- 本書に寄せて
- はじめに
- 第1章 校内支援体制のつくり方
- 1 幼稚園における園内支援体制のつくり方
- 1 園内委員会の設置,特別支援教育コーディネーターの指名
- 2 個別の指導計画の作成状況
- 3 巡回相談員及び専門家チームの活用状況
- 4 成果と課題
- 2 小学校における配慮の必要な子たちをチームで支える取り組み
- 1 B小学校の基本姿勢
- 2 この5年間,試行錯誤しながらできてきた体制
- 3 B小学校の工夫
- 3 中学校における校内支援体制づくり
- 1 なぜ体制が必要か?
- 2 個別の指導計画を生きたものにするPDCAサイクル
- 3 リソースルームの利用
- 4 他機関との連携
- 4 高等学校における校内支援体制づくり
- 1 校内委員会の設置,特別支援教育コーディネーターの指名の状況
- 2 個別の指導計画の作成及び個別の教育支援計画の策定状況
- 3 巡回相談員及び専門家チームの活用状況
- 4 校内委員会を中心とした取り組みの流れ
- 5 成果
- 6 課題
- 第2章 実態把握の方策
- 1 専門機関での実態把握の実際
- [こうべ学びの支援センター編]
- 実態把握の実際
- [通級指導教室編]
- 相談受付/教育相談場面/子どもの観察・検査/前述の情報を元に,アセスメント用紙に整理する
- [特別支援学級編]
- 担任の気づきを助ける/入学式の日から/入学直後の学校生活の中で/授業の中で/他の学年の授業で/保護者への啓発/特別支援学級の弾力的な運用
- 2 通常の学級における実態把握
- [教室でできるアセスメント編]
- 教室で見られる行動の観察ポイント/教師の気づきと巡回相談による気づき
- [教室で見られるソフトサイン編]
- ソフトサインとは/感覚統合とは/教室で見られるソフトサインと臨床観察
- [実態把握のモデル編]
- チェックシートとは
- 3 個別の指導計画の実際
- 1 個別の指導計画とは
- 2 なぜ,つくるのか
- 第3章 専門機関(家)との連携
- 1 こうべ学びの支援センターとの連携
- 1 相談,アセスメント,医療教育相談,巡回相談のシステム
- 2 連携の実際
- 大学との連携(小学校3年生男子:LD・アスペルガー症候群)/福祉との連携・再アセスメントのケース(小学校4年生男子:高機能自閉症)
- 2 特別支援学校との連携
- 1 教育相談,巡回相談のシステム
- 神戸市の特別支援学校/相談システムの流れ
- 2 連携の実際
- 特別支援学級との連携/通常の学級との連携/連携の効果/今後の課題
- 3 通級指導教室との連携
- 1 教育相談,通級指導までのシステム
- 設置されている通級指導教室について/申し込みについて/教育相談の流れ
- 4 通級指導教室の指導の実際
- [きこえとことばの教室 幼稚園編]
- 神戸市の現状/教育相談の内容から見えてくること/特別支援の流れの中で,変化しつつある「気になる子ども」への支援のあり方/コミュニケーション段階に合わせたことばの指導/まとめと今後の課題
- [きこえとことばの教室 小学校編]
- まとめと今後の課題
- [情緒障害通級指導教室 小学校編]
- 指導の形態及び内容/今後の課題
- [情緒障害通級指導教室 中学校編]
- 中学生への指導の実際/今後の課題
- 5 通級指導教室との連携の実際
- [幼稚園編]
- 自園との連携/私立幼稚園との連携/保育所(園)との連携/小学校との連携/まとめと今後の課題
- [小学校編]
- 自校との連携/在籍校との連携/中学校との連携/関係機関との連携/まとめと今後の課題
- [中学校編]
- こうべ学びの支援センターからの紹介事例/在籍校からの相談事例/関係機関(子ども家庭センター)からの紹介事例/通級生徒の保護者からの紹介事例/自校支援と今後の課題
- 6 大学との連携
- [連携のシステム]
- 派遣対象/目的/教員補助者の役割と具体的活動/成果と課題
- [巡回相談の実際]
- 巡回相談による小・中学校との連携/教員補助者と小・中学校の連携/小・中学校と大学との連携による支援の実際
- [教員補助者との連携]
- A校の取り組み/巡回相談/連携を進めるうえで大切なこと
- 7 地域支援教員の活動
- 支援の概要/読み書きができない小1男児の例/おわりに
- 第4章 指導の実際
- 1 幼稚園での指導の実際
- 1 保育環境の調整
- スケジュールの提示(一日の流れ)/朝の用意への配慮/出席調べの支援/終了時間を知らせる/靴の左右理解への支援
- 2 保育活動場面の支援
- 活動の説明や先生の話を聞く場面/制作などの場面
- 3 支援の実際例
- 状況の理解や人の気持ちがわかりにくく,初めてのことに参加できない子どもへの支援/相手の気持ちや状況がわかりにくい子(A児)と思いをことばにすることが苦手な子(B児)のトラブルへの支援
- 4 個別の指導計画のつくり方
- 到達段階をみる/できていないことだけでなく,できる場合などについてもみる/間違い方やでき方をみる/どんなときに起こるか,どれぐらい続くのかをみる/現在行っている教師の対応とその有効性をみる
- 2 小学校での指導の実際
- [国語編]
- 研究授業/国語科で養う言語能力の働き/今後の課題として
- [算数編]
- 百玉そろばんをつかってみて/繰り上がりのたし算・繰り下がりのひき算
- [体育編]
- 体育科・基本の運動指導案/授業から学んだこと
- [図工編]
- 子どもにとっての造形活動/発達段階にあった教材/気になる児童への具体的な支援/鑑賞学習について/造形活動を通して
- [個別の指導計画のつくり方]
- 作成のためのポイント/作成にあたって/目標・支援の手立てと評価
- 3 中学校での指導の実際
- [体育編]
- 基本的な考え方/スポーツへの準備段階/実際の指導の中で/実際の指導
- [個別の指導計画のつくり方]
- 作成の手順
- 第5章 人的資源の活用
- 1 教員補助者の活用
- [小学校編]
- 教員補助者の配置/ニーズの把握/情報交換
- [高等学校編@]
- 支援の概要/支援の期間及び状況/支援の内容/特別支援教育コーディネーター及び他の教員補助者との連携/今後の展望
- [高等学校編A]
- 個別支援と集団支援の取り組み/事例/まとめ
- 2 校内人的資源の活用
- [M小学校編]
- 校内研修体制の工夫から出発/教職員一人ひとりの特性・持ち味をフル活用!/まとめとして
- 3 スクールカウンセラーの活用
- どんな力が必要かを考える/具体的な支援/最後に
- 第6章 学校の組織力を高める
- 1 管理職の働き
- 1 管理職の果たす役割は極めて大きい
- 2 学校の現状と管理職の働き
- 3 M小学校での実践例
- 自ら『情報発信』する/『学びの場』をプロデュースする
- 2 コーディネーターの働き
- 1 B校での取り組み
- 特別支援教育校内委員会/コーディネーターの指名/コーディネーターの1年
- 2 組織力を高めるために
- 3 研修体制の確立
- 1 特別支援教育の視点での研修は,すべての学校に必要である
- 2 M小学校の事例から
- なぜ,特別支援教育の視点を研修に取り入れたのか/研修の「仮説」と「内容」/アセスメントの確立/「困っているところ」を軽減するための指導法の改善/低学年から発達のバランスを整える指導
- 3 まとめ
本書に寄せて
シリーズ「〈先進事例集〉地域の特色ある特別支援教育」の4巻目は,神戸市である。
2001年から徐々に始まった特別支援教育だが,神戸市は,LD,ADHD,高機能自閉症等の「知的障害のない発達障害」への対応に関して,早い時期から,しかも全国的に見ても最も独自で特色ある特別支援教育を推進し続けている自治体の一つであることは,関係者にはよく知られている。
神戸市の取り組みの主な特色は,「学びの支援センター」の設置,幼稚園における通級による指導,そして,近隣の多くの大学からの学部学生や大学院生の学校派遣などであろう。
全国に先駆けて設置された「学びの支援センター」は,発達障害のある子どもや教師・学校を支援する総合センターである。さまざまな専門家によって子どものアセスメントが総合的に行われ,その結果から,個別の指導計画を各学校が作成する際のガイドを各学校に提供し,各学校に出向いて必要なコンサルティングを行い,さらに必要に応じてフォローアップを行う,というシステムである。いわゆる専門家チームと巡回相談の機能をも含む,“発達障害のある子どもへの総合支援センター”といったところである。これが,大都市神戸のすべての学校をカバーする。神戸市の学校は,何と幸せな状態に置かれていることか。
二つ目の特色は,幼稚園においても通級による指導を行っていることである。幼稚園からの,発達障害のある子ども一人ひとりの子どものニーズをていねいに把握し,個に応じた指導を開始していることは,発達障害者支援法で記載された,早期発見・早期支援の具現であり,小・中学校での通級による指導へと引き継がれていく。
三つ目の特色は,近隣の多くの大学からの学部学生や大学院生の学校派遣であろう。神戸には多くの大学が集中しており,教員養成系,教育学系,心理学系,医学系など,学部学生や大学院生が学校に派遣されて補助員(ボランティア)として活躍している。場合によっては,教授などの指導教員が巡回する。このような仕組みを全国に先駆けて構築したのが神戸である。
本書は,校内体制のつくり方や,指導の実際について,小・中学校のみならず幼稚園や高等学校における取り組みについても紹介している。また,通級による指導では,神戸市が独自に設置している幼稚園における取り組みも紹介している。
最終章では,管理職の果たす役割の重要性や,特別支援教育コーディネーターの取り組みの実際についても記載している。
このように,本書には,特別支援教育にかかわる法的整備や国による種々の事業展開などの動向を踏まえつつ,神戸市独自の考えや方法を明確にし,特色ある取り組みを思い切ってしかもスピーディーに推進してきた成果を余すところなく盛り込んでいる。本書から,なぜ神戸での特別支援教育が成功したのか,どのようなやり方で成功したのか,について考え,そして,他の地域での特別支援教育を推進する際に少しでも参考になればと願っている。
2008年7月 兵庫教育大学大学院教授 /柘植 雅義
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- 明治図書