じる保育の展開
- 8 感性を育む指導計画
- 9 保育者養成校とのかかわり
- 第7章 実物公開!「表現教育」の指導計画&評価
- 育ちあう評価
- 1.表現教育の目標と評価
- 1 目標と評価の観点
- 2 感性を育む指導計画と評価
- 3 評価の方法
- 2.円滑な幼小連携のために
- 4 発達の連続性に支えられた表現教育
- 5 図画工作科・音楽科・国語科における関連的な指導
- 6 表現教育と学級経営
- 7 学びの系統性
- 〈資料〉保育指導案の書き方と実例
- 〈資料〉参考文献一覧
はじめに
表現することは人間にとって躍々たる命の営みそのものであり,まさにこの今に生きている証ともいえます。長い一生の基礎となる乳幼児期に,様々なものや人や環境に出会う中で,その面白さや不思議さ,美しさに気づき,心揺り動かされたことを自分自身の素朴な表し方で具現化し,それが他者に受け止められ,理解されることの喜びや充足感がその後の人生の生きる自信や力となってゆくのです。
かけがえのない乳幼児期の育ちに関わる保育者や保育を学ぶ学生は,子どもが日常の生活の中で気づいたり感じたりする感覚や心を耕しながら,表す喜びを体験することで豊かな感性を育んでいけるように手助けをする役割と責任を担っています。
そのために保育者は,どのような資質や能力を身につけて,どのように子どもの成長に関わっていかなくてはならないのでしょうか。
本書では,子どもにとって表現するとはどのような意味があるのか,また感覚や感性の育ちとどのように関わっているのかを子どもの発達や教育の歴史から考えるとともに,現在の幼児教育の現場で模索されている表現教育の実践を具体的に紹介しています。そしてそれが,小学校教育にどのようにつながっていくのかも,見通しをもてるようにしました。
何よりも特徴であると考えているのは,総合的で未分化な子どもの表現を受け止めることのできるような学生自身の感覚や感性をひらいてゆく方法を,従来の音楽教育や造形教育の領域の枠を超えた体験的学びのプログラム(=エクササイズ)として提案していることです。これまで普通教育の教科の枠組みのなかで勉強してきた皆さんは,はじめは「これが勉強なの?」と戸惑われるかもしれません。そう,本書のプログラムは「勉強」ではありません。一人ひとりの異なる「能動的で意識的な体験」なのです。これらは,今後まだまだ研究され開発されなくてはならない領野ですが,あげているエクササイズを一通り体験するだけでも,自身の生活の中でのものの見え方や聴こえ方,感じ方,ひいては思考の方法が少しずつ変化してきたことに気づかれるでしょう。するとこれまで意味のない悪戯や困った行動としてしか映らなかった子どもの姿から,身の回りの世界に能動的に働きかけて感受し,表している様子を発見することと思います。そこからきっと保育者のあるべき援助の姿も見えてきます。
さあ,期待と自信をもって自分自身の表現に取り組んでください。
/編者一同
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