- はじめに
- 1 障害児のための学習支援と教材の活用
- 1.重度・重複障害児の行動の自発と初期学習
- 姿勢/感覚と運動/体の部分の役割/机座位の維持
- 2.盲児の初期学習と点字の基礎学習
- 移動・歩行の学習/手の使い方の学習/点字の基礎学習
- 3.知的障害児・自閉症児のための基礎学習
- 初期学習/概念行動形成の学習/記号を操作するための基礎学習
- 2 教育実践事例
- ◆実践事例1 重度・重複障害児の行動の自発と初期学習
- 体を起こすこと
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導仮説
- 4.学習の経過
- 小学部5年〜6年の2年間の学習/中学部1年時の学習
- 5.まとめ
- 体を起こすこと/口の役割/日常生活
- ◆実践事例2 盲児の初期学習
- 歩行の学習/手の使い方の学習/属性の学習/形の学習/点字導入の学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導の経過
- 探索・移動学習(2歳〜3歳)/玄関から教室までの単独移動/課題学習(2歳〜3歳)/課題学習(4歳〜小学部1年)
- 4.現在の学習の様子
- 5.まとめ
- ◆実践事例3 自閉症児の初期学習
- 目と手の使い方の学習/位置・方向・順序の学習/図形の分解と組み立ての学習/単語の構成の学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導仮説
- 4.学習経過
- 目と手の使い方の学習(スライド取っ手抜きの学習)/位置・方向・順序の学習/図形の分解と組み立ての学習/単語の構成の学習
- 5.まとめ
- ◆実践事例4 肢体不自由を伴う知的障害児の初期学習
- 手や目の使い方の学習/形の分類学習/順序の学習/数タイルの見本合わせの学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.学習開始時の様子
- 4.指導仮説
- 5.学習の経過
- スライド型はめの学習/形の学習/見本合わせの学習/順序の学習/数タイルの学習
- 6.まとめ
- 「同じ・違う」の発見/目や手の使い方/日常生活
- ◆実践事例5 自閉症児の国語・算数の学習@
- 形の分類学習/ひらがなの学習/数系列の学習/数の見本合わせの学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- ペグさしの学習/図形の弁別の学習/図形の構成学習/色,形,具体物の分類学習/棒さしの学習/点結びの学習と図形を描く学習
- 3.指導仮説
- 4.学習の経過
- 形や単語の分類学習/ひらがなの学習/数の学習/1〜10の数系列/数の見本合わせ
- 5.まとめ
- ◆実践事例6 自閉症児の国語・算数の学習A
- ひらがなの学習/書字の学習/数の合成・分解の学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導仮説
- 4.学習の経過
- ひらがなの学習/数の学習
- 5.まとめ
- ◆実践事例7 ダウン症児の国語・算数の学習
- 属性の学習/助詞「の」の学習/ひらがなの構成の学習/文の構成の学習/10までの数の学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導仮説
- 4.国語の学習(平成13年4月〜平成15年3月)
- 形の学習/実物と単語カードの結合の学習/単語カードを見て動作する/助詞「の」を含む文の構成/属性の学習/単語の構成・分解/文字を書く学習/文字のなぞり書き/見本を見て文字を書く学習
- 5.算数の学習(平成13年4月〜平成15年3月)
- 数系列の学習(1〜5)/数の見本合わせ(1〜5)/1〜10の数系列の学習/5の合成・分解/数字を見て具体物を並べる
- 6.まとめ
- ◆実践事例8 軽度知的障害児の算数の学習
- 足し算・引き算の学習/タイルそろばんの学習/繰り上がりの学習/文章題の学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導仮説
- 4.足し算の学習
- 5.20までの数の構成
- 6.10までの数の合成・分解
- 7.数系列を使用した足し算・引き算
- 10までの足し算(数系列を使用)/10までの引き算(数系列を使用)
- 8.同筒ブロックを使用した引き算
- 9.バラタイルを使用した引き算
- 10.確かめ算の発見
- 11.繰り上がりの足し算
- 繰り上がりの足し算の学習(タイルを使用)/タイルそろばんの学習/10を作る足し算/繰り上がりの学習(10の固まりを自分で作る)
- 12.文章題
- 文章題(足し算)/文章題(引き算)/合併・増加・求補・求差の問題
- 13.10までの数の足し算・引き算
- 14.国語の学習の様子
- ◆実践事例9 自閉傾向児の国語・算数の学習
- 文の構成の学習/助詞の学習/足し算・引き算の学習/文章題の学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導仮説
- 4.学習の経過
- 国語の学習/算数の学習
- 5.まとめ
- ◆実践事例10 肢体不自由を伴う病弱児の国語の学習
- なぞり書きの学習/単語の構成の学習/短文の構成の学習/助詞の学習
- 1.指導のポイント
- 2.事例紹介
- 3.指導仮説
- 4.学習の経過
- 文字のなぞり書き/見本を見ながらの模倣書き(その1)/見本を見ながらの模倣書き(その2〜鏡文字について〜)/模倣書きによる単語及び文章構成/指導者の質問に答える形での文章構成
- 5.まとめ
- おわりに
はじめに
養護学校の義務制により,すべての障害児が教育をうける機会を得られたのが1979年。養護学校には訪問教育部ができ,それまで就学猶予免除となっていた重い障害を持つ子どもたちが初めて学校教育を受けられるようになりました。教員になったばかりの私が初めて訪問教育の現場に立ったのが,その数年後,重い障害を持つ子どもたちの学習の在り方を教員が手探りで模索していた頃でした。
私が初めて担当をした子どもたちの中にKさんがいました。寝たきりの重い障害がありましたが,表情は豊かで目が合うと笑顔がこぼれ,いろいろなものを目で追うこともできました。しかし,Kさんの両手はいつも胸のあたりで握りしめられたまま,決して手でものに触ろうとはしません。こんなにものを興味深げに見つめるのに,なぜ,触ったり,手を使ったりしないのだろう,というのがKさんとの学習の出発点でした。試行錯誤の関わり合いが続きました。スイッチを押すとライトが点くとか,ふたを手で払うと何かが見えるとか,様々な教材を作ってはKさんに働きかけました。そして,どうにもならないとあきらめかけていたある日,Kさんは初めて見つめていたものに自分の力で手を伸ばし触れてみるという行動を起こしたのです。寝たきりの重い障害を持つ子どもが自分の力ではじめて行動を起こしていくという場面に出会い,私は感動すると同時に,教育,人間の持つ可能性,個々の存在の大きさというものを深く感じさせられました。それから四半世紀が経過し,各地で様々な実践が積み重ねられ,そして,今,それらを基に特別支援教育という新しい枠組みが始まろうとしています。特別支援教育への移行は義務制施行以来の大きな転換点であり,これまでの特殊教育の中身を検証することにもなると思うのです。
本書には,知的障害養護学校,肢体不自由養護学校,盲学校での日々の授業の中から初期の学習,ことば・文字・数の基礎学習に焦点を当てた事例が収められています。障害の状況は様々であれ,子どもたちの自発から学習が始まる,学習は本来楽しいものである,という共通点があります。一人ひとりの子どもたちとのやり取りとその行動の背景にあるものを考察し,そこで得られたものをこれからに生かしていきたいと考えています。
子どもたちとの関わりの中から得られる感動や生き生きとした姿は,その場に立ち会ったものにしかわからないかもしれない,文章だけでは伝えきれない,というもどかしさも感じながら,できるだけ多くの方々と共有したい,ご意見をいただきたいという思いで本書をまとめました。これからの特別支援教育に向けて,日々の実践を通して,その中身を問い掛けていきたいと思います。なお,事例について,保護者の方々のご了解を得て,一部,実名を使わせていただきました。様々なことを教えてくれた子どもたちに感謝の意を表したいと思います。
平成19年1月 /間野 明美
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- 明治図書